第45話 現場調査⑥

「何で村長が……」


 村長が小屋の中に居るという事実で、俺の頭の中は疑問で一杯になっていた。

 そんな中、おかっぱ頭の男は自身の手を辰巳さんの頭に近づけようとしており、その手が禍々しいオーラを纏っている事に俺は焦りを感じた。


「何をする気なのかは分からないけど、嫌な予感がする」


 俺は居ても立っても居られず、小屋のドアに手を掛けるが鍵が掛かっていたため、躊躇せずドアを足でぶち破る。


「なんだ!? あ、貴方は!?」という村長の声が聞こえると同時に、室内の視線が全て俺につきささる。


 おかっぱ頭の男も驚き止っていた。幸い辰巳さんには何もしていない様子だ。


「村長、これはどういう事ですか? なぜ、貴方がここで、こいつらと一緒なんですか?」

「辰巳を助けにきた……と言ったら信じてもらえますか?」

「いえ、残念ながら」

「くく、くっははははは」と俺の答えに何が面白いのか村長は声を張り上げて笑っていた。


「貴方はこいつらと共犯って事でいいんですね?」

「その通りだよ」


 村長の口調と雰囲気がガラッと変わる。


「一応理由を聞いても?」

「金だよ。資産調査してわかったんだ、意外と貯めてるんだぜ? 田舎の爺さん、婆さんってのはさ」

「金って……そんな事で」


「おいおい、そんな事ってなんだよ? 大事だぜ金ってのは。金さえあれば、この世の犯罪の大部分はなくなるんじゃないか? 俺は金が欲しい、あそこのリオリルは人体実験がしたい。お互いWIN-WINの関係と言うわけだ! くはははは!」


「そのリオリルという男が、何らかの方法で村人を自分の支配下において、金を村長に渡す様にしていたのか……」


「していた。ではなく、正確に言うとこれからやるつもりだ。それにしても、適当に調査して帰れば良かったものの。知られたからには運が悪かったと諦めてくれ。リオリル!」

「了解した。ゴミ共! あの男を食い散らかせ!」


 リオリルが命令を下すと、今までジッとして動かなかった『憑依者』共が一斉に俺に向かって襲い掛かる。


「俺はグロテスクなものは嫌いだから、外でやってもらいたいものだが……な!?」


 村長は、俺が襲い掛かってきた『憑依者』共を一瞬で灰に変えた事に驚きを隠せない。


「うひひひ! 素晴らしい! 人間の身でありながらゴミ共をあんなに容易く葬りさるとは! その身体があれば、元宮廷魔道士団長のワシの魔力と合わせて参式同等の力を手に入れる事ができる! その身体があれば、ワシを見下していた奴らを見返せる!」


 そして、リオリルは驚いている村長とは裏腹に、満ち足りた表情をしていた。


「リオリル!」

「うひひひ! 心配するな村長。たかだかゴミを何匹か倒されただけだ。人間にしては驚異的な力を持っているが、所詮は人間。ワシには敵わぬよ」

「なぁ、ニシキとかサンシキとかって何だ?」

「これから、死ぬ貴様が知る必要はない! はぁぁぁッ!」


 リオリルの全身を禍々しいオーラが包む。


「身体強化魔法か、随分と下品な色をしてるな」

「き、貴様……なぜこれが魔法だと分かった?」

「さぁ。これから死ぬお前が知る必要はないよッ!」


 俺は一瞬でリオリルとの距離を縮める。


「な!?」

「おいおい、こんなのも反応できないのか? おらぁよッ!」

「ぐえぇ!」


 リオリルを蹴り上げると、奴は天井を突き破って空中を身を投げだし、すぐさま重力によって引っ張られる様に俺の足元に戻ってくる。


「空への散歩は楽しかったか? で、ニシキとかってなんだ?」

「だ、黙れッ!」


 今度はリオリルが俺に向かって来る。が、遅すぎる……。

 俺は、リオリルの拳をすれすれで避け、奴の後ろ頭を掴む。そして、そのまま顔面に拳を食らわせる。一発! 二発! 三発! と俺の拳がリオリルを殴る度に、逃げる事ができないリオリルの顔からは血が噴き出し、徐々に顔の形が醜く腫れ上がっていく。


「うぅっ……」

「そ、そんな……リオリル……」


 血と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているリオリルを見て、村長は真っ青な顔で震えていた。


「あんたさっき、宮廷魔道士団長とか言ってたよな? あんた、ワタルに宮廷魔道士団長の席を奪われ、禁忌を犯して永久追放されたっていう、リオリル・ルーベルトか?」

「ーーなッ!?」


 俺の拳で腫らしたリオリルの顔が唖然呆然といった感じで固まっている。


「やっぱりな。ワタルに団長の座を奪われた事を根に持って、非人道的な人体実験を繰り返す。その犠牲者は百は下らない、だったか?」

「き、貴様……本当に何者なのだ!? まさか、貴様も『選ばれし者』なのか!?」

「へぇ。『憑依者』の事をあんたらは『選ばれし者』と呼んでいるのか、名前負けもいい所だな。言っとくけど俺はお前らとは違うぞ? 俺は転移者だ。オルフェン王国の戦闘奴隷と言ったら分かるか?」

