第11話 帝国の三人の魔女
二人と一緒に街道を進んでいて気になったのだけれど、町に近づけば近づくほど殺気を強く感じてしまっている。
戦闘経験が少ない僕ですらこれほどの殺気を感じて戸惑っているというのに、僕より戦闘経験が多いと思われるライトさんは全く殺気に気付いていないのか、それとも相手にしていないだけなのかはわからないが、いつでも殺せそうなくらい無防備だった。
僕がそのようなことを考えているのを感じ取ったのか、ライトさんはこっちを向いて微笑んでいた。
「あなたが感じている殺気の正体なんですけど、近くに行けばわかると思いますよ。僕達と一緒に居れば大丈夫だと思うんで、出来るだけ離れないでくださいね」
帝国の三大魔女と騎士がいるなら安心だとは思うのだけれど、僕に向けられている殺気は十や二十と言った数ではなく、誇張せずに行っても三桁以上の個体から殺気を浴びている気分になっていた。
「ほら、もう少しで不安に感じているモノの正体がわかりますよ。アイカ様もそろそろ起きてご自分の力で動いてくださいませ」
「う、ううん。私は起きてるよぉ。ライト君は私の事を怠け者のクソ女とでも思っているのかなぁ?」
「そんなことは思っていませんが、たまには地に足を付けて生活なさってはいかがかとは思いますがね」
「私だってしっかりしてるつもりだよぉ。ライト君だって融通の利かない性格だからいつまでたっても昇進できないんだよねぇ」
「お言葉ですが、それは事実とは異なります。私が昇進しないのは他ならぬアイカ様のためを思えばこそですよ。私以外の物がアイカ様付きの騎士となったとしても、アイカ様のワガママに付き合いきれるものなど誰一人いないと思いますよ」
「ライト君は『破壊と創造の魔女』みたいに巨乳のお姉さんが好きなんだもんねぇ。私みたいに胸が無い人は守り甲斐がないって感じかなぁ」
「そんなことは無いですよ。アイカ様は貧相なお胸をなさっていますが、それ以外にも魅力的な部分はたくさんありますよ。お胸は貧相だと思いますが、そんなことは問題じゃないです」
「あの、あんまりそう言うこと言うと泣くよ」
「も、申し訳ございませんっ。つい、思っていることを考え無しに発してしまいました」
ライト君はきっと駆け引きとか出来ない素直な感じの人なのだろう、昇進できないってのはそんな性格が災いしているような気がしていた。
泣きそうな顔をしていたアイカさんがこっちを向くと、僕の手を引いてライトさんを置き去りにするような凄いスピードで宙を駆けていった。
「おお、突然何をするんですか? ライトさんが凄い勢いで追いかけてきてますよ」
「大丈夫大丈夫、いつもこんな感じで急に飛び出してるから気にしなくていいよぉ。それに、ライト君もその気を出せば追いつけるもんだしねぇ」
宙に浮いた状態で手を引かれて鯉のぼり状態になっている僕ではあったけれど、後ろを振り返るとライトさんが凄い勢いでこちらの方へ走ってきていた。
このままだと町に着くまでに追いつかれてしまいそうだけれど、いつまでもあんなハイペースで走り続けられるわけもないだろうし、僕とアイカさんの方が先についてしまうだろう。
でも、先についてしまった場合は正体不明の殺気の主に殺されるのではないかと思ってしまった。
武器になりそうなものが複数欲しいところではあったけれど、この辺は街路樹一本生えていないくらい見通しが良いせいか、武器になりそうなものは何一つ落ちていなかった。
今のスキル構成では素手の僕なんて何の役にも立たず、すぐに死んであの場所に戻されるだけだろう。
町まであと少しというところまで来た時には、もうライトさんの体力は尽きたらしく走るのを諦めていたようだった。
アイカさんも移動スピードを落としてくれたお陰なのか、僕は早足に近い速度ではあるけれど、自分の足で大地を踏みしめながら歩いていた。
「ライト君もついてこないみたいだし、少しここで休んでいきますぅ?」
アイカさんがそう言って立ち止まると、いつの間にかベンチとテーブルが設置されていた。
