第423話 「観戦」
――そして時間は今へと戻る。
スレンダーマン達の戦闘は一方的と言っていい物だった。
スピードで撹乱して後ろを取ると慣れた動きで足の関節を破壊、直立できずに倒れた所を破壊力に優れた武器を持った者がとどめを刺す。
銃杖は撃ち込まれた瞬間に<照準>で弾丸の軌道を書き換えて射手へと送り返され、仕掛けた者は自らが放った弾丸に射抜かれて即死する。
施設の防衛を担う魔導外骨格や新兵器である銃杖はその欠点を悉く突かれ次々と突破されて行く。
「流石ですね。 話に聞いていた敵の戦力はそれなりに強大と窺っていたのですが……」
「は、あんなしょーもないでくの坊に儂の傑作が負ける訳ないやろうが」
戦場を俯瞰していたグアダルーペの感嘆に首途は当然と言った口調で返す。
「硬いが遅いデカブツに、魔法なしじゃまともに当たらんライフル。 あないな連中相手にどうやって負けろ言うねん」
「銃杖は彼等にも持たせていたのでは?」
「確かに持たせとるが使えるように作り直したったわ」
「そうなのですか?」
「見えるか? あそこや、そろそろ使うぞ」
首途が指差した場所で魔導外骨格の足が千切れ飛ぶ。
スレンダーマンの一体が発砲した銃杖の威力だ。
「二発か……思ったより硬いやんけ」
「……確かに至近距離で撃てば狙いは付ける必要はないと思いますが……」
「そうやろ? あの距離なら外しようがないし、口径をでかくしてショットガンみたいな運用するのがアレの最適解や。 弾も弄れるからな」
「弾? 魔石ではないのですか?」
グアダルーペの質問に首途は視線を動かさず頷く。
「おう。 射出に魔法を使っとるがぶっ放しとるんは特製の徹甲弾や。 いくら頑丈や言うてもその強度を越える硬度と運動量でぶん殴れば貫けるやろ」
その証拠に視線の先では次々と魔導外骨格の関節が、改造した銃杖の破壊力に屈して粉砕されている所だった。
首途は派手に暴れまわっている彼等の姿を恍惚とした眼差しで見つめている。
「首途殿?」
「なんや? 今ええところやからつまらん話やったら後にしてくれへんか?」
観戦に夢中でグアダルーペに視線すら向けない。
「いえ、私はあなたのお目付け役として呼ばれただけで、彼等に関しての情報を与えられていません」
「ほう、それで?」
「できれば彼等――スレンダーマンについて、教えて頂いても?」
首途が無言で頷く。
グアダルーペはそれを肯定と解釈して質問を続ける。
「ただの改造種ではなく、ロートフェルト様と首途殿が手ずから生み出したと聞いております」
「まぁ、概ね間違ってへんな。 もうちょい詳しく言うんやったらボディは兄ちゃんが組んで、全体的な設計と武装は儂が担当した形やな」
首途は小さく唸り、ややあって続きを話し始めた。
「まずは素体としてファティマの嬢ちゃんが実験用に確保していた連中を使うた。 戦闘行動を取らせるに当たってパーソナルな部分は必須やったからな。 戦闘経験が豊富な奴ほど何かと都合が良かったんや。 特にリーダーのイフェアスは元聖堂騎士っちゅう話やったからファティマの嬢ちゃんがえらく渋ってなぁ……結局、兄ちゃんに泣きついて許可を貰ったわ」
グアダルーペは小さく瞑目する。
主であるローがこの首途に甘いのは周知の事実だ。
その事もあって、ファティマは彼に強い嫉妬心を抱いている。 もっとも、彼女は私情に駆られて役目を疎かにするほど愚かではないので表面は取り繕っては居るだろうが、その心中は間違いなく穏やかではなかっただろう。
そう感じてグアダルーペは今後ファティマの前では首途の話題は絶対に振らないようにしようと固く誓った。 グアダルーペは保身に長けた女なのだ。
「次にボディやけどこっちは例のマルスランとかいう小僧――えーフラットウッズやったか?――をベースに組んで貰った。 見た目は鎧に見えるけど外殻っちゅうこっちゃな」
フラットウッズ。
聖騎士が変異した甲冑型のレブナントをローが改造した存在だ。
強固な外殻に高い身体能力を備えた強力な個体が多かったが、動きの鈍重さと言った欠点も存在した。
……とは言ってもその弱点も調整次第でどうにでもなる代物だ。
実際、ローは全体的なバランスを徹底的に見直す事によって弱点の大半を克服させていた。
最終的に防御力こそ落ちたが、総合力は大きく向上している。
「機能面――まずは足やけど、クラブ・モンスターに使用したツインヘッダをヒントに足に魔力駆動のローラーを装着。 施設に一気に取り付いたんはそれのお陰やな。 訓練に結構、時間かかったけど慣れればご覧の通りや」
首途はまぁ、スキーみたいなもんやろと付け加える。
