第68話 ほろ苦いチョコ
仮縫いが終わった。
私はいまだ春人の部屋。
コーヒーを淹れて貰って、お茶請けのチョコケーキを食べている。
ちょっと豪華なティータイムで、なおかつ春人の淹れてくれるコーヒーは……比較対象無しなら十分に美味しい物だった。
あんまり味覚に自信ないからちょっと不安だけども。
「ほろ苦い……」
「うん」
でも美味しい。
そこは合致した。
「衣装はモノに為りそうですか?」
「大丈夫……多分……」
「春人は陰子ですよね?」
「うん……」
「楽しみです。春人はあまりに可愛らしいので。女子の私でもどうにかなってしまいそうなくらいそそります」
「あは……」
微笑む春人。
たまに見せる笑顔は眩しいモノだ。
何時もは顔を隠しているので、あらゆる意味で貴重。
「……………………」
気圧される……とはこのことか。
「どうか……した……?」
「いや、その」
「……?」
「春人はイケメンだなって……」
「そんなに……?」
「特筆できる」
「そんなに……」
「女装が功を奏しているのも……在る意味整った顔立ちの逆説じゃない? おおよそ中性的な顔立ちは希少だし」
いや中性的どころか美少女に偏っておりますけども。
前髪をかき上げて漸く分かるレベル。
ヘアピンで留めて、側面に髪を流している分には金髪碧眼の美少女にしか見えず、サラリーマンさんたちが不埒な気持ちを持つに十分だ。
「そかな……?」
「私が保証する」
「好き……?」
「顔はね」
「えへへ……」
照れ笑い。
そゆところも愛らしい。
「ま、イケメンだって、私以外にバレないでね」
「うん……。面倒だし……」
そこは意見も一致するらしい。
伊達眼鏡同盟は伊達ではない。
どっちも処世術として伊達眼鏡をかけているのだから。
「コミマに間に合いますかね?」
「余裕……」
力ある御言葉で。
そして事実なのでしょうよ。
「美味しい……」
「状況が?」
「チョコが……」
でっか。
「お口に合ったなら宜しかったです」
「ありがと……」
「抱きしめて良いですか?」
「……?」
「ちょっと春人は愛らしすぎます。興奮します。押し倒したいです。でもそれだとあまりにあまりなのでハグで我慢します」
「えと……だめ……」
「理由を述べられても?」
「タガが外れる……」
「青春ですね」
「それくらい……陽子さんは可愛い……」
「恐縮です」
「本当……」
光栄だなぁ。
春人に美少女だと言われるのは。
その春人が絶世の美少年なのだから。
――知っているのは私だけ。
歪な独占欲が、私を支配します。
もしかして参っているのでしょうか?
そう考えてもしまいますれど。
「陽子さんは……ビターチョコ……」
「その心は?」
「ほろ苦い……けど心地よい味わい……」
対応としてはそうですね。
人に本心を打ち明ける人格でもございませんし。
けれど、誰と共有しても、自慰行為には違いありません。
結局、私が私と言うだけ。
そこら辺を、春人は察しているでしょうか?
少し期待もしたりして。
こちらとて思春期の乙女。
妄想もします。
期待もします。
憧憬もします。
その上で、
「自慰もします」
が率直なところ。
「性欲だってあるんですよ」
「陽子さんでも……」
「私を何だと思ってるんですか?」
「高原のお嬢様……?」
「然程の存在でもありませんなれば」
「自重自粛……?」
「普遍的な観念です」
「そゆところが……加点対象……」
それはそれは光栄で。
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