何もない見通しの良い場所だったはずなのだが、僕はこのセットを見落としていたみたいだった。
「私は疲れていないけれど、あなた達は疲れてそうだしライト君が来るまでゆっくりしていようよぉ」
僕も空いている椅子に腰を落とすと、アイカさんはいつの間にか用意されていたティーセットを使って紅茶を淹れていた。
喉も乾いていたのでちょうどいいと言えばちょうどいいのだけれど、ここまで用意が万全だと、何かの罠かと勘ぐってしまう。
ちょうどお茶を淹れ終わったタイミングでライトさんがやって来たのだけれど、魔女を守る騎士のはずなのに何の躊躇いもなく椅子に座って淹れられた紅茶を飲んでいた。
僕が紅茶にも茶菓子にも手を伸ばさないのを不思議に思ったのか、ライトさんは変わらぬ笑顔で僕に進めてきた。
「これはアイカ様が淹れてくれたお茶と市販されているお菓子なので大丈夫ですよ。アイカ様は料理は出来ませんが紅茶を淹れるのは魔女の中でも上位に入るほどの腕前ですから」
「ライト君って私を手放しで褒めようとは思ったりしないのかなぁ? もっと素直に褒めてくれてもいいんですけどね」
この二人はお互いに素直になれないのだろうけど、熱々の紅茶に注がれているお湯はどこから持ってきたのだろう?
僕は不思議に思っていることを二人に尋ねてみた。
「ああ、そう言えばあなたは帝国の魔女の事を詳しくご存じなかったのですね。
それでは私がこの『時間と空間の魔女』であるアイカ様の紹介をさせていただきます。
アイカ様はその名の通り、時間と空間を操ることが出来るのです。
アイカ様はご自身で持てる者ならなんでもご自身が作り出した空間に保管出来て、自由に出し入れすることが出来るのです。
ただし、生物の場合は入れるだけで出すことが出来ませんので、あなたも間違えて空間に迷い込まないように気を付けてくださいね。
でも、身を守る必要があってアイカ様の作り出した空間に入る必要がある場合には、無事に出る方法が二つあります。
一つはアイカ様に触れている事でして、もう一つはこの『アルデの水晶』を持っている事です。
アイカ様の作り出した空間にとって生命エネルギーは食事みたいなものでして、隙さえあればエネルギーを搾り取ろうとしてきます。
それを回避するためにはアイカ様に認知されている必要があるのですが、その一つは直接触れている事によって存在が守られるのです。
アルデの水晶は宝飾品としての価値が無い代わりに通信装置としての役割が有名ですが、なぜかアイカ様の空間でもその機能が有効になっていて、結果的にはアイカ様に繋がっている状態になるのです。
どちらの状態も不可能な場合は死ぬまでに自力で出口を見つけるか、中に入っているアイカ様を見つけるしか助かる方法はございません」
「あの、『時間と空間』の『時間』の方はどうなっているんですか?」
「時間というのは我々が思い描く一般の時間という意味ではなく、寿命と言った方が政界に近いと思います。
人間に限らず、生きとし生けるものはみな細胞を持っていると思いますが、アイカ様の魔法では細胞そのものを生まれた状態に戻すことが出来るのです。
この魔法を使えば失われた腕や足なども再生させることが出来るのですが、この魔法を使うには大量の魔力が必要になりますので、使うのも数年に一度といった事になっております。
なので、ここであなたが私の腕を斬り落としたとしても、アイカ様は私の腕を再生させることは出来ないのです。
その準備に必要な魔力量は、我が帝国が一年間で消費する魔力とほぼ等しいともいわれております」
「それでしたら、『空間』の方の魔法はそんなに魔力を使わないんですか?」
「それはね、自給自足している時が多いから大丈夫なんだよぉ。空間に生き物を入れたらエネルギーを搾り取ろうとするんだけど、その搾り取ったエネルギーは空間を運営する魔力になるんだよね。だから、私が『餌』を入れ忘れなければ問題ないんだぁ」
「『餌』ってのは?」
「基本は生きている怪物であったり、害獣の類ですね。私達は月に一度補充しに出かけているのですが、今はちょうどそれの帰りだったのですよ。それに出くわすなんてあなたは運がいいのか悪いのかわかりませんね」
