第65話 石焼きビビンバ


「陽子たん!」


 はいはい?


「萌え!」


 氏ね。


「帰宅直後にブッ飛ばさないで」


「陽子が可愛すぎるのがいけない!」


 責任転嫁も、此処まで来れば清々しい。


 あくまで言動が清々しいだけであって、お兄ちゃんの意図はともあれ、私の心象は曇天なのだけど。


「要件は?」


「夕食は何を食べたい!?」


「お兄ちゃんが作るの?」


「いや! 凜!」


「石焼きビビンバ」


「オーキードーキー!」


 エクスクラメーションマーク無しで話せないのだろうか?


 少し勘案する。


 いいんだけど。


 愛されている証拠だ。


 それから、図書室で終えた宿題を確認していると、凜ちゃんが部屋に現われた。


 ナムルとキムチをお米と混ぜて焼く。


 うーん。


 スパイシー。


「陽子は虐められてないか?」


「拙が監視していますよ」


 二人は酒を飲みながら、不安と苦笑を織り交ぜて、閑談していた。


 一応、先の件は、お兄ちゃんには秘密だ。


 そうは言っても、これから先……何度か起こりえるだろう事象である事も……また否定は出来ないのだけども。


「……………………」


 石焼きビビンバをハグリ。


「愛されていますね。陽子さん」


「愛が重い」


「お兄ちゃんなら幾らでも結婚するからな!」


「娶る女性は幸せだね」


「婚約指輪を渡そう!」


「私以外にお願い」


「何で!?」


 こっちの台詞だコノヤロウ。


「はあ……」


 溜め息。


「あはは」


 凜ちゃんは笑った。


 多分に他人事の様だ。


 実際に、その通りではあるしね。


 別に笑って流せる程度の悪意を創造しているわけじゃ無いし、凜ちゃんにあたったってしょうがないのは承知で、笑えない。


「は! まさか凜と……」


「好みではあるよ」


「畏れ入ります」


 私の仕返しはサラリと流された。


 やはり経験値の差は大きい。


 恋愛的な駆け引きで、私は凜ちゃんに及ばない。


 知ってはいたけど、思い知らされた気分。


「俺の方が格好良い!」


「凜ちゃんと比べるのは間違ってる」


「畏れ入ります」


「凜!」


「はい」


「自害しろ」


「流石にソレは承諾しかねます」


「俺の陽子を惑わす存在は、全て死に絶えるべきだ」


「男性の殆どが死に絶えますね」


 いやぁ。


 照れる。


 既に伊達眼鏡は外している。


「これでも学校では苦労も多いんですよ」


「むぅ」


 お兄ちゃんも、凜ちゃんには、相応だ。


 基本、友達作れない有栖川兄妹。


 過ぎたるは異端の如し。


 及ばざるも異端の如し。


 そして有栖川の血は恵まれてる。


 異端であると言う事は、


「虐めて良いですよ」


 の布告に他ならない。


「大変だぁ~」


 石焼きビビンバをもぐもぐ。


「まぁ陽子きゅんは可愛いからな!」


「お兄ちゃんフィルター全開だね」


「妹萌えは昔から在る!」


 それは知ってるけど。


 趣味が読書な物で。


 お兄ちゃんの本も、ソレがいっぱいだしね。


「あらゆる妹は兄に愛される義務を持つ! つまり妹とは兄の愛の結晶だ! 兄が居るから妹が居る! 愛の世界より遣わされた遣愛使……それがお兄ちゃんという存在だ!」


「アルコール入ると、リミッター千切れるのかな?」


「先生は、基本そんな感じですね」


 さすが凜ちゃん。


 よくわかってらっしゃる。


「ピリリリリ!」


 スマホが鳴った。


 お兄ちゃんのだ。


「もしもし。ああ。原稿ですか。出来てません」


 いいのか、それで。


「先生も苦労が絶えませんね」


「凜ちゃんアシスタントみたい」


「さほどではございませんよ」


 謙遜謙遜。


「ビビンバは美味しかった。ご馳走様」


「お粗末様でございました。美味しかったと仰るなら、それ以上はありません由。こちらこそありがとうございます」


 スルッと、にこやかな笑顔が滑り出る。


 今日も凜ちゃんはイケメンでした。

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