第337話 「迎撃」
「貴様が魔物を操っているのか?」
騎士の質問に俺は肩を竦める。
「そうか。 ならば貴様を捕えた後に吐かせるとしよう」
騎士は流れるような動作で槍を構える。
「ウルスラグナ王国近衛騎士団「青槍騎士団」団長、リロイ・レストル・ライオネルだ。 せめてもの礼儀だ。 賊よ名乗るがいい」
名乗る必要性を欠片も感じなかったので武器を抜いて応じた。
騎士――ライオネルは俺に名乗る気がないと判断して戦闘態勢に入る。
周りは……動かないな。 一人でやる気か?
全員で来ればいい物をと思いつつ、こいつを仕留めれば後は楽だなと内心で皮算用をする。
「――しっ!」
鋭い突きが飛んでくる。
手の中で滑らせているようで思った以上に良く伸びる突きだ。
身体を傾けて回避、同時にザ・コアを起動。 手の中で唸りを上げて回転を始める。
流石に姿は誤魔化せてもこの距離で音は無理だ。
ライオネルも俺の武器が見た目通りの大剣ではなく、魔法で姿を誤魔化した何かだと悟ったようでバイザーで隠れてはいるが視線をザ・コアに注いでいるのが分かる。
……そんなに気になるなら近くで見たらどうだ?
俺は真っ直ぐに踏み込んで上段からの振り下ろし、当然ながらライオネルは後ろに跳んで躱す。
ザ・コアが床を粉砕して破片をまき散らす、流石に驚いたようで息を呑む気配がする。
持ち上げて追撃をかけると同時に
不可視の百足共はギチギチと口腔を鳴らしながら獲物に喰らいつこうと迫る。
ライオネルは小さく唸り、槍を回転させて弾く。
槍は薄く輝いて百足の接近を阻む。
……あれは?
それを見て小さく眉を顰める。
明らかに魔力を使って何かしらの効果を発揮しているにも拘らず、魔法を使っている気配がない。
槍の能力かとも思ったが、見た感じ業物には見えるが魔力付与をされていないようだ。
変わった技を使う。
恐らくはトラストの使っている技術に似た物だと思うが……。
実際、俺も使えはしたが、何故か最近上手く発動しなくなった謎の技術だ。
体術と魔法の合わせ技だと言う事は薄っすらと察してはいるが、今一つ理解が出来ていない。
感覚的な物である上に理屈が分からない代物なので知っている奴がいるのなら是非とも頭の中を見せて貰いたい物なのだが……。
……余裕があるなら狙うとするか。
このライオネルという男の実力は知れた。
見えない筈の
クリステラやサブリナに比べると技量や判断力で一段も二段も劣る。
加えて、数度防がせた感じから、攻めや守りがややパターン化している傾向が見えた。
それは苦戦した経験が少ない事の証拠でもある。
こう言う奴は経験上、想定外の手に弱い。
俺は
だが、狙いはライオネルではなく遠巻きにしている野次馬達だ。
数人の首が宙に舞う。
「……なっ!?」
同時に手近に居る奴の部下を絡め取って釣り上げる。
突然の事に釣り上げられた騎士が悲鳴を上げたが、俺は構わずにそのままライオネルに投げつけた。
「くっ!? 卑怯な!」
受け止める事は不味いと判断したのか放物線を描く部下を後ろに跳んで躱す。
そう来る事は読めていた。
ザ・コアの破壊力を見た後なら間合いに入る事を嫌がるのは目に見えていたからだ。
俺は真っ直ぐにザ・コアを突き出して突っ込む。
ザ・コアは落下直前の騎士の肉体を粉砕してそのままライオネルを間合いに捉える。
ライオネルは更に下がろうとしていたが、さっきから下がってばかりいたので壁があって逃げられない。
左右に躱すには遅い。
ならどうする?
取った手段は俺の考え得る限り最も下策だった。
前に踏み込んでのカウンター狙い。
魔法で身体能力を瞬間的に上げて懐に入る気だったんだろうが――。
ザ・コアの先端を躱したライオネルとバイザー越しに目が合った。
奴は紙一重で攻撃を躱して俺を仕留められると確信しているようだ。
その目には経験と実力に裏打ちされた自信が垣間見えた。
――が。
「な……」
その動きがガクリと鈍る。
ザ・コアに近づきすぎて魔力を吸われた結果だ。 お陰で身体能力を上げていた魔法の効果が切れ――。
――ぐしゃりと嫌な音がしてライオネルの頭がザ・コアの回転に巻き込まれた。
一度捕まればもうどうにもならない。
次の瞬間、奴は血煙になってその残骸が周囲に飛び散った。
「……あぁ、しまったな」
思わず呟く。
頭を潰してしまったじゃないか。 これじゃ記憶を喰えん。
まぁ、いいかと思い直す。 出来れば欲しかったが必須ではない。
「だ、団長!」
ライオネルの部下達は口々に団長団長と喚いているが、今更何を言っているんだ?
