第301話 「掃除」

 夜の街を無言で歩く。

 アスピザル達には外の空気を吸って来ると言って出て来た。

 雲が少ないから月が良く見える。


 流石、王都だけあって、昼間に比べて少ないが人の往来は多い。

 開いている店は少ないが、歩くだけならその方が何かと都合がいいからな。

 基本的に俺はアスピザル達を信頼してはいない。


 裏切らない信用はしていたが、それも少し怪しくなってきたようだ。

 

 ……とは言っても連中の考えもそれなりにではあるが理解できる。


 切り札の転生者の大半を失い、組織は内部分裂のお陰でガタガタだ。

 だからこそ、俺を酷使せざるを得ない。

 その結果がこの状況だ。


 まぁ、理解も納得もしよう。

 だが、素直に従うかはまた別の話だ。

 その辺を踏まえての行動なんだが……。


 ……来ないな。


 恐らくだが、俺達が街に入ったのはバレている可能性が高い。

 こうして別行動を取れば襲って来る物かとも思ったが……。

 一応、意識して人気の少ない所を通っては見たのだが、襲ってくる気配も監視の気配もなし。


 俺の考え過ぎか?

 歩きながら首を傾げる。 考えながらも足は自然と見た事のない個所へと歩みを続ける。

 どこへ向かっているのかと言うと、元スラムだった現在は再開発中の区画だ。


 例の大規模魔法で綺麗に消し飛び、更地になったと聞いていたが今は建造途中の建物が立ち並んでおり、随分と様変わりをしていた。

 犯罪者予備軍の連中が居座っていた土地を使えるようになったので、住居や店舗を作って盛大に売りさばこうとしているのが良く分かる力の入れ具合だ。


 流石に夜間は作業を行っていないのか人はほとんどいない。

 適当に見て回ると……おや?

 さっきから使っていた<地探>に何かが引っかかった。  


 何故だと思ったがあぁと納得。

 建物がなくなったから連中、上から降りて来たか。

 どうやら他の探知系魔法には引っかからなかったようだな。


 数は六人か。 魔法道具やらで姿を隠しているのだろう。

 まぁ、俺を捕獲したいだろうし別行動取れば出て来ると思っていたが、初日からとは手が早い。

 予想はしていたが行動は完全に筒抜けか。


 この様子だと、宿も押さえられていると見ていいだろう。

 戻るのは止めだな。

 さて、ここで気になるのは尾けて来ている連中の正体だ。


 ダーザインはもう使えない以上、テュケは自前で人員を用意しなければならない。

 聖騎士? ないな。 連中はこの手の行動に向いて居ない。

 まぁ、審問官とかいう汚れ専門の連中が居るらしいが、簡単に動かせる物じゃない筈だ。


 ……そうなると自前で用意した人員?


 さて、こんな簡単に隠密行動がとれる奴がほいほい用意できる物なのかね?

 疑問は尽きないが、直接聞けばいいだけの話だな。

 近くの物陰に入ると同時に<茫漠>で姿を消す。


 少し歩いていい位置に陣取る。

 足音が微かに響く。 整備が進んでいない場所だ、足元は砂利が多く足音は完全に消せない。

 反応と足音で位置は分かった。 一人いればいいし後は要らん。 さっさと死ね。


 左腕ヒューマン・センチピードを一閃。

 手近の奴の首を刎ね飛ばす。

 血が派手に噴き出して崩れ落ちる。 おや? 爆散しない?


 ならなおのこと好都合だ。

 一人残す必要がない。 皆殺しにして頭に直接聞けばいいだけだからな。

 最近は死体が残らなかったり、そもそも記憶が引き抜けん奴が多かったからこれは楽でいい。


 そこらのチンピラよりは動きはいいが、それだけの連中だ。

 はっきり言って雑魚だったので、十数秒で皆殺しにしてやった。

 死体が周囲に散らばって大変な事になったが、喰えばいいし些細な事だ。


 さーて、頭に損傷の少ない奴はどれかな?

