第405話 「熟考」
さてと考えて俺はベッドに寝転がる。
ここはドゥリスコスに宛がわれた奴の屋敷の一室だ。
何とも妙な雲行きになったが何かと都合がいい。
旅を続ける上でやっておきたい事もあったからな。
何かと言うとテュケの残党処理だ。
アメリアを仕留めた以上、牽引する奴がいなくなり相応の損害となっているはずだが、組織自体が消え失せた訳じゃない。
頭は挿げ替えればいいだけの話だし、蜻蛉女がまだ生き残っているのでまた鬱陶しく絡んでくる可能性は捨てきれんので、ここらで後腐れなく処分しておきたい。
首途の見解では連中は大規模な工場のような施設を所有しているのでどこかの国とかなり深い付き合いをしているとの事だ。
ここ、アラブロストルは大陸で五指に入る大国だ。
かなり疑わしいので通る前に調べておきたい。
魔導外骨格とか言う妙な代物を抱えている事もあるし、当たりである可能性は高いな。
ドゥリスコスの話だと長年の研究の成果らしいが凄まじく胡散臭い。
差し当たっては国の中央は少し調べておきたいな。
連中の施設があるようなら潰してから次へ向かいたい。
蜻蛉女が居れば最高だが同時に面倒でもある。
どこまで俺の事を言いふらしてくれたのか尋ねる必要があるからだ。
……拷問は余り得意ではないんだがな……。
転生者には洗脳は効果がないので、痛めつけて吐かせる必要がある。
腰にぶら下がっている剣に意識を向けた。 最悪、こいつを使えばどうにでもなるか。
例の黒い炎で炙って適当に痛めつければ、素直になってくれると信じたいな。
身体から離せないので邪魔で仕方がないが、武器としてはそれなり以上に使えるので我慢しよう。
……何とか剥がす方法も見つけんとな……。
その後はなんとかザ・コアを分離させて、それが終われば首途の工房送りだ。
使えても鬱陶しく纏わりつく呪いの品は要らん。
さてと天井を見ながら思考を切り替える。
考える事はドゥリスコスの事だ。
依頼を請けたのは路銀を稼ぐ建前の為って事になる。
ザリタルチュの一件で無駄に目立ってしまったので、適度に冒険者ギルドに行って依頼を請けて金を稼いでいるアピールをしておかねばならなくなった。
最初は別にいいだろうとは思ったがファティマがうるさいので仕方なく動いたのだが……。
まぁ、定期的に依頼を請けるだけで厄介事を避けられるのなら安い物だと納得はしている。
請けた当初は行って帰るだけの簡単な仕事かとも思ったが随分とややこしい事になっていた。
奴に話した事に嘘はない。
襲って来た連中は間違いなくドゥリスコスの兄貴の手下で、目的は奴を仕留めて適当に証拠を残す事によって十一区の商会に罪を擦り付ける事だ。
内心で首を傾げる。
仮にドゥリスコスが殺されたとして、首尾よく連中の仕業にできたとしても横紙破りをして他所の区で商売していたのはドゥリスコス自身だ。
完全に被害者面をするのは難しい。
そうなると奴の兄貴とやらの思惑が分からん。
何が狙いだ? ドゥリスコスから聞いた話と襲撃して来た連中から抜いた記憶を見る限りそこまで馬鹿ではないように思えた。 そんな奴が俺でも分かる程度の事を理解できていないとは思えない。
考え方を変えよう。
まぁ、結果と分かり易い事実を並べると考えられるのは対立関係を作る事……か?
要は喧嘩を吹っかける理由作りだ。
そう考えるのなら分からんでもないが、わざわざそんな事をする理由は何だ?
この国の成り立ちを考えるのなら正解かは別として、理由は何となくだが想像はできる。
民主主義を是としている以上、他所からの非難を避ける為と言った所だろう。
簡単に言うと仕掛ける建前だな。
それにしてもそこまでして他所の商会と険悪な関係を作りたがる理由は何だ?
