第57話 凜ちゃんとデート


「お待たせしました」


「今来たところですよ」


 うーん。


 ベタだ。


 ちなみに集合時間の二十分前。


 私が待ち合わせに顔を出すと、凜ちゃんは既に立っていた。


 紳士レベルがハンパない。


 ジーパンに薄手のジャケット。


 腕時計とプレートのネックレス。


 爽やかな黒髪は、丁寧に梳いてあり、清潔感増し増し。


 こっちとしての話なら、凜ちゃんはあまりにイケメン過ぎて……ぶっちゃけ華やか世界にダイブしても問題ないくらい。


「それでは行きましょうか」


 自然に私の手を取る。


「いけませんか」


「イケメンですな」


「あはは」


 いや。


 こっちは笑い事じゃないんですけど。


「先生ほどではありませんし」


 いやー。


 どーかなー。


 お兄ちゃんは、残念要素が多すぎる。


 そも恋愛の対象では無いし。


「一応凜ちゃんとは結婚できるからね?」


「してくれるんですか?」


「否やがなければ」


「では楽しみにしています」


 これですよ。


 私の皮肉をサラリと躱す。


 大人っぽい雰囲気に私はクラクラ。


「まずは映画ですね」


「ラブロマンス」


「のつもりですけど、ハリウッドですので」


 どうなるか見当も付かない……と。


 でもラブストーリーって、大体掘り尽くされてるよね。


 ベタのベタのベタ……ではあれど、二番煎じ、三番煎じと言われようと、面白いモノは面白いと言われる世の中で。


 最初に考えた人が偉い。


 紫式部偉い。


 映画はほどほどに楽しめました。


「次はどうしましょう?」


「ゲームセンターでも行きませんか?」


「拙は構いませんよ」


 手を繋いでキャッキャウフフ。


 キラキラスター。


 視線を集めた。


 凜ちゃんの清楚な御尊顔は見るに値する。


 私だって近くで見て眼福だ。


 女性の注目も集めて自然。


「陽子さんはモテますね」


「何故に?」


「男性の視線がウザったいくらいですし」


「凜ちゃんもね」


「ええ。有り難い事です」


 お互い謙遜しても意味は無いだろう。


「どうする?」


「予定通りゲーセンに行きましょう」


「じゃそれで」


 そんな感じでデートを続けた。


「それにしても先生は精力的ですね」


 とは凜ちゃんの御言の葉。


 アイス屋さんで、席に座り、アイスを食べている私たち。


「何が?」


「大学に通いながら、ライターの仕事もこなして。ちょっと心配にもなります。拙程度では慮っても力になれないかもしれませんが……」


「ま、ね」


 たしかにそこは尊敬する。


 御本人曰く、


「恋愛をアウトプットしているだけ」


 らしいけど。


 ――シスコンも大概にせえよ。


 としか言えない。


 凜ちゃんは何故か容認されてるけど。


「部活は決まりましたか?」


「あまり」


「手芸部は面白くありませんでしたか?」


「うーん。これぞ! って感じではないね」


「では何にソレを思うのかって話ですけど」


「見つかったら万々歳です」


「ホームの陰で泣いていた可愛いあの子が忘れられぬ」


「本気にするよ?」


「代償行為で良いのなら」


「純粋な好意は?」


「ありません」


「そこだよね」


「抱く事は出来ますよ。物理的に」


 男と女であれば当たり前だ。


「在る意味先生に恋してる?」


「ニューロンマップを……と云う意味ではそうかもしれませんね」


「恋人はいないの?」


「恋心は持っているんですけどねぇ」


「挑発しよっかな?」


「一応男なので据え膳は頂きますよ」


「お兄ちゃんに刺されるまでが一連の流れでも?」


「あるいは緩慢に死ぬよりドラスティックでは?」


「さすがは愛読者」


「夏を楽しみにしていますよ」


「照れる」


 ポリポリ、と頬を人差し指で掻く私でした。

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