第56話 神威の焦り


 校門に出ると、


「よ」


 神威が待っていた。


 コメントは貰っているので、意外でも無い。


 いや、まぁ、迷惑なのは変わらないんだけど。


 なんだかなぁ。


「ヒマなの?」


「それなりには」


「目立つんだけど」


「だからって陰キャしなくとも」


「自衛手段」


「防衛機制な気もするがな」


 そこまで卑屈ではないのだけども。


 たしかにその側面はあるかもしれない…………というか、正にその通りに思えはすれども、ぶっちゃけどうでもいい


 相対評価は気にしない事として、


「何しに?」


「仲良くしに」


「さいでっか」


「デートしねえ?」


「いいですけど……喫茶店でコーヒーくらい奢ってくださいよ?」


「その程度なら」


 そんなわけで市立図書館へ。


 内部に喫茶店が存在する。


 本を借りて、喫茶店で読書。


「面白いか?」


「それはまぁ」


 電気羊は。


 むしろソレを面白いと思えない……そんな感心と言いますか……あるいは卑下と申しますか……そちらの方が信じられない。


「図書館デートね」


「本でもオススメしましょうか?」


「例えば?」


「ファイヤースターターとか」


「何ソレ?」


「知らなくとも人生に損益がない情報です」


 文学全体を見れば……の話ではありますれど。


 読書は心の栄養だ。


 殊更押し付ける気も無いけど、手軽に別世界にいけるのは、海外旅行より有益な事もある。


 全てが全て……ではないけどね。


「何事も例外有りて」


「他には?」


「人間失格とか?」


「聞いた事あるな」


 まぁそりゃ知らない方がどうかしている。


「面白いか?」


「人による」


「陽子は?」


「ネガティブキャンペーン」


「……………………」


 ま、そういう目にもなりますわな。


 だって共感できないのはしょうがない。


 こんなネガティブな小説であっても……人に共感を持たせてこそ意味がある……少なくとも私はそう思う。


 その上で私にとって、人間失格は共有出来ない概念だった。


「主人公に共感できませんでしたので」


 オホホと笑う。


「ダメ主人公に共感を抱くのが醍醐味らしいな」


 スマホを弄りながら、そんな感想。


「ええ。理解できませんでした」


「リア充だからか?」


「さて。それはどうでしょう」


 針のむしろだ。


 今の学校生活は。


 教師を味方に付けているだけ在って、生徒は面白く思っていない。


 学年一位も響いているだろう。


 要するに目障りなワケだ……この有栖川陽子と呼ばれる一介の女子による存在の確立は……。


「お前にとって俺って何だ?」


「碓氷神威という男子高校生では?」


「ジーザスクライスト」


 そこに文句を付けるんですか。


「もうちょっと……何かな……」


 オレンジジュースを飲みながら、不満げな神威氏。


「色が欲しいな」


「女子に不自由していないでしょう?」


 健康的な大和男児だ。


 オーソドックスなイケメン。


 彼女の三人や五人いてもおかしくはない。


「お前もわからん奴だな」


「よく言われます」


 素知らぬ顔で、コーヒーを一口。


 パラリとページを捲る。


「読書って楽しいか?」


「文学少女を目指している物で」


「文芸部とか?」


「部活は仮入部中です」


 手芸部。


「放課後会えないか?」


「ラインでコメントくれたら調整しますが?」


「じゃあ今週末……」


「予定があるので無理です」


「内約は?」


「凜ちゃんとデート」


 ある種、ちゃんとした予定。


「……………………」


 何か不服でも?


 あえて聞かない私でした。


 ジーザスクライスト。

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