第391話 「処理」

 「なるほど。 これは中々使えるな」


 俺は第二形態にしていた魔剣を戻しながら小さく呟く。

 恐らくだがこいつは以前にアメリアが使っていた剣の同類だろう。

 どう言う仕組みでザ・コアを吸収して機能を再現しているかはさっぱり分からんが使えるなら問題はない。


 有用性は目の前の光景が証明しているからな。

 大きく抉れた大地に黒い炎が点々と燃え、それにより発生した煙が空に立ち昇っていた。

 あの後、知りたい事を知った俺は街に侵入した聖騎士共を皆殺しにして、魔剣本来の能力を使用。

 

 この剣の本来の用途は殺傷ではなく苦痛を与える事にある。

 魔力を変換して無尽蔵に生み出す黒い炎は魔剣に備わっている怨念を凝縮した物で、触れた者に凄まじい激痛を与えるようだ。


 その炎は死体に取り付いて動かし生者の下へ向かい爆散。

 更なる苦痛を広げると言った性質の悪い能力まで持っており、とにかく誰でもいいから痛めつけてやりたいと言った衝動が形になった代物だ。


 代償としてなのか常にガンガンとやかましく自分を使え使えと喚き散らすが、さっき派手に殺しまくったお陰か今は大人しい。

 能力の試し撃ちついでにザ・コアの第二形態も使ってみたが、紅の熱線が闇色に変化していた。


 威力自体は多少向上したぐらいだが、驚いた事に燃費が良い所か消耗しなくなったのだ。

 どうも剣自体の魔力で発射を賄っているようで、俺の魔力が全く減らない。

 その上、本体の強度が跳ね上がっているので冷却の必要すらなくなった。 もっとも壊れたら壊れたで全く問題はないが。


 ……試しに使ってみて何となくだが分かって来たな。


 この剣の魔力はどこから来ているのかがだ。

 恐らくこの土地自体から魔力を吸い上げて利用しているのだろう。

 その為、これだけ派手に大盤振る舞いが出来るのは辺獄の内部限定と見ていい。


 外に持ち出せば自前の魔力で機能の使用と維持の為の魔力を賄う必要が出て来る。

 

 ……まぁ、それは今までと変わらんから問題はないな。


 本体の強度が跳ね上がったので多少の無理が利くようになった分、プラスと考える――。

 内心で鼻を鳴らす。 いや、うるさい分マイナスだな。

 価値で言うならザ・コアに大きく劣る。 剥がせるようになったら首途のラボに送ってやるからな。


 出来ればどうにかしてザ・コアと分離させたい所だが……これは諦めた方がいいのかもしれんか。

 そんな事を考えながら薙ぎ払った荒野に視線を向けると――おや?


 微かだがいくつか動いている連中が居るな。

 耐えるとは頑丈……と言うよりは運が良かった感じかね。

 まぁいい。 さっさととどめを刺しに行くとするか。

 

 俺が焼けた死体の雨を降らせた後、砲撃で薙ぎ払った場所は地面が大きく抉れており、黒い炎があちこちで燻るように燃えていた。

 死んだ奴の大半は原型を留めていなかったが、生きている奴は幸か不幸かちょっと焦げてだけで済んでいた。 もっとも、炎に触れてしまったお陰で苦痛にのた打ち回っているが。


 別に恨みとかもないし痛めつけるのは趣味じゃないので、動いている奴を手近に居る順に楽にしてやった後、捕食。

 ついでに使えそうな持ち物や金銭も頂いておこう。

 足がつかなさそうな奴は売ればいいしな。 逆につきそうな奴は捨て置けばいい。


 サベージとソッピースに周囲を見張らせて逃げようとする奴が居たら報告するように指示。

 その間にのんびりと生存者を探してとどめを刺していく。

 呻いている奴の首を刎ねて、頭部を捕食。


 こういう時、剣は便利だな。

 ザ・コアや左腕ヒューマン・センチピードじゃ大味過ぎて粉々にしてしまうから解体が楽だ。

 か細い息を吐いて助けを求める冒険者らしき男の首を刎ねる。


 虫の息の女の心臓を貫いて息の根を止める。

 這って逃げようとしていた男の首を踏み折った。

 ぷちぷちと死にぞこない共を楽にしてやっていたが、仕留めた数が五十に届きそうになった辺りで少し面倒になったのでサベージに手伝わせて処理を行っていたのだが――


 途中でソッピースから報告かが入った。

 何人かがこそこそと集まっているらしい。 どうやら奇襲をかけるつもりのようだな。

 まだ動ける奴が居るとは大した物だ。


 死体の陰を移動して俺を取り囲むようにしている。

 数は――五、六……十三か。 結構多いな。

 まぁ、来るなら返り討ちにするとしよう。


 ……どうせ、ここから逃げる事なんて無理なのだから。

  

 気配の動きが止まる。

 包囲が終わったか。 ならそろそろ来るかな?