大丈夫、そう言っているライトさんの目の奥はしっかりと笑っているようだ。
「さて、そろそろ喉の渇きも潤ってきたので、町に帰るとしましょうか。あなたが感じていた殺気の正体がいよいよ判明するので、お楽しみに待っていてくださいね」
ライトさんの目も口もしっかり笑っているので大丈夫だとは思うのだけれど、何とも拭いきれない不安が僕の全身を包みこんでいるようだった。
「私は帰ったら何しようかなぁ。とりあえず、美味しいもの食べに行きたいなぁ。転生者のお兄さんも一緒に何か食べに行こうよぉ」
「あ、はい。僕も何か食べたいのでぜひ。と言いたいのですが、泊まる場所を探しておかないと不安でして」
「ああ、それならご安心ください。我が帝国領には各地に転生者様向けの住居を用意しておりますので。今から向かうユカタウンには現在転生者様はいらっしゃらないのでお好きな住居を選択してもらえますよ」
「それはありがたいです。帝国のために頑張らないといけないですね」
僕は少し冗談っぽくいってみたのだけれど、ライトさんにはちゃんと伝わっていないようだった。
「なんと、あなたも他の転生者様同様に我が帝国に忠義を尽くしてくださるのですね。私は一介の騎士ではありますが、猛烈に感動してその感情に胸が震えております」
僕の手をしっかりと握ったライトさんは今にも泣きだしそうなほど潤んでいる瞳で僕の目を真っすぐに見つめていた。
何となく目線を逸らしたかったのだけれど、今逸らしてしまっては何だか気まずい事になりそうだったので、我慢して見つめ返した。
アイカさんは僕達のやり取りを嬉しそうにニヤニヤしながら見ているだけだった。
そんなやり取りをしながら進んでいると、いつの間にか町のすぐそばまで来ていたようだった。
入り口を探しつつ、壁に近付いてみると思っていたよりも低く、二階建ての一軒家なら屋根が完全に出てしまいそうなくらいの高さでしかなかった。
不思議なことに、壁に近づくと遠くにいる間に感じていた殺気は消えていて、今では降り注ぐ太陽の柔らかい日差しも相まって、心地よい空間になっていた。
「ところで、入り口はどっちですか?」
僕がそう尋ねると、ライトさんは壁の前に立ち止まった。
見たところ入り口のようなものは見当たらないし、下や上に行く階段や梯子なども用意されている様子はなかった。
ライトさんが壁に手を当てて何かの儀式を始めると、左右の壁がひとりでに動き出していた。
壁が左右に広がると、その出来た空間を通って町の中へと入っていった。
「これも『空間の魔法』ってやつですか?」
「あはは、お兄さんは面白いねぇ。あれは私の魔法じゃなくて『破壊と創造の魔女』が作った人造生命体のゴーレムたちだよ。普段は壁として町を守っているんだよ」
「へえ、この町には帝国の三大魔女が二人もいるんだ」
「この町には三大魔女が全員いますよ。ここは帝国領でもかなり重要な町ですからね」
「重要な割にはそんなに大きい町のように見えなかったなぁ」
「うん、見える範囲での町自体は小さいかもしれないんだけれどぉ、地下に大都市が広がっているからびっくりしないでね」
「あの壁がゴーレムだったみたいに、この町自体も人造生命体だったりするのかな?」
「おお、あなたは今までの転生者様たちよりもこの町の秘密を見抜くのが早いのですな。見える範囲の建物は全てトラップとなっていまして、ドアを開けて中に入るとそこはアイカ様の作り出した空間になっております。入る事は簡単でも出ることのできない空間で、迷い込んだものはアイカ様の空間のエネルギーとして生涯を終えるでしょう」
「適当に言ったら当たっちゃった」
「適当だとしても、そう言う発想が出てくるのは凄い事だと思うよぉ」
なんだかんだと二人に褒められていたのだけれど、目的の場所に着いたようで、ライトさんは門番の人達に僕の事を紹介してくれて、少し待つとネックレスと指輪をくれた。