 俺はその辺に転がっている生首を拾い上げて耳に指を突っ込む。


 記憶を引っこ抜いて少し驚いた。

 どうやら俺を襲って来た連中は「魂の狩人」。

 以前に俺を襲って来た連中じゃないか。 何とも懐かしい。


 流石に雇い主などの重要な情報は入っていなかったが、依頼内容は俺の捕縛だった。

 必ず生きて捕らえるようにと念を押されていたようだ。

 その証拠に連中は麻痺毒やら睡眠薬やら意識を奪うような薬剤や毒が塗ってある武器しかもっていなかった。


 まぁ、詳しい事は下から掃除して辿るとしよう。

 俺は死体を綺麗に平らげて痕跡を魔法で綺麗に消し去った後、その場を後にした。

 一応、アスピザルにはこちらの動きがバレている事を連絡し、しばらくは別行動を取る事を一方的に伝えて連絡を終了。


 前にもやった事もあるし、記憶を頼りに片端から拠点を襲うとしよう。

 街のゴミも掃除出来て俺の食費も浮いて一石二鳥だな。

 さーて、どこから襲うか。


 俺は頭の中で地図を広げた後、連中の手近な拠点に足を向けた。

 


 いちいち、拠点を襲うまでもなく連中の正体は明らかになった。

 セバティアール家。 ウルスラグナ王国の一等公官――要は公務員だな。

 一等は国の重要ポジションである特等を除けば最高位だ。


 領主を任される奴は大体この地位にいる。

 王都内での権力はそれなりの物だ。

 さて、この連中なんだが表向きは人材派遣業を営んでいるらしい。


 商隊や要人の護衛、店の従業員や用心棒など、多岐に渡る。

 それと並行して自前の商会を持って様々な物を売ったりと随分手広く商売をやっているようだ。

 判明した理由は簡単だ。


 記憶にある拠点の大半が連中の持ち物で、表向きは巧妙に誤魔化しているが記憶は嘘を吐かない。

 

 「……大した事を知っている奴は居なかったか」


 俺はぐるりと周囲を見回す。

 ここはさっき仕留めた連中が使っていた拠点なんだが、皆殺しにして記憶を引っこ抜いた所だ。

 もそもそと連中が保管していた食料を頂きながら、記憶を検めていた。

 当然ながら死体はさっき平らげたので血痕は残っているが綺麗な物だ。


 取りあえず、今日はもういい時間なのでここで時間を潰すか。

 適当な部屋に入ってベッドで横になる。

 眠れはしないが休んだ気にはなるので、目を閉じた。

 



 翌日。

 適当に金目の物だけを頂いて拠点を後にする。

 その後、頂いた物をオラトリアムの息のかかった店で換金して近くの店で朝食。

 

 ぶらぶらと街を歩く。

 尾行を皆殺しにしたので流石に追加は来ていないだろうし気楽な物だ。

 さて、定時連絡の為の拠点も潰したしバレる前に次を潰すとしよう。


 取りあえず、次の拠点をどうにかすればしばらくは尾行を気にしなくて済む。

 何故なら下っ端共を統括する連中がいる場所だからだ。

 表向きはセバティアール家が運営する雑貨店だが、裏では暗殺者共を仕切っている事務所を兼ねている。


 表を覗くと随分と繁盛しているように見えるな。

 用事があるのは裏なので建物の裏に回る。

 搬入口を兼ねているのか入り口は広く。 警備の人間が数人。


 一人も逃がす訳には行かないので手を増やすとするか。

 グロブスターを人数分生み出して物陰に隠す。

 堂々と近づき、連中の注意がこちらに向いた所で襲わせる。


 変異はさせない。

 寄生して乗っ取るように指示。

 どうせ大した事は知らんだろうし記憶を抜く必要もない。


 その場に居た連中は抵抗しようとしたが、接触された時点でどうにもならん。

 悲鳴を上げようとしたが魔法で音を消してそれを許さない。

 十数秒後には肉体の掌握を終えたグロブスター達が微妙に体を痙攣させながら整列していた。


 「中へ入れろ」

 「ハい」


 ……うーん。 何かイントネーションがおかしいな。


 やはり体を乗っ取って無理矢理動かしている事の弊害か。

 動きも悪いし、戦闘に参加させるには向かんな。


 まぁ、その場しのぎだしいいか。 後でもう一匹寄生させて変異させておこう。

 寄生させた連中を伴って中へ入る。

 場所は来た事ある奴の記憶があるから問題ない。

 

 責任者の部屋までそのまま通り、ノックもなしに踏み込む。

 

 「な、何だね君は!?」


 どうも商談中だったらしく責任者と一緒に偉そうな顔したおっさんが居た。

 見覚えがないな。 関係者じゃなさそうだしこっちは要らんな。

 魔法で外に音が漏れないようにして、左腕ヒューマン・センチピードで首を刎ねる。


 残った責任者は驚愕に目を見開くが口の辺りを掴んで根を送り込んで洗脳。

 びくびくと体を震わせていたが完了。

 えーと? こいつ名前何だっけ?

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