第96話 機密情報?的なアレの話
「じゃあ、改めて話すぞ」
「はい、はーい」
気持ちを切り替えるため、また場の空気を盛り上げるために、私はあえて元気よく返事をした。が、何故かカイくんからは、無言で冷ややかな視線を浴びせられる結果となった。
むぅっ、ちょっと反応がヒドくない……!? それは冷たいと思うな……!!
抗議の意味も込めた睨むような目でカイくんを見ていると、彼はそこからすっと目をそらして口を開いた。
「……えー、それで俺は今回
あ、逃げたね……!?
まぁ、本当ならもうちょっと文句も言いたいところだけど、今回は話もありそうなので一旦この辺にしておいてあげよう……うん、今回はね?
はい、私って優しい~!!
しかし機密の重要書物か……。
特例措置なんて
「でも重要書物ってどんなものなの? もしかして、どんな呪いでもバンバン解ける秘密の魔導書があるとか……」
「んなもん、あるか」
「だよねー」
もちろん期待していたわけじゃ無いけども、もし本当にあったらパク……じゃなくて、しばらく借りたかったんだけど残念だなぁ。
「ちなみに今回借りてきたものは特殊な術式を使って作った写しで、期日を過ぎると消えるので、借りパクしようとか考えるのは止めておけよ」
はっ、考えが読まれた……!?
そう思っているとカイくんは「お前の考えなんて、大方予想できるんだよ」と鼻で笑いながら言った。
な、なんだって!! いや、ごめんやっぱりそこまで意外でもなかったかも知れない。付き合いも長いし多少のことなら分かるのは、まぁ……でも、やっぱりまんまと予想されるのは悔しいかな!? むむ、私ももっとレベルを上げなくちゃいけないね……。
そんなことを考えつつも私は「えー、そんなことするわけないじゃない」となんでも無いかのように笑顔で返した。
しかしわざわざ消えるように細工までされた書物の写しか……。
「つまりそれほど重要な情報が書かれているってこと?」
「ああ、まぁ見ようによってはな」
見ようによってって……またずいぶん煮え切らない答えだね。
でも確かに情報ってものは、使いどころを間違うと全く意味をなさないから、そういう言い方も正しいと言えば正しいかも知れない。まっ何だかんだ言っても、実際の内容は知らないから、本当のところは分からないけどね?
「ついでに特定の人物以外は、この本を開けないし、開いてる本を見ようとした場合には、即座に内容が消滅するらしい」
「待って、それって扱いが完全に特級レベルの機密では!?」
いや、だって一口に機密情報と言っても色々あるし、私の予想ではもうちょっと緩めのアレかと思ってたから。
期日で本が消えるのも正直、返却期限を超えた持ち出しを阻止するためのアレかと……。
「だから特例措置で、特別に持ち出しが許可されたって言っただろ。俺も今まで存在すら知らなかったし」
「うん、確かに私も全く知らなかった……」
お父様に隠されていたのは分かりきっているけども……と思いながら、私がそう言った瞬間カイくんは流れるように「だろうな」と頷いた。
「ねぇ、なんでそこだけ間髪入れずに返事をするのかな?」
今までの会話にあった間が、今回だけ一切無かったのだけど……ねぇ?
しかしそんな私のことはサラッと無視して、カイくんは今まで持ち歩いていた荷物から布袋を取り出してを示しながら言った。
「まっ分かりきった話は置いておくとして……この魔術道具の袋の中に、今まで話をしていた超希少な書物があるというわけだ」
「分かりきった話って言うのは、おかしくない?」
「ったく、うるせーな……そこまで言うんならこっちの説明はやめにして、お前の悪いところを今から実例を交えて延々と説明するか?」
「……いらないです」
「それでよし」
なんか言いように言いくるめられた気がするけど、余計な昔話をされるよりはマシなので我慢することにした。
だって実例を交えた私の悪いところを延々ととか怖すぎない……?
ということで、話を戻そうか……そう、重要書物のことを話すんだ。
考えろ思い出せ、重要書物に関することを……。
「……あれっ、そう言えばずっとそれを持ってたなら、なんでさっき話した時に出さなかったの?」
「話す前にお前が部屋を飛び出したからだ」
「…………」
さっき自分がしたことを思い出す。お兄様と顔を合わせたくないがために、お父様との通信中にも関わらず『急用が』と言って転がるように部屋を飛び出した私…… 。
考えれば考えるほど私が悪いみたいじゃ…… うん、これはダメだ話題を変えよう!!
「いやー、しかしその超希少な書物って、具体的にどういう系統のものなの? さっきからそこには全然触れてないけども」
そう……先程から希少とか重要の部分は聞いているけども、その説明はイマイチ具体性を得ない。
だって一番大事なのって、中身の内容じゃないですか? そこが分からないのはさすがに困るかなって思ったんだけど…………さっきのこともあって、この質問で怒られたりしないよね?
急に小言タイムに入ったりしないよね……? ね?
私ができる限りの笑顔を作ってカイくんを見つめていると、彼は仕方ないとばかりにため息をついて口を開いた。
「それだけが全てではないが、おもに我が国で
あ、よかったちゃんと答えてくれた。
優しい。そういうところは好き。
うーん、でもしかし歴史書か……。
「普通の歴史書ではないんだよね……?」
「ああ、建国以来我が国の情報収集力の粋を結集して作り上げてきた歴史書……その一部が今ここにある」
わぁー、それは凄く過ごそう……。
いやっ、バカにしてるわけじゃなくて、本気を出した時のうちの情報収集力って世界でもトップクラスに入るのを知ってるから、純粋に凄いだろうなって思っただけだよ?
どれだけ凄いかは分かるので、なんならその秘密の蔵書がどこにあるのか、今すぐ知りたいくらいなのだけど……それは実家に帰ってからゆっくり探すとしよう。
話を戻すと今ここにあるのは、情報の精度が極めて高いという意味で希少な歴史書ってことか。となるとその
私が考えるのへ丁度被せるように、カイくんの声が聞こえてくる。
「該当箇所は、大地の大精霊の動向について最も分かる可能性が高い、このカストリヤを中心としたここ千年程度の西大陸の歴史だ」
「やっぱり!! って思ったけど、千年分は多過ぎでは!?」
確かに情報自体は有り難いけど、千年分のそれを調べるのは中々キツイかなって。何しろもっと少ない量でやった時ですら大変だったのに……。
「だから
「っ!? え……え、有能では?」
作業量を考えてげっそりしていた私は、その言葉を聞いて喜ぶより先に動揺した。
いや、だってカイくんが来るまでに、そんなに時間も掛かってないのに、必要な本だけをパッと選んで持ち出すなんて……凄すぎて流石にビックリだよ。
「何しろこれはアーク様の仕事だからな」
「は、え、お兄様が?」
出るとは思っていなかったお兄様の名前を聞いて、私は別の意味で更に動揺した。
「ああ、アーク様の頭の中に蔵書が全部入っていたお陰で、該当しそうな書物だけ即座に当たりを付けることが出来たんだ」
わぁーすごい、そっかぁ、お兄様が…………うん、それなら確かに納得出来る。
だって何故ならお兄様だから。それ以上でもそれ以下でもない。私の兄、アークスティードはそういう存在なのだ。
「だから、お前もアーク様には感謝しろよ?」
「ソウダネ……」
いや、感謝自体はしてるんだよ? だけどね、何故かお兄様の話をするだけで謎の寒気がするんだ。不思議だね……。
私がそんなことを考えてぼんやりしていると、目の前にずいとカイくんの手が伸びてきた。
ん、あれ? 持っているのは……。
「そんなわけで重要書物が入ったコレ、お前に渡しておくからしっかり調べておけよ」
「え、渡して置くってどうして?」
「ちょっと
「野暮用……?」
え、それって一体……。
でも私が詳しく聞くよりもさきに、カイくんはにやりと笑ってこう言ったのだった。
「だがまぁ、前がどうしても一人じゃ寂しいって泣くのなら側にいてやらないこともないけども……」
「むぅ!? いや、泣くわけないから好きに行っていいよ……!!」
私はイラッとして口を尖らせながら、カイくんが差し出していた荷物を受け取ってそう言う。
「あそっ、なら俺はちょっと出るわ」
「はいはいどうぞー」
「くれぐれも泣くなよ……?」
「だから泣かないからね!?」
え、むしろなんでそんなイメージになってるの……心外だな。
そうしてカイくんは笑顔のまま私の頭を軽く撫でると、ひょいと手をあげて部屋から出て行ったのだった。
む、今回は撫でたけどカイくんが髪をぐしゃぐしゃにしなかった……? 珍しい。
なんだろう、そういう気分だったのかな。
やや疑問が残ってしまった私は、一人首をかしげて、しばらくカイくんが出て行った扉を見つめていた。
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