第83話 不届き者たちよ


 てなわけで、


「ビッグサイトかぁ」


 キャリーバッグを引きながら、視界に収める。


「それじゃお兄ちゃん、後で」


「ああ」


 スタッフにチケットを見せて、内部に入る。


 更衣室で着替えて、スペースに行くと、設営は済んでいた。


 お兄ちゃんと凜ちゃんのおかげだ。


 というか、この二人のサークルなので……ある種の当然であり、必要事項とも言えるかもしれない。


 いや別に手伝いが出来るならソレに越したことはないけども。


 位置は結構ベタだ。


 お兄ちゃんは、人気のあるシナリオライターなので、いつもサークルは長蛇の列が出来上がる。


「おお!」


 と、お兄ちゃん。


「似合ってる?」


「ラブリー!」


「抱きつかないで」


 額を押さえて、距離を保つ。


「それにしても」


 とは私。


「春人も大概よね」


「えへ……」


 陰陽陰子。


 そのコスプレだ。


 二人揃って陰陽シスターズ。


 私が陰陽陽子。


 キャラの名付け親が、お兄ちゃんなので、ツッコミ処は多々。


「可愛い」


「他の人も……言ってくれるかな……?」


「十割九分ね」


 男の人にエッチな目で見られるのが大好きな春人らしい。


 下着も女物を穿いているそうだ。


 そのこだわりを別ベクトルに使えないのだろうか。


「ふむ」


 納品された同人誌を、お兄ちゃんと凜ちゃんが、パラパラと捲る。


 スタッフに一冊渡して、OKを貰う。


「じゃ、シクヨロ」


 そしてお兄ちゃんは全てを投げ渡した。


「あはは」


 凜ちゃんが珍しく気まずげに笑う。


 聞くに同人誌と並行して、ゲームシナリオも書いていたとの事。


 凜ちゃんの介護もあって、何とか生きているものの、コミマは辛いだろう――とは凜ちゃん談。


 いいけどね。


 そもそも先祖の墓参りに行かず、「何やってんだ?」って話だし。


 私と春人が売り子。


 凜ちゃんがフォロー。


 お兄ちゃんは粗大ゴミ……と。


 そして試練は始まった。


 早歩きで読者が此方のサークルへ。


 すぐに行列が出来る。


「一冊ください」


「はい。ありがとうございます」


 媚びを売るのは慣れないけど、営業スマイルも仕事の内。


「ありがとうございます~♪」


 その点、春人はノリノリだった。


 金髪をウィッグで隠して、陰子になりきっている。


「コスプレスペースには行かないんですか?」


「こっちが終わったら行きますよ~?」


「楽しみにしています!」


「ありがとうございます~♪」


 瞬く間に同人誌が売れていく。


 午後二時に完売になった。


 買い逃した人には書店で宜しく。


「あー……売れたか?」


「完売」


 ピースサイン。


「可愛い!」


「引っ付かないで」


 額押し。ぶっちゃけウザったいのも事実。


「それと陰陽の制服作ったの春人だから」


「クラスメイト……だよな?」


「です……」


 一転してシャイなアンチキショウに戻る春人でした。そう言うところも加点の対象と言えましょうぞ。


「すごいですね」


 いつもの物腰柔らかい凜ちゃんの感想。真剣に我がクラスの生徒……春人=アンデルスの神業に敬意を表しているらしい。


「アトリエ持ってるくらいだからね」


 殆どプロ級だ。


「それは素晴らしい」


「あう……」


 ――何故そこで赤面する?


 と思ってると、


「ああ。可愛いですね」


 凜ちゃんが、赤面している春人のおとがいを、人差し指で持ち上げた。


「ちゃんとメスなんですね」


「はわわ……」


 さらに羞恥で赤くなる春人。


「これでは手を出せないのが、お預けです」


「事案だよ」


「ですね」


 私の進言も、わかってはいるようだ。


「けど凜ちゃんの悪ふざけもちょっと看過できないかな?」


「愛らしいのは事実なんですけど」


「だってさ春人」


「あう……大人の男性に……興奮される……」


 こっちも病気らしい。


 お大事に。

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