それを聞いてグアダルーペは成程と納得した。
スレンダーマン達が今も使用している高速移動の秘密はそれか。
彼女の視線の先では魔導外骨格の周囲を二体のスレンダーマンが高速で移動して撹乱。
体勢が崩れた所で足の関節に銃杖を喰らって崩れ落ち、動けなくなった所で一斉に取り付いて内部の人間を引きずり出して血祭りにあげていた。 さっきから同じ手を使っているが魔導外骨格は来るのが分かっているのに対応できていない。 それだけ動きが洗練されているとも言える。
「……あいつら、捕虜取れっちゅう指示覚えとるやろうな……」
首途が不安げに呟いたのをグアダルーペはスルー。
何故なら失敗しても自分の責任ではないからだ。
そんな事よりと質問を続けた。
「あの施設の塀を越えたのは何ですか? 私には一瞬背中から何かが噴き出したようにも見えましたが……」
グアダルーペには肩甲骨の辺りから突き出している筒状のパーツから黒い何かが噴出したように見えた。
跳躍を補助する物にしてはやけに滞空時間が長かったと考えていたが……。
「あぁ……あれか。 天使の羽や」
「天使の……?」
「おう、例の魔石を利用した変異実験も当然やったからな。 天使モドキのサンプルは唸る程手に入ったわ。 それで色々分かってんけどな。 悪魔はそうでもなかってんけど、天使は変わった特性があって改造やらで手を加えれば手を加えるほど羽や光の環が濁るんや」
「濁る? それは色合いと言う意味ですか?」
「それもある。 兄ちゃんはもうちょっと深い部分で察してたっぽいけど、聞いたら存在自体に何かしらの変異が起こっているとか言うとったなぁ」
今一つ理解できなかったので、質問を変える。
「それは機能面では問題ないのですか?」
「散々テストしたけど、羽も輪っかも濁る前と後ではそう変化はなかったな」
問題ないと言わんばかりの即答。
首途はスレンダーマンに移植したら一瞬で真っ黒になりよったと付け加えた。
「あれは見た目こそ羽やけど、本来の機能は魔法行使の簡略化と増幅を担っとるらしいわ。 だから魔法を使う時だけああやって背中から出してやれば維持コストの魔力も軽く済むし、魔法の威力と起動速度もぐっと上がる訳やな」
その辺りは首途が思いついたらしく、語る口調はやや自慢げだ。
「顔も兜みたいな外殻で見えへんけど凄い事になっとんで? 額にデカい遠視の魔眼と左右に二対で二種類の魔眼を付けとるからな。 本人の特性に合わせてるから額以外はそれぞれちゃう奴が嵌まっとるわ」
配置にも気を使っているので見た目以上に視野が広いとの事。
加えて<交信>で密に連絡を取り合っているのでお互いが見えていなくても質の高い連携が取れるようだ。
「特定個体に統率を取らせずに群体として行動していると言った形なのでしょうか?」
「いや、五体で一ユニット、二十ユニット百体プラス一体での運用やな。 全ユニットをリーダーであるイフェアスが大雑把に纏めて動かすっちゅう形や」
つまり、最初に大雑把な作戦目的を設定し各小隊――ユニットが細かい調整を行いつつ行動。 判断が求められる場面に遭遇すれば上位個体であるイフェアスに指示を仰ぐ形になる。
「そのユニットのリーダーが倒れれば――」
「当然、ユニット内で序列があるから上が死んだらずれて作戦続行やな」
グアダルーペはなるほどと呟く。
確かに強い。 レブナント達もサブリナを筆頭に強力な個体は数多くいるがここまで方向性の定まった力を発揮する者達は意図してデザインしない限り現れないだろう。
初めからそう言った運用で生み出されただけあってスレンダーマン達は強力だ。
腕から炎や電撃等を吐き出す個体が散見される事から、ダーザインから接収した悪魔の部位を移植した個体も数多くいるのだろう。
加えて、銃杖や首途謹製の武装――クラブ・モンスターや変形機能を省略した量産型のザ・コアを振るう物までいた。
個人の適性に合わせたと言っていた所から、ローが記憶を読み取って本人にとって最適な構造と武装を選択されたのだろう。 本人の才能や持ち味を最大限活かした改造種――それがスレンダーマン。
素晴らしいとグアダルーペは素直に絶賛した。
目の前の戦果を見ればケチのつけようのない戦いぶりだからだ。
「後は腰についてるやつやねんけど――」
「あの……首途殿?」
「なんや?」
「あれは何ですか?」
説明を遮ったグアダルーペのやや困惑の乗った声に首途は訝しみながらその視線を追うと――
「……はい?」
思わずそんな声を漏らした。
同時に緑色の炎が施設の一角で噴き上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます