第63話 優しいお説教


「とりあえず」


 とは凜ちゃん。


「コーヒーでも飲む?」


 職員室での事。


 給湯室で、コーヒーを淹れて、差し出された。


 当然ブラックで、淹れたてほやほやの……湯気がカップ……というか陶器のコップから立ちのぼっていた。


 有り難く頂く。


「で」


 コーヒーを飲みながら一言。


「何故にあんな感じに?」


「どうやら五十鈴さん……人気があるようで」


「美少年だしね」


「日高先生が言いますか」


「あはは」


 笑う凜ちゃん。


 自覚はあるらしい。


 私……というかレディの扱いが小慣れているのも、おそらくは青春を苦労したための名誉勲章なのでしょう。


「有栖川さんはモテるから」


「イモですよ?」


「陰キャ?」


「モブですね」


 そこは散々語った。


 そを見極めた五十鈴が例外で。


「いいんですけどね」


「お説教は?」


「警戒しなさい、とだけ」


「優しいですね」


「そもそも、拙は有栖川さんの味方ですので」


 有り難い。


 コーヒーを一口。


「それじゃなんで私を職員室に?」


「隔離処置です」


「にゃる」


 ほど。


 たしかに此処は安全地帯だ。


 教師がいるので。


 馬鹿どもも手が出せない。


「イジメですか?」


「ルサンチマンでしょう」


 他に言い様もなかった。


「虐められたら言うんですよ」


「そこは期待しています」


 わりかし。


 コーヒーを飲む。


「本当に有栖川さんは」


「日高先生も大概ですけどね」


「いやぁ」


 褒めてない。


 凜ちゃんらしくはあろうけども。


「それで? どうするんです?」


「学内ではアンデルスさんと金子さんから離れない事。多分コレだけでも結構違うと思われます」


「牽制になりますか?」


「なります」


 さいでっか。


 嘆息。


「お兄ちゃんには言わないでね?」


「ええ」


 頷く凜ちゃん。


 ――何処まで本気か?


 それはわからないけども。


 コーヒーを飲む。


「私って調子に乗ってる?」


「どうでしょうね」


 胡乱げな凜ちゃんでした。


「単なる思春期の摩擦に思えますけど」


 コーヒーを飲みながら一言。


 すっ惚けるような言葉でしたけど、その声質には憂いと勘案、予想と疲労が入り交じってございました。


「これから先も……」


「有り得ますね」


「日高先生は味方を?」


「全力で致します」


 心強い。


「じゃあ何かあったら頼ります」


「ええ。任せてください」


 教師らしい一言でした。


 少し主観は入れども。


「コーヒーのお代わりは要りますか?」


「気持ちであれば」


「では」


 コーヒーを注ぐ凜ちゃん。


「ぶっちゃけ在りですか?」


「学校の施設ですから、自由に使えるのでは?」


 さいでっか。


「というわけでお説教は終わりです」


「おー」


 パチパチ。


 拍手。


「学内で有栖川さんを面白く思わない人もいますので……出来うる限りの警戒をお願いしたいところですね」


「留意します」


「宜しい」


 コックリ。


 頷く凜ちゃん。


「先述の通り、どうしようもなくなったら気軽に頼ってください。コッチとしても未然に防げるなら、よほどそちらがマシですし」


「ではその通りに」


 そして優しいお説教は終わった。

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