第18話 魔術師の説明会 3

「流れで二つ目の案の説明もしてしまったため、三つ目……最後にして本命の案をお話したいと思います」


 そう、これこそが大本命であり。

 そして一番の懸念けねん事項だ。


「それは大精霊さまに直接頼んで呪いを解いてもらうというものです」


「待て、呪いをかけた張本人だぞ!!」


 間髪入れずに、アルフォンス様が声を上げた。勢い余ってついでに牙も剥き出しになっている。

 わーすごい、鋭くて格好いいなー……って思ってる場合じゃないな。


「だからこそですよ、呪いをかけた本人であれば間違いなく呪いを解くこともできます」


 まぁたまに呪いをかけることは出来るけど解けないとかいう馬鹿も存在するけど、大精霊さまに限ってそれはないだろう。というかその程度のいい加減な術者の呪いなら、その分術もテキトーになるから簡単に解けるのが普通だ。


「例えそうだったとしても、わざわざ呪いを解こうと考えるはずないだろう!?」


「ええ、だから大精霊様の考えを変えさせるのです」


「なにっ……」


「大精霊様が何を考えているのか当然私には分かりません。それでも大精霊様の行動が不自然であることだけは確信を持っていえます。改めて並べてみますと、まず人間に呪いをかけたこと自体、それに先程の話題に出した中途半端な呪いの隠蔽いんぺい、加護を授けるほど自分が気に入っていた森をわざわざ呪っている……どうみても異常ですよね」


 むしろこれを異常と言わないのであれば、この世に異常なんて一切存在しないと言っても過言じゃないと思うね。


「だが、呪いをかけた理由だけなら本人がわざわざ言ったじゃないか……?」


 私の言葉に同意できる部分もあったからか先程より落ち着いたものの、案自体への困惑は残っているらしいアルフォンス様が、戸惑いが滲む声音で尋ねてきた。


「そうですね。ですが、その理由だけでは長いあいだ人に干渉しなかった大精霊様がわざわざ動く理由としてはあまりにも弱いと思うわけですよ」


 大精霊様が口にした呪った理由は簡単に言えば、アルフォンス様の振る舞いがあまりにも傲慢ごうまんだったからということだ。

 大精霊は原則として人に関わるようなことをしない。長年貫いてきた、その原則を破るのに傲慢な人間がいたからなんて理由は明らかにおかしい。

 そんなことを言い出してしまえば、傲慢な人間なんて今も昔もいくらでも存在するはずだ。


「だから私は大精霊様が口にしなかった、もっと別の強い動機が存在するのは間違いないと思っております」


「別の強い動機……」


「そこでは私は呪いをかけた真の動機を解明し、その原因を解消することで大精霊様と和解することが可能であり、最終的に呪いを解いて貰うことも出来ると考えます!!」


 話の仕上げとばかりに私は堂々と言い切る。自分の提案を押し切るためには威勢の良さも大事だからね。

 気持ちよく言い切った私のすぐ頷いてくれるだろうという気持ちとは裏腹に、アルフォンス様はずいぶんと暗い雰囲気を醸し出している。

 アレ、暗くない……?


「そう言ってもらえてもだ、呪いをかけられて以降会おうとしても大精霊に会えたことは一度もない……これでは和解する望みもないだろう」


 その言葉を聞いて納得した。

 ああ、なるほどそこを心配して暗くなっていたのね。


「そこは私にお任せ下さい。大精霊様を呼び出す手段も見当がついておりますから」


 私が軽い口調でそう口にすると、アルフォンス様は一気に暗い雰囲気を吹き飛ばし勢いよくこちらをみた。ついでにその目はそんなに見開けるのかと、感心するほど大きく見開いている。


「ほ、本当か……!?」


 アルフォンス様の驚きようも無理はない、ただの精霊を呼び出すならともかく大精霊を呼び出す方法なんて普通出回るものじゃないからね。


「もちろん、嘘は申しませんよ」


「だが、一体どういう方法で……」


「それについては魔術師の秘術ということで詳しく説明することは出来ませんけれども成功させる自信はあります。……そのうえでお聞きしますが、アルフォンス様はこの案についてどうなさいますか?」


 細かい術の説明についてはあまり話せるものではないので軽く流して、今一番欲しい返答の催促さいそくを真っ直ぐ目を見て行う。


「……分かった、キミを信じて全て任そう」


 アルフォンス様が返答を出すのにそう長い時間はかからなかった。

 たぶん大丈夫だろうと思っていたものの、きちんと同意をもらえたことに内心安堵して微笑んだ。


「はい、精一杯勤めさせて頂きます」


 もうこれで話も終わりだなと思っていたところに、アルフォンス様が唐突に言葉を投げかけてきた。


「……前から疑問だったのだがリア、キミは一体何者なんだ?」


 彼の目に浮かんでいたのは純粋な疑問。

 確かに自分でもちょっとやり過ぎた部分があると思っていたので、それは仕方ないかもしれない。


「いえ、ちょっと優秀なだけの魔術師ですよ」


 幸い、こんな状況を想定して考えていた台詞もあったのでサラッと対応することができた。

 自分でいうのもなんだけど、ちょっとミステリアスでカッコいいかもしれない。


 当然、アルフォンス様は返答に納得していない様子ではあったが、ここでそれ以上追求されることはなかった。

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