第77話 図書館にて


 真夏真っ盛り。


 私は図書館で涼んでいた。


 無料で空調が利き、無料で書物を拝読出来る。


 こういうことにこそ税金を使うべきだと……私は強硬に主張したい。


 今日は科学雑誌を読んでいた。


 主に、趣味全開で。


 自分の知らないことを覚えるのが勉強なら、大衆向けの科学雑誌って豆知識の宝庫なんだよね。


 ――ピロン……とスマホが鳴く。


 ラインのコメント。


『遊べる?』


 とは五十鈴のメッセ。


『面白くはありませんよ』


 そんな返事。


『何してるの?』


『読書』


 あるいは毒書。


 活字中毒だ。


『市立図書館?』


『正解』


 そんなわけで合流。


「陽子!」


 ジャンピングハグ。


「陽子! 陽子! 陽子!」


 頬ずり。


 本当にワンコに懐かれた気分。


「可愛いね! 私服の陽子も!」


「五十鈴も格好良いよ。ちょっと周りの視線が痛いんだけど……まぁ五十鈴が五十鈴だし構わないか」


「えへへぇ」


 マジ愛らしい。


「で、何か用?」


「用はないけど、陽子に会いたかった! なんとなく顔が見たいって!」


「光栄かな?」


「栄光だね!」


 日本語で遊ぶ五十鈴でした。


「他に好きな人はいないの?」


「いないかな!」


 ――即答かよ。


「陽子ほどじゃないけど」


「皮肉?」


「ううん。違う。けど全く違うわけでもない」


「?」


 と相成る。


 読書をしながらヒソヒソと。


「生まれの業だよ」


「ああ」


 髪の色か。


 紅茶の髪。


 ついで整った御尊貌となれば、確かに業だ。


 生まれるついでの付属物のはずなのに、どうにか人生を縛り付ける。


「で、ハイエナに狙われるってワケ」


 ――わかるでしょ?


 そう五十鈴は聞いてくる。


「確かにね」


 ――わかる。思い知っている。ああ、こんなものかって。そうやって勝手に自分に失望する。


 ソレがイヤで、陰キャしているのだから。


「それで波長が合った」


「私を私と見抜いたの?」


「ワン!」


 肯定らしい。


「超絶の美少女だよ。十年の一人の逸材」


 甲子園で良く聞くキャッチフレーズだよねソレ。


 いいけども。


「だから自重している意味が分かんない」


「腐肉にたかるハイエナには懲り懲りなんで。これは五十鈴と一緒」


「小生も?」


「五十鈴は悪意がないから対象外」


「えへぁ……」


 そこで蕩けるな。


 私も似たようなもんだけど。


 男の子の、その中でも五十鈴に褒められれば……それは嬉しくないはずもなかろうぞ。


 雑誌のページを捲る。


「何読んでるの?」


「科学雑誌」


「好きなの?」


「そこそこにね」


 偉大なるかな人間科学。


「良く活字読めるね」


「慣れですよ。君」


「面白い?」


「五十鈴の次くらいはね」


「照れる」


「様には見えないけど」


「陽子は良い子」


「恐悦至極」


「また会える?」


「暇があったらね」


「じゃあ約束」


「は、しない」


「なんでよー。いいじゃん。陽子と次に会う約束をしたら、その日を指折り数えるのも幸せだよー?」


「確約出来かねるから」


「逐次連絡取るしかないの?」


「有り体に言えば」


 遠慮もへったくれもない私でした。


「ま、そういうならそうなんだろうね」


 ――ふむ。


 そう納得される五十鈴。


 私に目をつけたのは悪趣味なのか……慧眼なのか……少し判らない私でありまして。


 殊に結論を必要とする議題でも無いけど、五十鈴の愛らしさは何だかな……。

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