「そのネックレスと指輪は下に降りた後に必要になるので身に着けてください。それが両方とも無い者は敵とみなされるので気を付けてくださいね」
「もしも、無くしてしまったら?」
「その時は早めに言ってもらえたら新しいのをあげるよぉ」
僕達は全員でエレベータのような箱に入って下に降りて行ったのだけれど、動いている感覚が全然なかったので、途中から地下都市の様子が見えるまでは動いてるとは思えないくらいだった。
窓から見える地下都市は小高い丘から見渡した世界よりも広く感じていて、地下都市なのに太陽が出ていた。
不思議なことに太陽を直視しても目が痛くなるようなことは無く、むしろ柔らかい日差しに包まれているようで心地よかった。
地下の大地の降り立つと、そこは地下とは思えないほど開放的な空間であった。
地下独特のジメジメした感じや閉塞感は一切なく、僕が依然暮らしていた星よりも空気は澄んでいるようにさえ感じていた。
「では、さっそくこの町を治めている領主様のもとへ行きましょうか」
ライトさんがそう言うと、僕をその場所まで案内してくれた。
途中にあった商店を横目ではあるけれど少しだけ見たところ、最初に転生した町の商店とそれほど変わる事もないラインナップで、特別興味を持つようなものは無いようだった。
案内された領主の館は想像していたよりもこじんまりとしていて、とてもこれだけの町を治めている者が住むような場所には感じなかった。
「ここに初めてきた人はたいていそう言うリアクションを取るんですよ。他の町の領主様の屋敷は屋敷って感じで、ここは館って感じですもんね」
笑いながらライトさんが敷地の中へ入っていくと、ドアが開いて中から銀髪を腰まで伸ばした美少女が出てきた。
「ライト君良く帰って来たね。そちらの魔女は今回も死ななかったのは残念だけど、魔女が死んでしまうとライト君の評価が下がってしまうし、私にとっては悩ましい問題だ」
銀髪の美少女はライトさんに抱き着くと、アイカさんには敵意むき出しの視線を送っていた。
「ミコ様、少し離れていただいてもよろしいでしょうか。紹介したい方がおりますので」
「ライト君の頼みなら仕方ない。またあとで抱き着かせてもらうよ」
「ありがとうございます。では、あらためましてご紹介させていただきます。
ミコ様、こちらの方は帝国に忠義を尽くす転生者様でございます。
転生者様、こちらの御方はこの町の領主にして『破壊と創造の魔女』であられるミコ様でございます」
「お初にお目にかかります。この世界の事は詳しく存じ上げないため、不慣れなことも多々あるとは思いますが、よろしくお願いします」
「あら、あんたもライト君に負けず劣らずいい男だね。気に入ったよ。そちらの魔女と仲が良いようだけれど、今までの事は目を瞑るんで私のためにも働いておくれよ」
「ミコ様、ところでミズキ様はご一緒じゃないんですか?」
「あの子なら酒場にでも行っていると思うわ。無理して魔女を紹介しなくてもいいと思うけど、ミズキにお兄さんを渡しちゃダメだからね」
「あ、このお兄さんは巨乳好きじゃないみたいだから銀魔女のモノにはならないと思うよぉ」
「あらあら、貧相なお胸が好きな殿方っているのかしら? あなたの場合は前と背中の区別がつかなんで髪を下ろしたらどちらが正面かわからないわね」
「銀魔女さんはお胸に栄養が行き過ぎて脳が死んでるのかしら?」
「貧魔女さんはお胸よりもお腹の方がボリューム出てきているんじゃないですか? 心配だから魔剣で切り裂いて調べてみましょうね」
「あらあら、銀魔女さんは魔剣に触れると魔力吸い取られてまた寝込んでしまうんじゃないかしらね?」
「貧魔女さんは魔剣の近くに立っている事も出来ずに、一人だけ自分の空間に逃げていらっしゃったみたいですけど、今回も逃げ隠れしちゃうのかしら?」
ライトさんが僕の横にやってきてそっと耳打ちしてくれた。
「すいませんね、三人の魔女様はそれぞれ仲が悪いんですよ。本心では認め合っているようなんですが、お互いに負けず嫌いなところがあるもんでして。でも、あなたが最後に会う魔女はそう言ったところはない人ですから」
