第153話 「準備」

 ゴブリン達が絶句している横を通って、シュドラス城へ向かう。

 森に比較的近い、この城を前線基地として使用する事にしたらしい。

 

 「おかえりなさいませ。ロートフェルト様。……随分と大所帯になりましたね」

 「あぁ、使えそうだから連れて来た」


 城の前で待っていたファティマが俺が連れてきた連中に視線を向ける。

 ゴリグラウアー率いる、ゴリベリンゲイの群れだ。

 仕留めた後、根を撃ち込んで連れて来た。


 「取りあえず、方針について話をするから代表を――」

 「既に城内の広場に集めております」


 用意の良い事で。


 「分かった。ならすぐにでも始めよう」

 「お待ちください」

 「何だ?」

 「その前にお召し替えを」


 言われて、自分の格好を確認する。

 ボロボロの服にコートを腰に巻いただけの格好だ。

 確かに着替えた方がいいな。

 

 ファティマの用意した服に着替えた後、連れて来たゴリラ達はその辺に放置して城の中に入る。

 以前に俺がぶっ壊した城門などは綺麗に修復されており、完全になかった事のようになっていた。

 中も修復が済んでおり、最初に見た時と同じ状態になっている。


 奥の広場へ行くと、アブドーラ達、各部族の王と代表が揃って待っていた。

 俺はおやと首を傾げる。


 ……何でこいつ等椅子やテーブルがあるのに立って待ってるんだ?

 

 考えている途中で気が付いた。

 ファティマの仕業か。

 別に座って待ってても怒らないよ?


 「待たせたね。全員座ってくれ。話を始める」


 俺の言葉にその場にいた全員が座り始める。

 出席者はアブドーラ、ラディーブ、アジード、ベドジフと言った各代表に護衛が数名。

 ファティマとその護衛、トラスト、アレックス、ディラン、ライリーに何故かついて来たサベージ。


 ……戦力になりそうな奴は全員集めたといった感じだな。

 

 全員が座った事を確認した所で始める事にした。


 「さて、早速だが本題に入る。俺はこれからエルフの里を攻めようかと思うので、皆に協力して貰う。ちなみに拒否は許さない。全員強制参加だ」


 アブドーラが凄まじく嬉しそうな顔で拳を握っている。

 

 「そんな訳でこれから戦力を整える準備期間に入る。アブドーラ。今後は監視のみに専念。ダラダラやる気はないので準備が出来次第、一気に攻める。構わないな?」

 

 アブドーラは大きく頷く。


 「質問しても良いか?」


 そこで手を上げたのはベドジフだ。

 背が低いから距離あると分かり難いなこいつ。


 「何かな?」

 「時間が惜しいというのならすぐに攻めても良いのではないか?」


 ベドジフはライリーの方を一瞥。

 

 「戦力は十二分に足りていると思うがのう?」

 「良い質問だ。その話をこれからしようと思っていた所だ」


 俺は森の中で見た物を順番に説明していった。

 仕掛けられた罠、ダーク・エルフの話、エルフとハイ・エルフの関係。

 そして最後にグリゴリについて。


 流石のアブドーラもグリゴリの話は初耳であったようで随分と驚いていた。

 他の面子も疑ってはいないが信じがたいという表情をしている。


 ……とは言っても根を撃ち込んだ連中は疑う事すらしないがな。

 

 「グリゴリ。それが本当の敵と言う訳ですね」

 

 ファティマの言葉に頷く。


 「あぁ、アレが戦場に出てきた時点で詰む。だからこそ早めに攻める必要があるが、今のままでは返り討ちと言う訳だ」

 

 数を揃えた所で、あの光線の前には戦線なんて容易く崩壊するのは目に見えている。

 逆に数を突っ込んで撃ち切らせるというのも考えたが、あの天使はグリゴリの一柱とか言ってた事を考えるとハイ・エルフの数だけあの化け物が現れるかもしれない。


 ……数に物を言わせただけの無策は流石に不味いな。


 「後は今後の具体的な動きについてだが……」


 ベドジフも納得したようなので、俺は話を続けることにした。 





 「お疲れさまでしたロートフェルト様」


 全体に指示を出し終えた後、城に宛がわれた一室で俺は一息つく。

 何故かついて来たファティマが俺に労いの言葉をかける。

 まぁ、こいつにも指示を出す必要があったので都合が良い。


 「用意して欲しい物がある」

 「何なりと」


 さっさと済ませたいので前置きなしで話を切り出す。

 

 「食料が大量に要る。最悪、例の果物でいい」

 「分かりました。ライリーの仲間を増やすのですね」

 

 本当に察しが良いなこいつ。


 「あぁ、それもあるが、ちょっと大物を造る必要が出て来たからな。とにかく量が欲しい」

 「分かりました。この後すぐにでも手配いたします」


 そのまま出て行くものかと思ったがファティマは微笑んだまま動かない。

 

