第53話 夜明け前 2

「汚物どもがあ!」

 天使が僕たちを追う。

 僕らは、ドンキの棚の隙間を全力疾走。


 そもそも、天使って倒せるのか? そもそも死ぬのか?


 自問自答しつつ、棚を揺らして倒す。

 天使はそれを乗り越え、追ってくる。



 幸い、何か超常の力を使うわけではない。



 なら。



 僕は足を止めた。

 そして、天使に体当たりする。


「真琴!」



 体重が軽いため、天使は足を止めない。

 そして、僕の首をつかみ、釣り上げる。


 僕はポケットから拳銃を取り出し、天使の胸に向けて引き金を引いた。

 ものすごい衝撃が走り、僕の手から拳銃がすっぽ抜けた。

 天使の胸から鮮血があふれたものの、首を絞める手のちからは緩まない。



 この身体では、拳銃を握るだけの握力が足りない。

 それだけの力もないのだ。


 もう、僕には雅を守れる力はない。



 天使は笑っていた。


「この程度か、汚物」



 せめて、顔に蹴りを入れようとするが、足をじたばたさせるだけの行為に終わる。

 届かないのだ。



 くそ。

 ダメなのか。



 そこへ。



 雅が走り寄ってきた。

 手に、僕の手からこぼれた拳銃を持って。

 そして、天使の腹に、拳銃を押し付けて引き金を引く。


 二発、三発と続けて撃ち込む。


「うるさい!」


 そのまま、僕を放り出し、雅につかみかかろうとする。

 雅はそれを避け、今度はこめかみに銃弾をたたきこむ。



 何だ、そのスムーズな動きは。



 多少の情けなさを感じつつ、僕は辺りを見回す。


 そして、キッチン用品の中の包丁をつかみ、パッケージをはがす。

 そのまま、それを持って天使に襲いかかる。


 狙うは首。



 人の身体のもっとも脆い場所。



 首に刺さった包丁は皮膚と肉をえぐり、血管を切断する。

 そして、血が吹き出た。



 天使が僕の方を見ると同時に、雅が後頭部に銃弾を撃ち込む。

 骨と血液を吐瀉物とともに吐き出した。



 僕は返す刀で、額に包丁を突き刺した。



 ボロボロになって、天使がどうと倒れた。



「死んだ……の?」

 雅の声。



 その声を聞きつつ、僕はゆっくりと雅のそばへと移動する。



「わかんない。下がって」



 突き刺した包丁の代わりに、新しいものを取り出す。

 今度は、白いセラミック刃の包丁。

 おもちゃみたいに軽い。



「ぐふふふふふ」



 天使が笑った。


 顔を上げた。



 血まみれの顔を。

 鼻から下が崩れた顔を。



「死ねがあああああ」



 腕が伸びた。

 漫画のように。

 僕をめがけて。


「ダメっ!」

 いきなり背中から押された。

 思わぬ方向から押された僕は、そのまま倒れた。


 そして、天使の腕は、雅を貫いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る