第83話 「光柱」
俺は足早に階段を上がっていた。
下で連中を仕留めた後、その場を一通り調べたが余り収穫はなかった。
あの空間は遺跡の一部ではあったようだが、遺跡へ向かう為の通路の類が見当たらないのだ。
……つまりあの空間は特別な用途に使う為だけの――まぁ、十中八九悪魔召喚だな。そう考えるとここ自体がそういう用途に使う為の施設なのだろうか?
色々と考えながらもしかしたら隠し通路の一つもあるかもしれないと探したが、結局見つからなかったので早々に見切りをつけて別の井戸から入る為に街へ戻る事にする。
片端から潰せば何か起こるだろう。学園の隠し通路もそう遠くないうちに何とかなるだろうし、これで連中を仕留める目途が立ったな。
ダーザインは死体が残らんから始末が楽でいい。
ただ懸念事項としては腐っているグノーシスの連中がどれぐらいのレベルでダーザインに傾倒しているかだ。完全に構成員へと成り下がっているなら死体は残らんだろうし、そうじゃないなら死体が残ってしまう。
記憶を吸い出す必要があるのでできれば一人は死体が残ってくれるとありがたいが、多すぎると今度は始末に困る。俺が喰ってもいいが、万が一露見した場合は証拠隠滅の為にこの街自体を滅ぼす必要すら出てきそうだ。
流石に何もしてない街の連中を殺す事には抵抗があるので、あくまでそれは最後の手段だ。
どうした物かと考えていると頭に声が響く。
――報告します。街でダーザインによる大規模な襲撃が始まりました。
外で待たせていたミクソンだ。
――何?
――黒いローブを着た大量の構成員が街で手当たり次第に住民を殺しています。
……随分と思い切った事をしているな。
――聖騎士は何をしている?
――街で鎮圧にあたっていますが、離反者が大量に出ており敵味方の区別が全くついておりません。それに加えて暴徒と化した住民まで殺し合いを始めており、完全に収拾が付いていない状態です。
――お前は大丈夫か?
――はい。今は身を隠して居るのでしばらくは問題ありません。勝手に持ち場を離れ、申し訳ありません。
――いや、お前に死なれると困るし、それは問題ない。
外は随分と凄い事になっているようだな。
俺はミクソンに無理はせずに情報を集めろと指示を出して<交信>を終える。
さて、俺はどう動くべきか。
ここまで派手にやっている以上、連中の計画もそろそろ大詰めだろう。
まずはハイディだな。
俺はサベージに連絡を取ると外の状況には気づいていたが指示がないので寝ていたなどとほざきやがった。
……何でこいつはこんなにやる気がないんだ?
まぁ、指示には従うし問題ないか。
取りあえず、サベージにハイディと合流して街から避難するように指示を出しておいた。
これで生きてさえいれば何とかなるだろう。
次に教会を調べているイクバルに確認してみたが、学園は調べたが見つかっていないとの事。
この後、信者以外は入れない大教会と、一般公開されている小教会を調べるのでもう少し時間が欲しいらしいのでそのまま任せた。
学園にそれらしい仕掛けがないなら怪しいのは大教会か。
なんせ関係者以外は入れないしな。これから調べに入るようだし答えはすぐに出るだろう。
そうこうしている内に出口に辿り着き、そのまま井戸から外へ出る。
……確かに酷い有様だな。
外に出てまず思ったのはそんな事だった。
かなり濃い血の臭いが風に乗って鼻腔をくすぐり、剣戟や魔法、悲鳴や怒号が耳に入る。
俺はそれらを無視して教会へ向かう。
さっきから考えてはいたが、こうなってしまうとチマチマ拠点を潰してもらちが明かない。
なら、まずは頭を潰して統制を取れなくしてから手足を潰す事にしよう。
幸か不幸かこの街の
このペースなら俺の用事が済む頃には随分減っているだろう。
後はその残りからダーザインの関係者を狩り出して、皆殺しにすればおしまいだ。
可能であれば俺に目を付けた理由とさっきの奴が俺の事を妙な呼び方をしていた事の情報を得たい所だが、難しいか。
街はどこを見ても住民や、聖騎士、黒ローブが元気よく殺し合っていた。
時折、俺に気が付いた連中が襲ってきたが当然返り討ちにする。
襲って来た連中の中に住民や聖騎士が混ざっていたが、仕留めると爆散していたのであぁ、聖騎士だけでなく住民にも化けていたのかと何となく察した。
……見分けがつかんな。
困った事に仕留めた何人かは爆散していなかったので、何とか見分ける方法を見つけたい物だ。
まぁ、死んだ連中は自業自得だな。
その後も、色々な連中が襲ってくるのでいい加減、面倒になり建物の屋根を伝って移動する事にした。
そろそろ教会が見えて来るといった所で、急に足元が揺れ始める。
次いで周囲で轟音。
俺は音の発生源を探るべく周囲に視線を向けると街のあちこちから紫色をした光の柱が大量に天へと伸びていた。
光は雲に触れるか触れないかといった所で止まり、先端から細い光が他の柱へ向かって伸びて行く。
