物語の世界から追い出される
「時間切れです。終了」
先月ですが、原稿の最終チェックが終わって、梱包作業に入った時、頭の中にこの言葉がぽつーんと浮かびました。
今月発売予定の新刊の著者校正用ゲラで、編集さんに確認していただいた後で、印刷の行程に入ります。
「あ……あそこ、もっとこうすれば良かった!」と思いついたところで、もう何もできません。
自由に出入りができていたはずの物語の世界のドアが閉じて、外から覗くしかできなくなりました。
「杜ノ国」シリーズを書き続けた3年間が終わりました。
とうとう通算8冊目となる本の原稿を送り出しました。
はじめは「ゲラ」という言葉が何を意味するかも知らなかったし、「重版」も読めなかったし(じゅうばん??と呼んでいた)、「初稿」と「初校」の違いもわからなくて、編集さんにメールを打つ前に「初稿、初校、違い」と検索して確認する始末だったんですが、とうとう覚えましたよ。
(レベルが低すぎます、円堂さん…)
校正の時に使う校正記号だけは知っていましたが、本の著者ほどがっつり直した経験はなかったので、かなり鍛えられました。
それにしても、よくこんなところまで来たなぁ…。
ボーナスステージが何年も続いている気分です。
「杜ノ国」シリーズは、カクヨム他で公開していた「クマシロ」「雲神様」の後継として考えていた話でした。
どれも日本の古い時代を扱った話ですが、「クマシロ」は軍事と神話、「雲神様」は流通をテーマに書いてきて、どちらも、合理的な思想が祭祀を圧倒して、文明が栄えていく…みたいな内容だったんですよね。
私自身の考え方がそうだったので、そうなってしまったんですが、でも実際は、祭祀は当時の人たちにとってものすごく大事なもので、祭祀のためにあらゆるものが作られたり、歴史や文化が生まれたり、軍事と流通よりも、よっぽど人々の生活に根付いていたものでした。
…ということは明らかなのに、「いやいや祭祀なんて、人間の思い込みみたいなところがあるし~」という現代的思考で、「クマシロ」と「雲神様」ではないがしろに書いてきたのでした。
…ダメやん。
祭祀を書ききるまで、古代日本のことを書いたって言えないやん。
終われないやん。
となって、卒業制作のつもりで書こうとしたのが「杜ノ国」でした。
まず、日本の祭祀について調べ直しました。
弥生時代と古墳時代については「クマシロ」と「雲神様」を書いた時に調べていたので、その前の縄文時代、さらにさかのぼって旧石器時代を調べて、そこから古い神道に入っていって、伊勢祭祀、諏訪祭祀、そのほか現代まで伝わる各地の祭祀を調べて、ざっくり旧石器時代から中世までの祭祀について、自分で納得できるところまで調べました。
太陽が最高神ではない世界、というか、ヤマト王権が淘汰したかもしれない世界をつくりたかったので、日本神話ではなぜだかあまり光があたらない星についても、このころにはおおかた調べ終わって、自分なりに納得しました。
よし、じゃあ世界をつくろう!
となった後も、縄文時代にするか、平安時代にするかで最後まで迷いました。
「杜ノ国」は平安時代の話ですが(地方にある、朝廷とは縁の薄い架空の祭祀王国の話なので、続古墳時代的な感覚で書いていましたが)、もしも縄文時代の話にしていたら、ファンタジー部分がもっとワイルドだっただろうなぁ~と思います。
いつか必ず書くぞ!と思っていた話でした。
でもまさか、講談社文庫さんの作品として出させていただくとは……夢か???と、いまだに思います。
調べていたのは2019年からなので、書き出すまでに3年かかりました。
「雲神様」も「クマシロ」も似たようなものでした。
準備に3年くらいかけるのが、わたしはちょうどいいみたいです。
新作の準備は、書きながら平行しておこなうので、「杜ノ国」を書いていた間も次に書きたい話について調べていて、準備が終わっていた話があったので、いまはそちらを書きはじめました。
5万字くらい書いたところです。あと2週間くらいで書き上げたい。
「杜ノ国」を企画したころ、次は現代人によるファンタジーがくるんじゃないかなーと思っていたんですが、じわじわ増えてきていて、ちょっと嬉しいです。
遠い見知らぬ世界じゃなくて、現代に入り口があったり、現代人が主人公だったりする、現代人とどこかで繋がるファンタジー。
いまの人は、数年前ほど異世界へ逃げたがっていない…という感覚があります。
次にくる波も、がらっと変わる予感がします。
シンプルになるんじゃないかなぁ。
あと、二分化が進みそう。
…と、まだ表面化していない波を追いかけて遊ぶのが好きなんだな~と思います。
なんか、終わった感満載の話題になってしまいましたが、わたしの手元を離れた原稿「杜ノ国」シリーズの最終巻は、来週発売予定です。
企画当初からゴールに考えていたエピソードの巻になります。
見届けてやっていただけると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます