第61話 図書室にて


「この時の摩擦係数が……」


 七月に入った。


 私たちは期末試験に向けて、勉強をしている。


 仮入部の件もあったけど、基本的にコッチ優先。


 この場合は、


「有栖川陽子優先」


 と相成るだろう。


 サラサラと問題を解く。


 これでも学年一位なので。


 伊達眼鏡のツルを、クイと、持ち上げた。


 うん。


 知的。


「陰キャっぽいですね」


 わぅんと五十鈴が笑った。


「イモを目指していますので」


 肩をすくめる。


 ぶっちゃけ男避け。


 これで色恋について躊躇して貰えれば、陰キャを目指している甲斐もあるんだけど、どうにも五十鈴には通用しないようで。


「五十鈴はこんな私で宜しいので?」


「可愛いよ?」


「…………ありがと」


 法法華経ホーホケキョー


「それで此処なんだけど」


 と勉強の指導。


 学童教師。


 場所は図書室。


 私は参考書を開いて、講義をおこなっていた。


 ていうか授業で習っているので知っているはずなんだけど、その辺の記憶についての能力は、ある種、人体構造の不思議についての命題だろう。


 普通に脳の基礎能力を向上させれば、もうちょっと人間……人類はどうにかなってるんじゃないかなぁ?


「数字はこっちの方程式に当てはめて……」


 ちょっとルサンチマン。


 私は良い。


 春人もいいだろう。


 けれど五十鈴は……。


「――――――――」


 ルサンチマンを呼ぶ。


「有栖川なんかと」


「趣味悪っ」


「つーか調子こいてね?」


 そんな御言の葉が聞こえた。


 そりゃ面白くないよね。


 わかっていますとも。


 サラリと問題を解く。


「人を騙して楽しいかね?」


「――――――――」


 少し、言葉に詰まった。


 私のコレは擬態だ。


 処世術。


 あるいは自重。


 けれども周りはそう思わないらしい。


 陰キャも難しい。


 ぶっちゃけ、男の視線に晒されるのが…………疲れた……って……それだけなんだけど。


 別に犯罪を行なっているわけでもないけれど。


「気にしない方が良いよ」


 五十鈴は苦笑していた。


「あう……僕たちは……味方……」


 春人もおずおずと。


「知っていますよ」


 それは本当に。


「それにしても教師役が理に適っていますね。教師を目指しているので?」


「別に」


 凜ちゃんを見ていると、少し幻想が壊れる。


 そげぶ。


「ま、いいんですけどね」


 そこは自己回答。


「大学には行くんだよね?」


「ええ」


 幸い金には困っていない。


 お兄ちゃん有りきで。


 両親も此処に加味できる。


「春人と五十鈴は?」


「えと……その……」


「一緒の大学に行けたら良いですね」


 わん。


 笑う五十鈴だった。


「あう……」


 春人も平常運転。


「さてどうしたものか」


 ペンをクルリと回す。


 この二人からして超絶的で、並べ比べられるコッチが順当に不評を買っているわけで……うーん……茶髪もよりけり。


「このまま終わればいいんだけども」


 そうも行かないのが人間社会の業で。


「有栖川さん?」


 三人の女子がこちらに声を掛けた。


 有栖川陽子。


 つまり私を呼んだのだ。


「何か?」


「ちょっと付き合って」


「女子と交際する趣味はござんせん」


 春人ならギリギリ在り。


 ていうか、あのイケメン具合は忘れるに時間がかかる。


「そう言う意味じゃないし」


「さいでっか」


 拒否も面倒だ。


 付き合う事にした。


「ソレじゃ勉強しておくように」


 記述したノートを置いて、私は図書室を後にした。

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