伸びた光で繋がった柱が更に細い線のような光を放ち、空に謎の幾何学模様を描いて――あれって魔法陣か?何か細かい所に見覚えがあるぞ。
最後に街の周囲に光の壁が現れて現象は止まった。
……これは驚いたな。
俺は思わず空を見上げてしまった。
何とも幻想的な光景だったが、俺は少し危機感を覚えていた。
街の周囲に現れた光の壁は通り抜け出来るのだろうか?できないとしたら逃げられなくなる。
これは尚の事、敵の首謀者を仕留める必要が出て来たな。
俺は教会に向かおうとしたが、そこでおや?と思った。
空に描かれている魔法陣なんだが一部にぽっかりと穴が開いている。
最初はそういうデザインなのかとも思ったが、穴の周囲にある柱から伸びている光が中途半端に途切れている所を見ると未完成のようだ。
どうなってるんだろうと思ったが、穴の位置を見て納得した。
あそこ俺が調べた井戸の真上じゃないか。
何で機能しなくなっているのかは見当がついた。
俺が例の鉄籠の中身を持ち出したからか、あそこで作業する予定の人員を排除したか――まぁ、両方だろうな。
あの柱の下にあるであろう拠点をいくつか潰せば、上の魔法陣も消え失せるんじゃないかとも考えたが教会の方が先だな。親玉が居そうなのはあそこか遺跡だ。出入りの容易さで考えるなら怪しいのは教会だろう。
――報告します。
イクバルか。
――大教会にて隠し階段を発見しました。
いいタイミングで報告が入った。
そろそろ着くしさっさと調べよう。親玉がいてくれるとありがたいがな。
居ないなら次は遺跡へ向かうつもりだ。
近づいていく教会を視界に納めながら俺はそんな事を考えていた。
屹立する光の柱と空に描かれる謎の紋様を見て僕――ハイディは焦りにも似た物を覚えた。
何が起こっているのかは理解できないが、少なくとも危険であることは分かる。
「そこの君!」
不意に声をかけられたので振り返ると聖騎士が数名、後ろに住民を庇いながらこちらに向かって来ていた。先頭の聖騎士――いや、鎧が白くて立派だ。もしかしたら聖殿騎士なのかもしれない。
「君は――どうやらまとものようだな。おや、冒険者か?」
聖騎士は僕のプレートを見て冒険者と判断したようだ。
僕は聖騎士達の目を見ようとするが全員兜の面頬を下ろしているので顔が見えない。
見た感じまともそうだけど大丈夫かな?
「我々は住民を保護しつつこれから街から脱出するつもりだ。良かったら君もこないか?冒険者と言う事なら戦力としても当てにしたいのだが……」
正直、悪くない申し出だったけど僕は首を振って断る。
「ごめんなさい。まだ街に仲間が居るので僕だけ逃げる訳には行かないんです」
「君には悪いがこの状況では、仲間の生存は――」
「大丈夫です」
普通に考えれば死んでてもおかしくない状況だが、何でだろう?彼が死んでいるとは思えなかった。
なら彼を残して街を出るのは論外だ。僕は仲間として彼の助けになる。
「分かった。我々には何もしてやれないが、幸運を祈る」
聖騎士は僕が意見を曲げないと悟ったのか、少し気落ちした口調でそう言った。
僕は「お互い何とか生き残れるように全力を尽くしましょう」と言って一団と別れる。
すれ違い様に護衛されている住民の目を見たが、それぞれ疲労と緊張以外の無機質な物は見られなかった。
……こっちも大丈夫そうかな。
もしダーザインが混ざっているようなら厄介な事になりそうだけど、内側から崩される心配はなさそうだ。もし、妙な人間が混ざっているようなら忠告の1つもするつもりだったが、杞憂に終わってよかった。
一団が視界から完全に消えた所で思考を切り替える。
まずは彼との合流だ。
彼はどこへ行ったんだろうか?恐らく目的はダーザインの拠点。
遺跡が空振りだった以上、他の拠点を探しに行ったのだろう。なら場所はどこだ。
空に浮かんでいる紋様と光の柱に視線を向ける。
複雑な図形の組み合わせでそれがどういう意味を持っているのかは理解できないが、危険な物であるのは分かる。一部が不自然に欠けているのは気になるが分からないので棚に上げよう。
現状、怪しいのはあの光の柱の根本――いや、違う。
あれは今しがた発生した物だ。なら、彼が向かいそうな怪しい場所は……。
「教会か」
ダーザインとグノーシスの関係を考えるなら疑うべきはグノーシスの施設だろう。
他に怪しい場所も思いつかなかったので教会に向かう事にした。
駆け出そうとした僕の足を止めるように背後で爆発と悲鳴。
方角はさっきの一団が向かった方だ。
僕は咄嗟に足を止める。背後と教会を交互に見て…溜息を吐いた。
……また彼に馬鹿だと呆れられそうだな。
自分でも馬鹿だなとは思うけど見過ごす事は出来そうにない。
内心で苦笑して踵を返すと悲鳴の方へ向けて走り出した。
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