 風切音がして足元に矢が突き立つ。


 同時に足元が発光。 矢に何か仕込んでいたのか。

 地面から炎の鎖が伸びて瞬時の俺の全身に絡みつこうとするが、素手で引き千切る。

 

 「くっ! 魔法の拘束を素手で剥がすだと!?」


 剣を構えて向かって来た奴が拘束を解いた俺をみて声を漏らす。

 おや? 聞き覚えのある声だと思ったらシシキンじゃないか。


 「なっ!? ろ、ロー!? どう言う事だ!?」


 向こうも気づいたようで驚いている。

 ぐるりと周囲を見ると、突っ込んで来た前衛連中の半数はシシキンのお仲間だった。

 全員……ではないがほとんどが無事か。


 第二形態の砲撃を喰らってその程度の損害で済んでいるとは余程良い位置に居たんだな。

 運の良い事だ。

 まぁ、どっちにしろここで全員死んで貰う事にはなるがな。


 俺は答えずに手近に居た盾持ちに<榴弾>を叩き込む。

 命中して爆発で盾ごと上半身が吹き飛ぶ。

 サベージがこちらに向かおうとしていたが、死に損ないの処理を優先しろと伝えて下がらせた。

  

 「何故だ! 俺達の敵は辺獄種共だろう! 人間同士で争っている場合じゃ――なんだその剣は……」


 シシキンは魔剣に視線を向ける。

 ザ・コアは目立つから、なくなっている上に妙な剣をぶら下げているんだ。

 気にはなるだろうな。


 「その禍々しい気配……まさか操られているのか!?」

 

 ……んん? 何を言ってるんだ?


 シシキンの言葉に内心で首を傾げる。

 別に操られてないぞ? 操ろうとはされたが。

 どう思われようと心底どうでもいいので特に勘違いを正さずにだらりと剣を構える。

 

 残りは十二人。 前衛九、後衛三。

 念の為にソッピースに確認させるが周囲に伏兵の類はなし。

 死んだふりをしている連中も居ないようだ。


 周囲に居る連中で全部か。

 残りは虫の息でサベージがとどめを刺して回っている。

 要はここの連中を片付ければ大手を振って外へ出られると言う訳だ。


 ……悪いがここで全員死んでくれ。


 ――第三形態。


 そう言えばこの形態にすると自立行動を取ってくれるのだろうか?

 柄から黒い靄の塊がザ・コアの形状を取る。

 同時に第三形態と同様の形状に変化して柄から分離。


 刃を見ると普通にあるな。

 なるほど。 こうなるのか。

 

 ……それにしても……。


 このうるさい剣はどうやら意地でも俺から離れない気のようだ。

 まぁ、使えるならいいか。 剥がせるようになるまでは我慢しよう。


 ――殺せ。


 分離したザ・コアに擬態した靄は口から百足状の触手を吐き出しながら手近な冒険者に襲いかかり始めた。 待っているだけでいいような気もするが、逃げられても追いかけるのが面倒だ。

 俺も適当な奴を仕留めるとしよう。

 

 後衛と前衛四人が靄の相手をしているので残りは五人。

 シシキンは剣、奴の婚約者とやらは後衛のようで靄とやり合っている。

 気になるのかチラチラとそちらに視線をやっていた。


 残りは槍が二人、剣が一人、最後の一人も剣だが、鞘に納めて短杖を向けて来る。

 支援に回る気のようだ。

 流石に赤だけあって連携は取れているようだが、冒険者の域は出ていない。

 

 聖堂騎士や転生者に比べれば脅威度はそう高くないな。

 

 「あの剣を狙う。 最悪、腕を切断すれば無力化できる筈だ!」


 シシキンの見当外れの指示を聞き流しながら魔剣を第一形態に変形させる。

 ザ・コアの形状を模した靄に分裂した刃が絡みつくように周囲を回転。

 余り重さを感じないそれを手に連中に真っ直ぐに突っ込んだ。

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