第39話 天使のたまご 2

 いつもの、煙草の吸える喫茶店。

 佐々木は、そこに座って待っていた。



 約束はしていない。

 待っていれば来る。



 そう信じていた。



 そして。

 当たり前のように「待ち人」はやってきた。



「こんにちは」

「よう」

「待っていてくれましたね」

「ああ、待っていた」



 待ち人は「天使」と名乗る男だった。

 相変わらず、色素の薄い姿をしていた。



「天使だからな。待っていれば来てくれると思っていた」

「ええ。私は、私を待つ者のもとに現れます」

「ありがたいな」



 男が、いわゆる天使という超常の存在かどうか、という点について、正直佐々木は信じていなかった。だが、「煌めきの空」に関わる「何か」を知っている、それは間違いないと考えていた。



「あの組織は、悪魔が関与している」



 その言葉が額面通りかどうかは、どうでもよかった。

 そこにヒントがあるのなら、天使だろうが悪魔だろうが、どうでもよかった。



「で、天使の旦那。バーガーショップの事件。あの犯人は、組織の関係者だということはわかった。調書には、どこにも出てこない。なぜ、わかった?」

「私が追っているのは、組織に関与している悪魔の方でね。その悪魔の使い魔を追っていて出会っただけですよ」

「使い魔?」

「悪魔は、なかなか自分で動こうとはしない。アレが動くときは、使い魔を使う。まあ、使い魔といっても、アレの言うことを聞くように仕立て上げられた人間だがね」



 ふむ。

 正直、子どもの妄想か、虚言癖の言葉を聞かされている気分だった。



「さて、とは言え、俺はあんたの言うことを信じてみたいと思う。あんたは俺に、何をやらせたい?」

「悪魔と、それに関わる者たちに制裁を加えたい」

「制裁とは穏やかじゃないね」

「ふむ。アレらは世界の害毒だ。排除し、消毒しなくてはならない」



 ずいぶん過激だな。

 とは言え、悪党を生かしておく道理はない、ぐらいの感覚はある。

 佐々木自身、裁判制度自体は必要だと思うが、その費用が無駄遣いだと思うことはある。


 まあ、言い方はあれど、この「天使」が言うことは「正義」というものに違いない。



「組織は動きますよ。ロシアからの核物質、彼らは手に入れたのでしょう」

「よく知っているな」

「まあ、いろいろと調べていますから。彼らが動き出すなら、この一、二ヶ月でしょう」

「核物質なんか手に入れたって、原爆とか作れないだろう」

「そうでもないですよ。映画でもあったじゃないですか、ほら、あの」

「ああ。ガキのころに見た。トラウマだったよ」

「だが、原爆テロかい? それこそ、ヤツらの自然主義とは相容れないと思うのだが」

「そうですね。ですが、大義名分がある。それを行うことによって、核の危険性を国民に訴える、と」



 天使は、どこかで見てきたように言った。



「それに、実は核兵器を作るまでもなく。通常爆薬と一緒に破壊して空気中または川等に散布させれば、簡単に汚染を作り出すことができます。一時的な破壊力には劣りますが、そもそも彼らのテロは破壊に意味を見いださない」

「ふむ。どうすればいい?」

「あなた方は、証拠がないと動けないのですよね」

「ああ。証拠が欲しい」



「教祖であり、リーダーである男の住居、そこまでは案内できます。どうしますか?」

「連れて行け。そこからは、その時に考える」

「いいお返事です」

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