さっぱりわからん。
ただ、はっきりしているのはエマルエル商会でドゥリスコスの価値が恐ろしく低いと言う事だ。
こんなにあっさり切り捨てられるとは憐れな奴だな。
本来ならこういう面倒事は回れ右して避けたい所だが、先々の事を考えると首を突っ込んでおいた方が良さそうと判断したからだ。
……どちらにしてもこの国の事情に明るくない上、色々と知る意味でもこの騒動には興味がある。
それにこの騒動、過程がどうであれドゥリスコスが迎えるであろう結果はある程度の想像がつく。
だからこそ最後まで付き合うと決めたのだが……。
小さく息を吐いて余計な思考を追い出す。
どちらにせよ今回、俺は外様だ。 精々気楽にやらせて貰うとしよう。
そこまで考えて思考が空白になる。
考えるのは自分の事だ。 筥崎は言った。 俺の正体は亡者だと。
やつの言葉は正しい。 俺は死ぬ為に彷徨っている。
いや、そう考えるのならそもそも生きているかも怪しいか。
内心で小さく自嘲。
結局、俺がジェイコブの言葉に引っかかりを覚えたのは奴の言葉が正しいと無意識レベルで気が付いていたからだ。
それに奴はこうも言った。 望みを探せとも。
筥崎も同様の見解を見せていた所を鑑みるに、これこそが俺に与えられた命題と言う奴なのだろう。
取りあえずザリタルチュへ行っては見た物の、得た物と言えばこの鬱陶しい魔剣と辺獄という土地の秘密の一端だけで、俺にとっての収穫とはとてもじゃないが言えなかった。
魔剣も魔剣で無尽蔵に力を振るえたのは辺獄内部のみで、外に出たら供給が途絶え、結局自前の魔力を消費する事になったので微妙さに拍車をかけている。
一応は自前で魔力を生み出してはいるので、燃費と言う点では軽くなったが、身体から離せないと言ったデメリットが全ての利点を遥かに上回っているので最後は邪魔くさい剣という評価に落ち着いてしまうのだ。
小さく嘆息。
時間が空くとつまらない事ばかり考えてしまうな。
ドゥリスコスの部下が実家に着くのは数日、そこから探りを入れるのに更に数日。
事態が動くまで十数日と言った所か。
奴の兄貴がどう動くか次第では少し前倒しになるかもしれんな。
それまではここでダラダラ過ごすとしよう。
サベージとソッピースの方は現状問題なさそうだし、人間に見つからずに過ごせと念を押してあるのでそうそう見つかりはしないだろう。
何かあれば報告しろとも言ってあるので動きがあれば俺に連絡が来るはずだ。
フォンターナの時はそこまでではなかったが、この近辺は国境という明確な仕切りがあるので、街や村との間の距離が近く窮屈な印象を受ける。
見方を変えると土地を上手に使っているとも言えるな。
その点、ウルスラグナはアープアーバンという隣接する危険地帯があるが、国とは隣接していないのでその辺は気楽にやれたのだろう。
仮に国境付近に砦を作ったとしても余所を刺激するような事態にならんしな。
だがこっちはそうはいかない。
アラブロストルが国境付近に戦力を集めるような真似をすればフォンターナはともかく隣国のチャリオルトは刺激すると面倒な事になるらしい。
ドゥリスコスから聞いた話と得た知識によると、余り仲がよろしくない上に険しい地形で攻めるのが難しく守るが容易いと言った面倒な場所のようだ。
研究内容から察するに軍備の増強を主軸に置いているようなので、もしかしたら将来的に攻める予定でもあるのかもしれんな。
チャリオルトは次に回る予定なので出る前にもう少し情報は集めておきたいが……。
一応、前知識もあるし今はいいか。
この様子だとしばらくは暇そうだし、しばらくは記憶の精査やこの鬱陶しい剣の運用に関してでも考えておくか。
俺はぼんやりと思考をシフトさせながら目を閉じた。
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