「オルフェン王国……戦闘奴隷……さ、殺戮者!?」

「ご名答! そうだ、俺は元オルフェン王国軍 第四部隊所属戦闘奴隷No.11。」

「な!? しかも、No.11だと!? 戦闘奴隷の中でも群を抜いて最強と言われた……あの忌々しいワタル・タマキを倒したと言う」


 リオリルは真っ青を通りこして、某白塗りのバカな殿様ばりに真っ白な顔をしていた。


「言っとくけど、俺はワタルを倒したと思ってないからな! あいつとの勝負はまだついてない!」

「聞いてない……聞いてない! さ、殺戮者がこの世界に居るなんて聞いてない!? 『あの方』はそんな事言ってなかったぞ!?」


 お!? 出たな『あの方』。こいつにはそれも聞こう。


「あんたに聞きたい事は三つ。ニシキ・サンシキについて、あんたらの目的、『あの方』って誰だ? 教えてくれるよな?」


 俺はワザとらしく指をポキポキと鳴らし、殺気を込めてリオリルに向けて言い放つ。


「は、話す! 話すから!」

「よーし、とりあえずそこに座れ。おっと、村長。なに逃げようとしてるんですか? 逃げられないように足の一本位折った方がいいですかね?」


「ひぃっ!」そっと、俺の蹴破ったドアから逃げようとしている村長に対して脅しを入れる。


「俺もあんまり乱暴な事はしたくないんですよ。あんたの処遇は後で決めるので、とりあえず大人しくしてくれると助かります。いいですか?」


 俺の言葉に村長は頭がもげるんじゃないかと思えるほどに縦に振る。俺はそれを確認して、視線をリオリルに戻す。


「さて、待たせたな。まずは、ニシキ・サンシキとは?」

「ワシら『選ばれし者』は、下から壱式、弐式、参式と区分される。これは主に元の世界でどれだけ生物の命を奪ったか、どれだけ強い生物の命を奪ったかによって仕分けされるのだ」


「経験値みたいなものか、あっちの世界ってレベルって概念あったけ?」


「そんなものはないが、より強力な生物の命を奪う事でその存在は強くなると聞く」 


 レベルじゃん……。


「あんたの口ぶりだと、あんたはニシキと言う事だな?」

「いかにも……」

「なら、この間倒したマルクスもニシキに入るのかな?」

「マルクスを……そうだ、ヤツも弐式だ。」

「イッシキは何となく分かっている。サンシキはまだ出会ってないから分からないけど、あんたらニシキとは何が違うんだ?」

「まず、強さが段違いだ。ワシらがいくら束になっても奴らを倒す事は出来ない。そして、奴らは薬を使わなくても強化が可能だ。」

「強化? マルクスが狼になった現象だな? あんたは薬を使わないのか?」

「その通り。あの薬はリスクが高い、下手したら一生自我を保てなくなる。ワシは考える事が好きだ、研究が好きだ。自我を保てなくなると言う事はワシは考える事も、研究も出来ないという事だ。それなら死んだ方がマシだ!」


 この男、こと研究に関しては熱い情熱を持っているらしいが、そのせいで犠牲になった人が沢山いる。こいつは生かしておくわけにはいかないが、とりあえず、今は情報を得る事が先だ。


「分かった。次にお前らはなぜこの世界に来た? 何が目的なんだ?」

「ワシらは、この世界を『あの方』が目的の達成するためにかき集められた魂だ」

「目的? どういう事だ!?」

「詳細は知らされていないが『あの方』は、この世界に恨みを持っている。『あの方』はワシらの様な生に未練があり成仏出来ない魂に新しい生を与えてくれている。この世界を支配するという目的を与えてな」


 おいおい、こっちの世界を支配だと? 予想の斜め上をいってるぞ?


「『あの方』とは誰だ!?」

「あ、『あの方』とは……」


 リオリルが口を開こうとしたその時、「な、なんだこれは!?」と村長の叫び声が聞こえ、村長の声のする方へと視線を向けると、あの渦が現れていた。


「くそ、またか!?」

「そうか……『あの方』の正体を明かす事は、ワシらにとって禁忌なのだな」

「それで? 誰なんだ『あの方』って!」

「『あの方』の名は」


 リオリルに向けてあの靄の掛かった黒い巨大な手が伸びてくる。


「やらせるかよッ! まだ話は終わってねぇんだ!」


 俺はマルクスの二の舞にさせないよう、手を思いっきり蹴っ飛ばすと手はは軌道を変え小屋の壁に突き刺さる!


「で、誰だ! そいつの名前は!」


「アーノルド、アーノルド・ルートリンゲン。全ての魔族の頂点に君臨する魔族の王、『魔王』だ!」


 魔王!? 魔王ってあの?


「ぐぇっ!」


「あの方」の正体に驚いて一瞬俺の思考が止まっていたその時、リオリルの足元に新たな渦が発生し、更なる手がが天井に向けて伸び、リオリルの体を掴む。


「お、おい!」

「く、くそっ……もっと……研究したかった……」


 リオリルは、マルクスと同様に渦の中に引きずり込まれた。

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