第22話 雅 4

 草叢をかきわけ進むというのは、中学生女子には向いていない気がする。

 とりあえず、真琴は、必死にそれをしている。


 まあ、私はそれに着いていく立ち位置。



 体力の量は、お互い変わらないけど、まあ、元は男で大人なんだから、という立ち位置で安定させる。

 見た目は、本当に守ってあげたい系の美少女だけど。



 そして、二十分くらいだったころだろうか。

 小さな、戸建ての家が現れた。


 本日のお仕事は、この家を使えるようにすること。

 何に使うのかはよく知らない。



 とりあえず、ざっと掃除して、持ってきたカップ麺や缶詰とかの非常食を置いておけばいい、ということ。

 とりあえず、隠されていた鍵で、裏口を開けて中へと入る。



 当たり前だが、埃の山。



 息を飲む。


 だけど。

 ここには死体はない。



 ただの埃だけ。



「やるわ」



 自分に喝を入れるため、あえて口に出す。

 上履きを持ってきたのは、自己防衛。


 そして、窓を全開。

 さあ、お掃除だ。



 私はキッチンを。真琴は残りの部屋、という感じで軽く分担。

 だけど、私は忘れていた。

 ここが山の中だということを。



 山にはヤツらがいるのだ。


 虫。



 硬い外骨格をもった節足動物。

 明らかに、私達人類とは、別個の進化を辿った、この世界の異物。



 そして、それは、たった今、私の目の前に現れた。


「きゃああああああ、真琴真琴真琴真琴真琴真琴真琴真琴真琴ーーーーっ」



 思わず叫んだ。

 なぜ、真琴の名前を連呼したのか。

 それは、ここにいる「哺乳類」が私と真琴の二人だけだったからだ。



 ほどなく、真琴が駆けつけて追い払ってくれた。

 叩き潰さなかったことが、真琴の評価を押し上げた。


 目の前で、そんなことされたら、私は気が狂ってしまうかもしれない。




 とは言え、こんな危険なところは、さっさと立ち去りたい。

 ハイペースで片付けて、何とかバス停に向かう。

 お腹がくう、と鳴いたけど、残念ながら、バスがたどり着いた無人駅には、食べ物を買う場所すらない。


 かろうじてあった自販機で、真琴がコーラを買ってくれた。



 喉を流れる炭酸が、今日一日の出来事を洗い流してくれる。

 お父さんが、仕事から帰ってくると、ビールを飲むのがちょっとわかる。


 ため息をつくと、真琴と目が合った。


「何見てるのよ」

「い、いや、その、ごめん」

「いちいち謝らなくていいの!」

「あ、いや、その……ごめん……」


 うん。この人の謝り癖って治んないわよね、きっと。



 その日は、どっと疲れて、ベッドに倒れ込むや否や、熟睡してしまった。

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