八章

第201話 「復興」

 様々な人が忙しそうに行き交うのをあたし――聖騎士見習いのジョゼはじっと見ていました。

 季節はようやく春の足音が聞こえて来たと言った感じでしょうか?

 厳しい冷え込みも緩和され、最近では少し暖かい風が吹くようになりました。


 周囲には壊れた建物とそれを修繕、または解体作業があちこちで行われています。

 最初は戸惑いもありましたが、時間が経つにつれて見慣れて来ました。


 あたし達が今いるのはノルディア領、領都のオールディア。

 普段居るメドリーム領から離れた所にあります。

 何故こんな所に居るのかと言うと、それはある事件が切っ掛けであたしがお世話をさせて頂いている聖堂騎士クリステラ様にある聖務が与えられたからです。


 内容はここ、オールディアが謎の黒雲に覆われているのが目撃されたので、それの調査と言う事になっていますが、グノーシスはその黒雲の正体を知っていたようで、えっと、名目上?は調査となっていますが、正確には黒雲を起こしている悪魔をやっつけ――いえ、討伐する事が目的となっています。


 ただ、黒雲を作り出せる悪魔はその全てが、とっても強いらしく、普通の聖騎士では難しいので聖騎士の中でもとっても強いクリステラ様にお声がかかったそうです。

 ただ、現れるであろう悪魔はとっても強いらしいので、クリステラ様は軍勢を率いてオールディアに向かう事になったのでした!


 これをグノーシスでは奪われた地を取り戻す聖なる行軍『聖地奪還レコンキスタ』と言います。

 オールディアに向かう為にクリステラ様の旗の下に集まったのはなんと二千名!

 それに加えて他にも同様の聖務を帯びた聖堂騎士様達が集い、最終的にはもの凄い大軍勢と成りました!

 

 凄い!

 そして――遂にオールディアに辿り着いたあたし達の前に待ち受けていた物は――。

 瞬間、後頭部に衝撃を受けてあたしは思いっきり前のめりになってしまいました。


 「い、痛いよ」


 振り返ると同僚のサリサが拳を震わせていました。

 

 「ジョゼ……あんたね。 私はメドリームに送る報告書を書きなさいって言ったのに何で演劇の煽りみたいな内容になってるのよ?」

 「え? でも起こった事をそのまま書きなさいって……」

 「……確かにそう言ったわ。 ええ言いました。 でもね余計な記述が多すぎるのよ! 後、とってもって何よ!? これ報告書よ!?」


 サリサはあたしが書いた紙束をぺしぺしと叩いてそう言ってきました。


 ……え~。 あたしなりに頑張ったんだけど、そんなにダメかなぁ……。


 「はぁ……。 まぁいいわ。 後でちゃんと見てあげるから一緒に仕上げましょう。 そんな事よりそろそろ定例会議が始まるから行くわよ」

 「え? あ!?もうそんな時間!?」


 危ない! 聖堂騎士様達が集まって話し合う重要な集まりがあるんでした!

 報告書の事ですっかり忘れていました! 教えに来てくれてありがとうサリサ!

 やっぱりサリサは親友です!


 「……もう、世話が焼ける子ね」


 サリサが呆れたような声を出しながら歩き出したので、あたしは慌ててそれを追いかけました。






 「では、本日の定例会議を始めましょう。 議長は私、聖堂騎士クリステラ・アルベルティーヌ・マルグリットが、議事録の作成は私の従者サリサ・エデ・ノエリアが務めます」


 クリステラ様がそう言うとその場にいた全員が異論はないと頷きました。

 会議室は中央に巨大な円卓とその周囲に椅子が並んでおり、参加者がそれぞれ腰かけています。

 ちなみにあたしが居るのはクリステラ様の斜め後ろで、有事の際は盾となる立ち位置です。


 ……要らないような気もしますが。


 場所はグノーシス神学園、現在はここに拠点を構えて様々な事を行っています。

 建物自体が半壊しているので今は再建の途中で、元に戻るのは来年以降になるとか……。


 「まずは街の復興状況の確認をゼナイド聖堂騎士、お願いします」

 「はい」


 そう言って立ち上がったのは青みがかった髪を肩口で切りそろえた美人さんで、ゼナイド・シュゾン・ユルシュル聖堂騎士です。

 髪よりやや淡い色合いの鎧と、腰には豪華な意匠が施された細剣。

 

 クリステラ様も凄い美人さんですが、この方も凄いです。

 元々はどこかの領主の娘さんだったとかで、やっぱり身分が高い人は美人さんが多いんですかね!?


 「現在は損壊した家屋の修復、整理等を引き続き行っていますが、前回報告した通り圧倒的に手が足りません。 それと申請した増員の件ですが…」

 

 クリステラ様がサリサを一瞥します。

 彼女が小さく頷いたのを確認するとゼナイド様に向き直りました。


 「その件は既に連絡済みで、準備が出来次第、順次送り出すそうです」

 

 それを聞くとゼナイド様はほっとしたような表情を浮かべました。

 

 「助かります。 人数次第ですが、年内には損壊した建物の撤去と解体に目途が立ちそうです。 ただ、再建や修繕にはまだかかると思われ――」

 

 その後、一通りの進捗を話すとゼナイド様は着席しました。

 クリステラ様は大きく頷くと次の話に移ります。


 「では次、住民の件についてマルスラン聖堂騎士、お願いします」

 「はい」


 立ち上がったの栗色の髪にはやや幼さが残った顔の男性で、優し気な表情にはやや疲れた感じがします。

 マルスラン・ルイ・リュドヴィック聖堂騎士。

 十代の若さで聖堂騎士にまで上り詰めた天才と言われた立派な方です。

 

 「仮設の住居に関しては先日、全員分揃い、仕事と給金を与える事で不安等もある程度の払拭は出来たかと思われます。 ただ、老人や身障者等、労働力になり得ない民からは不満はありませんが、援助が打ち切られる事の不安があるようです」


 淀みなく報告をしていますが顔はわずかに赤いので、緊張しているのが丸分かりでした。

 あたしも経験があるので何だか親近感を覚えます!