 「……」

 「……」


 しばらく無言の時間が続いたが、やがて俺は根負けしたように息を吐く。

 

 「……ハイ・エルフについてどう思う?」


 俺がそう聞くと嬉しそうに目を細める。

 

 「先程の話を聞いた限りでの推測になりますが構いませんか?」

 「あぁ、頼む」

 「まず、そのグリゴリと言う羽虫の目的です」


 ……いや、羽虫って――まぁいいか。


 「随分と俺の体にご執心だったみたいだな」

 「それです。話によるとハイ・エルフの体を使って力を行使したようですが、完全ではなかった」

 「あぁ、その証拠に魔法を使う度に体がぼろぼろになっていったな」

 「恐らくはロートフェルト様の肉体であるならば自分達の使用に耐えられると睨んでいたのでは?」


 洗脳して配下にするんじゃなくて直接俺に憑依するつもりだったって事か。

 祝福がどうのとか言ってたから信者になれとか言ってるのかと思ったよ。

 正直、良く分からん固有名詞の乱舞で何言ってるのかさっぱり分からなかったが、よくよく思い出してみると受肉がどうのとか言っていたし間違いないっぽいな。


 そう考えると、ハイ・エルフって種族は奴らの憑依に耐えられるように品種改良されたものなのかもしれない。

 俺は内心、鼻で笑う。


 ……何が祝福だ。

 

 与えていると上から目線でほざいていたが、実際は自分達の目的の為の搾取じゃないか。

 エルフはハイ・エルフに操られ、そのハイ・エルフはグリゴリの傀儡と言う訳だ。

 連中にとっては理想郷なのかもしれんが、実際は徹底した管理社会。


 外への出入りを制限しているのもこの辺が理由か?

 余計な知恵や疑いを持たないようにしているとも考えられる。

 里で会ったブロスダン君が好奇心旺盛だったのもこの辺が理由だろうな。


 外の情報が極端に少ないからだ。

 

 「ロートフェルト様?」

 「あぁ、すまん。続けてくれ」

 

 おっと。考え込み過ぎたか。


 「それともう一つ。エルフが定められた領域から出てこない事もそれに関連しているものと思われます」

 

 俺は先を促す。


 「恐らくですがグリゴリはあの領域内でしか力を発揮できないのではないでしょうか?」

 「根拠は?」

 「ゴブリン達がまだ生き残っているからです」

 「あぁ、なるほど」


 そこまで言われて気が付いた。

 確かに、そこは俺も気にはなっていたんだ。

 連中が本気を出せば、シュドラスぐらいなら一日で落とせるだろう。


 十数人程使い潰す事になるだろうが、収支としては十二分に釣り合う筈だ。

 それが里に引き籠ってダラダラと防衛戦。

 何を考えているんだとは思ったが、出られない理由があると考えた方が自然だ。


 つまりグリゴリはエルフの領域内でしか出て来れず、出てくる場合はハイ・エルフを使い潰す必要があると。意外に弱点が多いな。


 「確かにグリゴリは強力な敵かもしれませんが敵わない相手ではないと思います」

 「そうだな。勝機が見えてきた気がするよ」

 「お役に立てましたか?」

 

 そう言いながらファティマは笑みを深くする。


 「あぁ、参考になった。お前が居てくれてよかったよ」


 目の前の女は満面の笑みを浮かべ「これから準備にかかります」と言って部屋を後にした。 

 

 ……何だろう――この言わされた感は……。


 何だか釈然としない物を感じた。





 さて、気を取り直して俺も動くとしよう。

 まずはシュリガーラ、ジェヴォーダン、コンガマトーの増産だ。

 加えて森林内で有利に戦える新種の創造。並行して俺自身の強化。


 最後に切り札の作成だ。

 俺以外にそれが出来ればいいのだが、残念ながら試しても無理だったのでこればかりは全て1人でやるしかない。

 要求される作業量と根の消費量を考えると頭が痛くなるが仕方がない。


 アブドーラに頼んで、地下の空間を空けて貰った。

 いつか俺が地竜の群れに袋叩きにされた所だ。

 広さも充分だし、材料も食料も充分に揃っている。

 

 増産と切り札、それと強化は目途が立っているのでどうにでもなるが、問題は新種の創造か……。

 どうした物かな。

 森で戦闘力を発揮できる物がいいんだが……。


 頭を捻る。

 何かないか?

 今までの戦いや出会った魔物の事を思い出したり、奪った記憶をひっくり返してアイデアを絞る。

 

 しばらく悩んでいると、ふとある物を思い出した。

 

 ……これは行けるか?


 少し考えて生体や体の形状をイメージする。

 うん。行けそうだ。

 その形状は森での戦闘に適しており、俺が求めるものとも合致する。


 固まったのなら後は形にするだけだ。

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