もう聞こえてないぞ?
「よくも!」
そう言って斬りかかってくる奴をザ・コアで血煙に変えてから周囲をぐるりと見回す。
ライオネルが殺られて多少腰は引けているが、逃げる気は無いようだ。
それは助かる。 一人残せばいいだけだしな。
俺は喚きながら襲いかかって来る連中を眺めつつそんな事を考えた。
「なるほど、ここの構造は良く分かった」
俺はそう言うと最後に残った青槍騎士団とやらの生き残りを捕食。
耳から侵入してストローで啜るように吸い尽してやった。
干物みたいなった騎士を投げ捨てて先へ進む。
その場に居た奴は残らず喰ったので腹具合は落ち着いたし、ついでに静かになった。
この王城はでかい図体にも拘わらず、侵入できるルートはそう多くない。
窓があるのは上層階のみで、下層も正面と裏口以外に出入り口はなし。
恐らく王族専用の隠し通路の類はあると思われるが流石に一介の騎士の知識にはなかった。
道も部屋の数に比べて少ないのは侵入された際に迎撃しやすくする為だろう。
俺は真っ直ぐに奥を目指す。 特に妨害や迎撃も受けずに奥へと進む。
歩きながらふむと考える。
ここまででさっきの連中以外と戦闘にならなかった事から察するに、この先の広場で待ち伏せされているだろう。 記憶によればこのさきは上層に上がる為の階段がある広場だ。
わざわざ少数相手に狭い廊下で戦うのも馬鹿らしいし、地の利を活かすのは当然だろう。
廊下を抜けて広場へ出ると予想通り精鋭と思われる連中が待ち構えていた。
結構な数を揃えているかとも思ったが、意外な事に少ないな。
全部で六人。 内二人は豪奢ではあるが真っ当に作られているであろう鎧。
恐らくは近衛騎士団の精鋭だろう。
だが、問題はそれ以外の連中だ。
残りの四人は特徴的な造形の鎧に全員目立つ位置にグノーシスの紋章。
聖堂騎士――全身鎧と言う事を差し引いても体格が妙だ。
間違いなく全員異邦人……要は転生者だろう。
そう多くないと聞いていたが、四人とは随分と集中させたな。
……そうなるとアスピザル達の方はほとんどいないと言う事になるな。
これは当てが外れたか。 何の為に同時に仕掛けたのやら。
考えても目の前の連中が消えてなくなる訳じゃないので、諦めて始末する算段を脳裏で整える。
まず、近衛騎士はさっきの奴と同程度なら脅威度は低い。
「騒ぎに乗じて侵入者があると聞いてたけど、ほんとに来るとはなぁ……」
最初に声を上げたのは背中にでかい被り物をしているようなデザインの鎧を身に着けた奴だ。
声からして男。 それにしても頭から被っているアレは何だ?
見た感じ甲羅に見えるが……石切の同類? いや――。
サイズの所為で思い出すのに間があったが、恐らくアレだ。
「あー……いいからさっさと始末しようぜ……。 あー……だるい」
次に声を上げたのはだるそうにしている男だ。
階段の手摺りにもたれかかっていて明らかにやる気がない。
こちらは形こそ人型だが、両腕が妙に長い。
……人型の動物?
人間ベースが珍しい事を考えると猿の類か? これは分からんな。
「ほら、しゃっきりする! お仕事でしょう?」
その隣で窘める女は完全に人型。 こちらも正体が不明。
最後に――。
「どう言う目的で来たかは知らんし興味もない。 だが、通るというのなら叩き潰させて貰う」
正面で仁王立ちしているリーダー格っぽい男は全体的に太い。
いつか仕留めた豚とは違う、堅牢さを窺わせる太さだ。
そして頭部の特徴的な角、恐らくバッファローって奴だろう。
頭の中でどう戦うかを組み立てながらザ・コアを構える。
「ふむ。 押し通る気か。 面白い」
バッファローがそう言うと背に差していたハルバードと持っていた大盾を構える。
ダンゴムシはメイスを女はレイピア。
だるそうにしている男は手を握ると指の隙間から刃がせり上がって来た。 鉤爪か。
残りの近衛騎士達も剣を抜く。
「聖堂騎士"
バッファロー――加々良は名乗ると真っ直ぐに向かって来た。
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