 仲間ですね!

 

 「分かりました。 近日中に冒険者ギルドが再建される予定なので、そちらの関係で何かできる事や割り振れる仕事がないかを相談してみましょう」

 「ありがとうございます!」


 マルスラン聖堂騎士はやや上ずった声でそう言うと席に着きました。

 クリステラ様は少し微笑ましそうに彼を見やった後、次の聖堂騎士様に視線を向けます。


 「では物資の集積状況をグレゴア聖堂騎士、お願いします」

 「応!」


 そう言って立ち上がったのは岩のようなごつごつした顔つきの全身鎧の男性でした。

 グレゴア・ドミンゴ・グロンダン聖堂騎士。

 つい先日合流してくれた聖堂騎士様で、前回の聖務の際に負傷されていたのですがここでの出来事を知って駆け付けてくださったと聞いています!


 ……聖騎士の鑑のような方ですね!


 経験も豊富で、皆の手本となる立派な方です。

 私も見習わないと!


 「物資の輸送だが、建築資材や食料等の生活用品は順次送り出している。 ……とは言っても状況はゼナイド殿と同じように人手がまるで足りん。 我等だけで賄うのが難しいので、輸送の護衛に冒険者を雇おうかと考えているが、一考願いたい」

 「いえ、考えるまでもありません。 この後マルスラン聖堂騎士の案件を伝えに行くので、この件も合わせて冒険者ギルドの方へ持って行こうかと思います」 

 「おぉ、ありがたい。 これで少しは部下を休ませてやれる! 感謝するぞクリステラ殿」

 「いえ、こちらこそ配慮が足りずに申し訳ありません。 どうもグノーシス内の物資や人員のみで片付けようとするのは良くない考えですね……」


 クリステラ様が自嘲するように力のない笑みを浮かべます。

 

 「いやいや。 我等とて同じ事。 こちらも余裕がなくなって初めて思いついた案なのだから、人の事は言えんな!」

 

 グレゴア聖堂騎士様の豪快に笑います。

 それに釣られてか、他の面々も苦笑を浮かべました。

 あたしも少しだけ笑みをこぼします。 

 

 「ありがとう。 あなたが加わってくれた事をとても心強く思います。 では最後になりますが、地下の遺跡の件の報告をお願いします。 エルマン聖堂騎士」

 「あいよ」


 立ち上がったのはなんと言うか普通のおじさんと言った感じの人です。

 覇気のあまりない表情に疲労を張り付けており、黄緑色の立派な鎧が何故かみすぼらしく見えてしまうのが不思議でなりません。


 エルマン・アベカシス聖堂騎士。

 三十代後半で聖堂騎士に抜擢された熟練の聖堂騎士様です。

 経験だけならグレゴア様より豊富との事ですが……。

 余り話を聞かないのでちょっと良く分からないです!

 

 「構造やら何やらの件は前回報告した通り、見て回ったので把握した。 隠し通路の類の漏れも恐らくは無いはずだ。 今、ウチのもんに詳細な見取り図と報告書を書き起こさせているから数日中にそっちに提出できると思う」

 

 それを聞いてクリステラ様は小さく息を吐きました。

 

 「一先ず、遺跡の件は完了と言う事ですね」

 「あぁ。……にしても最初に聞いていた物とは完全に別物だったぞ。 ここの担当はヴォイドの筈だよな。 あいつが気が付かない訳がないんだよなぁ…」


 エルマン様はふうと溜息を吐きました。

 ヴォイドと言う名前を聞いて他の方々も表情が重たくなります。


 「そのヴォイド聖堂騎士の行方は?」

 「探させてはいるが、芳しくないな。 そもそもここから出た形跡がない。 おかしいってんで、街の生き残りに話を聞いたが、聖務で街から出ていてヘレティルト聖殿騎士が代行を務めていたと来た。 ここらの聖騎士の動向はウィリードかここ…じゃなきゃ王都に報告が行くはずだよな?」


 エルマン聖堂騎士様の質問にクリステラ様は力なく首を振ります。

 

 「少なくともこちらにはありませんでした。 王都の方にも問い合わせましたが報告は聞いていないそうです」

 「すまぬ! 質問しても良いか!」


 二人の会話を遮るように声を上げて手を上げたのはグレゴア聖堂騎士様です。

 クリステラ様が少し呆気に取られたような表情でそちらに向き直りました。


 「はい。 何でしょうかグレゴア聖堂騎士」

 「この場では新参なので事情が呑み込めん、遺跡と言うのはここにあった古代遺跡の事と言うのは分かるのだが、詳しい事情が分からん。 軽くで構わないので説明を求めたい!」

 「そうですね。 整理も兼ねて説明しましょう」


 クリステラ様は遺跡についての話を始めました。

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