第54話 夜明け前 3

 ぱぁっと鮮血が飛び散った。

 雅の腹から。


 僕は、その鮮血を浴びた。



 顔が真っ赤に染まる。



「真琴……よかった……」

 そのまま、覆いかぶさるように斃れてきた。



「雅っ!」



 僕は斃れてきた雅を抱えて逃げ出した。


 後も見ずに。



 非力な僕たが、何とか抱えた。

 そして、よたよたと走る。


 店の片隅に、段ボールを積んだ台車が転がっていた。


 僕は、その台車に走り寄って段ボールを叩き落とす。

 そして、辺りのジャージやら何やらの衣料品を掴んで台車とともに、雅のもとへ。

 衣料品をクッションにして、台車に雅を乗せる。



「真琴……、一人で逃げて」

「嫌だ。嫌だ。絶対に助ける」



 僕は台車を押す。

 ふと、背後を見ると、天使がこぼれた内蔵を手で押さえつつ、ゆっくりと向かってきた。


 僕はエレベーターに乗り込み、1Fへ。

 目の前に食品売場が広がっている。

 咄嗟に、お酒売場へ。

 そして、アルコール度数の高そうな瓶をポケットに。

 人のいないカウンターに、ライターがあった。



 だが。



 カウンターの向こう。

 自動ドアの向こうに赤いパトランプの光。



 天使は警察を操っていた。



 僕は追い詰められたのだ。



 女の子の身体。

 雅を支えることもできない、ひ弱な身体。



 僕はあの日、その選択肢を選んだ。

 自分自身で。



 間違っていたのか。

 間違っていたのか。




 僕の選択肢は。

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