僕とライトさんは言い争いをしている二人の魔女に頭を下げてその場を後にした。
この町には転生者がそれほど多く滞在することもないみたいで、転生者組合のようなものは存在せず、町の有志が集まって治安維持や防衛活動を行う組織なども無いようだった。
そもそも、帝国領の重要拠点であり、三大魔女が暮らす町なのだから、外のゴーレムがいなかったとしても、そうやすやすとこの町を攻め落とすことは出来ないと思えた。
ライトさんに案内された屋敷は先ほどまでいた領主の館よりも大きく立派な物だったのだが、あまりにも僕には分不相応に思えたので辞退させてもらうことにした。
それからも何軒か見に行ったのだけれど、どれもこれも贅沢な屋敷であったので、どうにかして普通の住居を借りられないか頼んでみたのだった。
「申し訳ございませんが、皇帝陛下よりの勅命でして、転生者様には誰よりも良い住居を提供せよとのお達しが出ております。粗末な小屋などを案内したとあっては、我々が路頭に迷うのではなく、命そのものを失ってしまう事態になってしまいます」
「そうだよ、皇帝陛下のお心遣いに感謝して済むといいさ。余った部屋をどう使おうがあなたの自由ですし、部屋を使わないって手段もあるからさ」
「でも、さすがに領主様より大きい家に住むのは気が引けるよ」
「その点は問題ないよ。だって、転生者の方に立派な住居を提供するのは、いざというときに最前線で指揮を執ってもらうための先行投資みたいなもんだからね」
つまり、良い家にタダで住ませてやるから戦いのときは最前線で命を張れってことなのか。
僕達転生者は死んでも生き返る事が出来るんだし、そう考えるとそんなに悪い話ではないように思えてきた。
「わかりました。あなたが用意してくれている家に住ませてもらいます」
僕がそう言うと、二人の顔が一気に晴れて嬉しそうにしていた。
「では、どちらの屋敷にいたしましょう?」
「えっと、領主様の館から一番遠い場所でお願いします。やっぱり大きい家は気まずいので」
無事に住む家も決まったことだし、そろそろ何か食べないと体がもちそうになかった。
ライトさんも僕と同じ考えだったらしく、この町で一番おいしい料理を出す店に連れて行ってくれるようだった。
「これから行くお店が僕の口に一番合うんですよ。あなたにも気に入ってもらえると嬉しいんですがね」
そう言いながらも自信たっぷりな様子のライトさんの後を付いていくと、たどり着いた先は巨大なパブのような店だった。
窓から中を覗くと、店はそれなりに繁盛しているようではあったけれど、真ん中のテーブルの近くの席はほとんど空いていて、店内にいる客は壁際の狭い席に集中していた。
店内に入ると真ん中の大きなテーブル席に金髪の女性が座っていて、ここから見えるだけでも相当な数の酒瓶が置かれていた。
女性は一人で酒を飲んでいるらしく、その周りの席には誰も座っていなかった。
ライトさんは僕の手を引いてその女性のテーブルに近づくと、椅子を引いて僕を座らせた。
金髪の女性は一瞬だけ僕の顔を見ると、封の空いていない酒瓶を手渡してきた。
僕はそれを受け取って封を開けてそのまま返していた。
「あはは、こいつはあたしが差し出した酒の封を開けて返しやがった。こんな男は初めてだ。なぁライト、こいつは何者なんだい?」
「この方は転生者様です。帝国に忠義を尽くしてくださるようです」
「なんだって、そいつは傑作だ。今じゃ帝国に味方する転生者も少なくなってきたし、期待してるぜ」
金髪の女は先ほど僕が封を開けた酒瓶を差し出してきた。
僕はそれを受け取ると一口だけ飲んでみた。
思ていたよりもクセのない飲みやすい感じで、アルコール分はほとんど感じなかった。
あまりの飲みやすさにグイグイと飲んでいると、あっという間に一瓶が空になってしまった。
「おお、良い飲みっぷりじゃないか。気に入ったぜ。あたしはミズキ。『祝福と絶望の魔女』だよ」
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