第4話 借金があるらしい。
「あんのクソ野郎ッ!」
俺が行方不明っていう時に、借金して浮気していたなんて……しかも、その浮気相手と出ていっただと?
「ちょ、それじゃあその借金、母ちゃんが払ってるの?」
「何でママが払うのよ! もう、あいつとは離婚してるし、この家の名義も元々ママになってるしね。たっぷり慰謝料ふんだくってやったわ! ぶははははは!」
流石ですお母様!
「だけど、借金取り共があの野郎が見つからないからって、こっちに来てるのよ」
「家売って引っ越せばよかったじゃん」
「だって……咲ちゃんがいつ帰って来るか分からないでしょ? 実際に帰ってきたし!」
「母ちゃん……」
因みに、服部と言う名字は母方の名字であるため、離婚によって名字が変わる事はない。
親父の野郎、入婿の癖に……。
ピーンポン、ピンポン、ドンドンドン!
「ちっ、また来やがった……」
母ちゃんは、忌々しそうな顔で舌打ちをする。
母ちゃん口調が……。
「服部さーん! 居るんだよね?」
ドンドンドン! ピンポンピンポン!
「いるの知ってるよ!? 早く金返せよ! 金返せッ!」
「いつもどうしてる?」
「無視してる」
「警察は?」
「通報はしてるんだけど、あいつらポリ公が来る前にいなくなるんだよ」
ポリ公って……。
「毎日来るの? いつから?」
「週に一回位かな……あのクソ野郎が出ていった一年位前からだよ」
結構頻繁に来てるな……よし!
「俺が話つけてくる」
「えっ? 危ないよ! あいつら本職なんだよ?」
「大丈夫だよ、逆に今まで母ちゃんの事困らせた慰謝料くらいふんだくって来るよ」
止める母ちゃんに大丈夫だと説得し、俺は、玄関に向かう。
未だに、チャイムを鳴らす音、ドアを叩く音、怒鳴り散らす声が続いていた。なんて、迷惑な奴らだ。
イライラを抑え、俺は玄関のドアを開ける。
「おっ? 開きましたぜ、アニキ!」
「やっと、観念しやがったか!」
玄関の外には、それっぽい男が2人立っていた。
黒いスーツ姿の男と犬の顔が背中にプリントされている白いスウェットの姿の男だ。
コイツらは母ちゃんが出てくると思ったのだろう。俺が出てきた事で、一瞬戸惑った顔で俺をマジマジとみる。
「うるさいんで、やめてもらえますか?」
とりあえず、丁寧に対応してみる。
「はぁ? てか、お前誰だよ?」
「ここの息子ですが」
「息子……? 行方不明じゃ……」
「戻ってきたんですよ。それより迷惑なんで、帰ってくれませんかね?」
「あぁん? 帰れだと? てめぇなめてんのかああッ?」
「サブ、やめとけ。いちいち突っかかるな! 息子さんよ、俺達はお前んとこの親父が作った借金を返して貰わないといけねーんだわ」
粋がっているスウェット姿の男はサブというらしい。
なんてベターな……。
「親父の借金なら、うちと関係ないですよね? 親父は母ちゃんと離婚してるし。借金返して欲しければ親父に取り立てて下さい。俺達が親父の借金を肩代わりする必要なんてないんでね」
借金取り達は、淡々としゃべる俺に対して怒りが積もってきたのか、顔がどんどん赤く険しくなっていった。
「つまり、お前は借金を返す気がないと……?」
スーツ姿の男がドスの聞いた声で確認してくる。
「えっ? 当たり前じゃないですか、どこの世界に自分の借金でもないのに返すバカがいるんですか? ていうか、債務者をちゃんと見極める事ができなかった、あなた達の落ち度ですよね? それをこっちに言われてもねぇ~ていうか、迷惑だから早く帰れよ。そして、二度と来るな」
あ、めっちゃプルプルしてる……
「てめぇ! この野郎ッ!」
サブが俺に殴りかかる。
俺は避ける事をせず、攻撃を受けた。
こんなヘッポコパンチ食らってもへでもないだろうと思ったのだが、案の定蚊ほどもいたくない。
「うおおお、いてええええ!」
全然ダメージを喰らっていない俺とは逆に、サブは自分の手を抑えて蹲る。
俺の防御力ナメんなよ?
多分ヒビくらいはいってるだろう。
「サブうう! どうしたあああ!」
「い、いてぇよ、アニキ、あの野郎のツラが岩みたいに固くて……」
「てめぇ! サブに何しやがったッ!」
今まで冷静だったアニキは、俺に向かって怒りを露わにする。
「俺が何かやったように見えました? 殴り掛かってきたのは、そいつでしょう?」
「て、てめぇ……」
「それより、うちとしては逆に慰謝料をもらいたい位なんですよ。この一年間母ちゃんへの嫌がらせに対してのね。家もこんなにしやがって……」
母ちゃんが嫌がらせにあったと考えると段々と腹が立ってきて、口調が荒くなってくる。
「なっ、てめぇ、頭おかしいんじゃねぇのか? ヤクザに慰謝料を請求するとか!」
「おいおい、お前らがヤクザだろうが警察だろうが、こっちは迷惑かかってんだよ。何? お前らの方が立場が上だと思ってるの? あり得ないでしょう? そうだ、今からお前らの事務所に連れて行けよ。お前じゃ話にならねーから、お前の上に会わせろ」
自分達の常識ではあり得ない俺の物言いに、アニキは混乱し、そしてナメられた事に対して怒りが積もる。
「くそがあああ!」
彼は混乱より怒りが勝った様で俺に殴り掛かってくる。
「ぐおおおおお」
今回もあえて食らってみると、サブと同じく右手を抑えて蹲る。
バカだなコイツら……。
「な、何なんだお前は……」
「この家の息子だって何回言わせるんだよ。ハッ、お前の脳ミソ鶏なのか?」
「くそ……なめやがって! 絶対後悔させてやるからな!」
「後悔させる? なら、お前ここで死んどくか?」
「えっ?」
「だって、お前が生きてたら、俺が後悔する様な事を仕出かすんだろ? なら、ここで殺しといた方が後腐れなくていいと思わないか?」
アニキの思考は追い付いていないようだ。
俺は近くに置いてあったスコップを拾い上げる。
「お、おまえ、そ、それ、どうする気だ!?」
「心配すんな。一振りでそのきたねぇ首落としてやるからさ」
そう言って俺はブンブンと、素振りをしてみせる。
スコップを振っているとは思えない轟音が静かな住宅街に鳴り響く。
アニキとサブの顔が青を通り越して白くなる。
いつも、圧倒的強者でいる自分達が、逆の立場になっている事を身を以て体験しているのだ。
これで、こいつらも優しい人間になってくれるといいなぁ、と全然心にないことを思う。
こんな奴らどうでもいいからね。
「さて、どっちからにする?」
表情を無くした戦闘モードの俺の顔に、アニキは恐らく生きた心地がしなかったのだろう。
「ひぃぃぃぃ!」と悲鳴を上げて、アニキは、その場から逃げるように走り去り、
「アニキ? 待ってえええ!」とサブも転びながらその後を追う。
奴らの姿が見えなくなった事を確認し、俺は手に持ったスコップを玄関の横に立て掛ける。
「さて、これでどう出るかな……大元を潰さないと終わらないだろうな……。だけど、それは今日じゃなくていいか。今日は母ちゃんの飯をたらふく食って、温かい風呂に入って、フカフカのベッドで寝るんだ! 俺は家に帰ってきたんだからな!」
俺は、一度背伸びをしてから、玄関の扉を開けた。
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