第17話 魔術師の説明会 2

 私の言葉に部屋全体がにわかにざわついた。

 先程の説明の引き合いに毒という単語を使ったからという部分もあるだろう。そこについては申し訳なく思うけど、これ以上適切な例えがないのだから仕方ない。


「不安を煽りたいワケじゃないので先に言っておきますが、特別危険な要素が見つかったというわけじゃないのでそこは安心してください」


 こういう時は早めに、落ち着いて貰うのが一番。

 誤解されては困るので、心配する必要がないことだけはキチンと伝える。

 やや不安そうな雰囲気は残ったものの、静かになった。


「それでは皆さんの呪いについて詳しい説明をしたいと思いますが、その前に前提として皆さんの呪いはかけられた時点で分かる呪いです」


 大精霊さまもご丁寧に呪いをかけたと言ってくれているくらいだし、隠す気がサラサラないことは疑いようもない。


「ですが、その一方でその呪い自体を分からないように隠蔽する術も同時に掛けられていました」


「……それは一体どういうことなんだ」


「大精霊様は分かりやすく呪いをかけて下さったのに、呪いを隠そうという謎の手間をかけているということですね」


「何故だ」


「意図は不明です。しかし半端な実力の魔術師であれば気づけない程度の隠蔽はしてあります」


 だからこそ、到着当初の本調子じゃない私は呪いに気づけなかったというわけだ。

 自分でいうのもなんだけど、ずっと歩き続けた後、魔獣と戦いながら森をさ迷い、極めつけには嵐に晒されるという不運に見舞われた人間の調子がいい方がむしろどうかしている。

 私は悪くない。


「逆に言うとある程度の実力のある魔術師であれば見抜ける程度のアラがこの隠蔽にはあるんですよ。普通の魔法使いや魔術師ならただの実力不足で片付く問題ですが、この世の神秘の最高峰にいる大精霊が使った術にしてはあまりにもお粗末なものと言わざるを得ません」


 絶対に大精霊が間違うワケがないとは言い切れないけど、その可能性は限りなく低い。


「そのお粗末な術に反して、呪いのほうは今までに見たことのないほど緻密に組まれた魔術でしたよ。さすが大精霊様と言ったところですが、その落差のお陰で余計に違和感が増しましたけどね」


 本当に中身の呪いの方は素晴らしく良い仕事されているな、という感じだった。

 まぁ呪いである時点で良い仕事というのは相応しくないかも知れないけど、凄いのだけは間違いない。


「先程、私は大精霊様の意図は分からないと言いましたが、今の私には分からないだけで間違いなく何かしらの意図が存在していることは確かだと思います」


「なので、もし大精霊様が何を考えているのか少しでも心当たりがあればご相談下さい」


「……分かるわけがなかろう」


 そうですよね。

 もののついでに言ってみただけなので、あまり期待しているわけではない。


「とにかく大精霊様の情報は重要であるため、今の話に限らず少しでも情報があれば教えて下さい。どんな情報が役に立つかは案外分からないものですからね」


 ただコチラについてはちょっとだけ期待をしている、もしダメだったとしても自力で頑張るけどね。


「呪い自体の解説については一旦ここで区切って、お次は具体的に呪いをどのような手段で解くつもりかというのを簡単にですがご説明したいと思います」


 正直にいうとここまでは今から話す内容に持っていくための前置きで、ここからが本題なわけだ。さて、上手く納得してもらえるかな。


「その案は三つほどあるため一つずつ、説明していきますね。まず一つ目は私が呪いを分析して解くという方法です。かなり高度な術を使っているため分析に多少時間が掛かるかも知れませんが、必要に応じて協力して頂けると助かります」


「それはもちろんだが……」


 何故だろう、唐突にアルフォンス様の様子がどこかおかしい。

 この先が大事なのに……今の発言にマズい部分でもあったかな。


「……呪いを解く方法として大精霊が言ってきた真実の愛とかについてはどう考えている?」


 どうやら私が原因ではなさそうで一安心。

 確かに真実の愛とかいう言葉は人によっては、口にすることへ気恥ずかしさを感じるよね。当事者ならなおさらだろう。


「もちろんそちらについても考えてありますが、私はあまり重視しない方向性で考えております」


「……やはり、この姿では難しいからか」


「いえ、それは関係ありません」


 私がばっさりと否定すると、アルフォンス様は驚いたのか目を丸くしている。


「では何故だ?」


「正直にいって真実の愛という基準が曖昧で分かりづらいからです。きっとこれは恋愛的なものを指しているような気がしているのですが、親しい人に感じる親愛は真実の愛じゃないと言ってしまえば変な話になりますし……。もし恋愛感情だったとしてもどこからが真実の愛かが謎ですし」


 つまり自分がよく分からない確実性のないものだから、あまり力を入れる気にはなれないわけなんだよね。

 アルフォンス様は納得しているような納得してないような微妙な反応だ。


「一応、大精霊さまの言っていることなので全く無視する気はありませんけど。こちらの話については、上手くいったらラッキーくらいの心持ちで呪いで眠らされている囚われのお姫様でも探しておきますね」


「それはどこかのおとぎ話の話じゃないのか!?」


 そうそう、王子さまの口づけで呪いが解けるあれだ。題名は忘れたけど、同じような話がいくつか合った気がする。


「アルフォンス様の前例がある時点で存在は否定できませんからね。重視しないとは言いましたがちゃんと探しはするので安心してください」


「それは安心していいのか……」


 アルフォンス様が困惑した声を漏らすが、するべき説明はキチンとしたので無視して話を進めることにした。

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