第33話 文人とわたる②
「も、もう、勘弁して下さい……許してください……」
原君は僕に泣きながら懇願してくる。
その顔は、涙と鼻水でグチャグチャになっていた。
原君以外はもう帰した、彼らにヤられた分は返したからだ。
彼らの僕に対する仕打ちは原君に比べたら可愛いもんだ。
だから、仕返しもそんなに時間が掛からなかった。
彼らは、謂わば前菜…僕は、今メインを楽しんでいるところだ。
「まだ、君にされた分は返しきれてないよ? もう少し付き合ってよ」
「そ、そんな……」
そして僕は、再び原君の頭を掴む。
「お願いだから……もう……」
「はい、じゃあ、9ラウンド目行くよ!」
「ぎゃあああああッ!!」
原君の断末魔の様な悲鳴が響き渡る。
だが、彼の悲鳴に通り過ぎ行く人々は何もなかった様に、そして、こちらを向く事すらしない。
僕は、わたると一つになる事によって
わたるが元に居た世界には、魔法があったらしい。
そして、わたるはある国の宮廷魔道士団の長だったらしく、使えない魔法は殆どないらしい。
約三週間は、わたるとの魂の融合のため僕は殆ど動けずにいた。
その間は、珍しく母さんが仕事以外の時間は毎日家にいてくれて僕の面倒を見てくれていた。
母さんは、別に僕に対して愛情が無いわけではない。
ただ、僕より彼氏さんの事が好きなだけだ。その実、僕が死にそうな顔で動けずにいると泣きながら心配してくれていた。
まぁ、僕が動ける様になってからはホッとした顔でまた彼氏の元に戻ってしまったが、久しぶりに母さんと長い時間を一緒に過ごす事が出来て嬉しかった。
身体が動ける様になってからは、家から少し離れた廃工場で魔法の練習をした。
わたるに言われて一番最初に練習したのは、身体強化魔法。
向こう世界の魔法士は、自分の身を守るため必ずと言っていいほど最初に覚える魔法らしい。
実際に使う魔法士の魔力によって強さは千差万別だが、一流の魔法士は前衛職と剣を交えても遜色ないという。
わたるは、魔法士のエリートである宮廷魔導士の長。その位置付けは、一流の中の一流だ。わたるは、向こうの世界で名だたる剣豪と渡り合ったが、生涯敗北は一度しか無かったという。
まぁ、その一度の敗北で、わたるは命を落としたんだけどね。
今、僕は認識阻害の結界魔法を僕の家全体に施しており、現在、僕達がいる僕の家の庭での出来事を結界の外にいる人達は認識する事が出来ないのだ。
なので、原君がどれだけ泣き叫ぼうと関係がない。誰も彼に救いの手を伸ばす事がないのだから。
僕は今、彼の身体に無理矢理魔力を流し込んでいる。
魔力と言うものを持たない彼らだから、どういう原理かは分からないけど物凄い苦痛を味わうらしい。
外傷もなく彼らを痛めつける事が出来るので、凄く使い勝手がいい。
そして、後遺症が残らない位で止める。
「はい、9ラウンド目終わり!」
「うぅ……これで……おわり……?」
原君は何かを期待している様な顔で僕を見上げる。
「そんな訳ないじゃないか。僕にした事忘れたの? ある事ない事言いふらして、憂さ晴らしに僕を殴って、中野さんが困っていても無視してさ……。僕は確かに自分にされた事も許さないけど、中野さんに対しての仕打ちを僕はもっと許さない! よくも…彼女に愛されているくせに! 彼氏のくせにッ!」
『くくく。よっぽど好きだったんだね。その中野さんの事』
「もちろん。今でも好きだし。だから、こいつの事許せないんだ」
僕は無意識の内に忌々しい表情を原君に向ける。
「ひぃっ! あ、亜希子とはもう別れました!!」
原君は藁にもすがる様なという言葉が当てはまる様子だ。
「えっ? 別れた?」
「は、はい! 田宮さんの事を虐めた事で愛想をつかされて……」
「自業自得だね。そっか……中野さんがね……。じゃあ、彼女は今フリーなの?」
「はい、俺も縒りを戻そうと頑張ったけど……クソ、あいつら……」
「あいつらって?」
「最近転入してきた、室木紗奈という女と前にその……偶然通り掛かって俺達をデコピンで倒した……」
「もしかして、服部咲太さん?」
「はい、その男と室木紗奈という女が知り合いだったらしく、今日も俺達の事を邪魔して……」
服部さんが邪魔をした? 一度だけ、しかも短い時間接しただけだけど、服部さんはそんな事する人じゃないと思うんだけどな……。となると、もしかして……。
「それってさ、もしかして君が無理矢理嫌がる中野さんに迫ったとかじゃなくて?」
「な、なんでそれを……はっ!」
原君はハッとした表情で口元を手で塞ぐ仕草をする。
「やっぱりね。そんな事だろうと思ったよ。本当に困った人だよね君は……もう終わりにして上げようと思ったけど、まだ駄目そうだね。彼女に迷惑を掛けるなんて……」
「えっ……?」
「後2R追加!」
「そんな……もういやだあぁぁ!!」
僕は泣き叫びながら逃げようとする原君の頭を掴み第10R目へと入っていった。
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