第52話 童貞と処女


 保護者集会が行なわれた。


 一時的な学業凍結。


 保護者への説明と、世間へのアピール。


 要するに世論を阿ったわけだけど、正しい姿勢であることは認める。


 ただそれが次の反発を呼ぶのは、容易だった。


 呼び水。


 そう呼ばれる事象だ。


 具象化は零と一で成り立った。


 不幸か否か。


 私はそれを知らずにはすまなかった。


『おい陽子』


 とは神威のコメント。


『なにか?』


 定期的にコメントのやり取りはしている。


 彼は陽キャなので、近付くと焼けただれそうだ。


 実際にルサンチマンを引き起こしたのも、彼のイケメンオーラの熱量故だったのだろうから……まぁそれとなく火傷の一つも起こす。


 南無三。


『やりまくってるって本当か?』


『どこの噂?』


『なんか俺らの中学の頃の奴らが騒いでる』


 …………。


 嘆息。


『情報化社会の弊害ね』


『ってことはマジなのか!?』


『想像はご自由に』


『だからなんで一々退廃的なんだよ』


『一通り世間に揉まれていますので』


 この程度は馬鹿らしくて反撃する気にも為らない。


 むしろ反応する方が「付き合いが良い」と呼ばれる領域で、そこに、その時点に、私は存在しないのだ。


『で、どんな噂?』


『なんか陽子と春人……だったか? あと転校生で、不純交遊してるって』


「ふむ」


 この場合、五十鈴が春人の処女を奪う形で良いのでしょうか?


 テンション上がって来た。


『ホモだとか背徳だとかビッチだとか』


『信じるのでしょうか?』


『いや……別に……。確認を取っただけだ。おまえが丁寧語になったときは、不機嫌か不条理が絡むからな』


 よくお分かりで。


 伊達に中学で仲良くはしていないということか。


『こっちの学校でも話題になってる』


『そこまでは感知しませんよ』


『卒アル見て、お前に興味持ってる連中も多いぞ』


『個人情報の取り扱いにはお気をつけを』


『お前が言うか』


 まぁね。


 それね。


 神威のラインIDを教えたのは確かに私だ。


『とりあえず伝えたぞ』


『承りました』


『処女のままでいてくれ』


『さてどうなることやら』


『おい』


『そっちこそ童貞なので?』


 それからコメントは来なかった。


「童貞なんですねぇ」


 幾らでも女子は寄ってくるでしょうに。


 性病が怖いんでしょうか?


 何となくながらそう思いました。


 ダイニングへ。


 コーヒーを淹れて、飲みます。


「大丈夫か陽子?」


 お兄ちゃんは心配症で、けれども決定的な言葉を吐かない……吐くことが出来ないお兄ちゃんに十字を切りたい気分です。


「御機嫌です」


 そう言うほかありませんでしょうぞ。


「イジメの件は……」


「お兄ちゃんの時とは違いますよ」


 クスッ。


 笑います。


 我が艦の損害軽微。


 キングストン弁を開く必要もございません。


「虐められたんだろ!?」


「さほどでも」


 ヒラリと手を振ります。


 切り傷は既に治りかけ。


 絆創膏も既に必要ないレベル。


「凜ちゃんに慰めて貰いましたから」


「アイツがいながら何やってたんだ」


「教師が生徒の全てを律することが出来るなら、人類は既に宇宙を征服してますよ」


「むぅ」


「むしろ凜ちゃんとしては二次災害に懸念を表明しているので、この一件で片付ける気が無いだけ、学校側より良心的です」


「セカンドレイプ」


「まぁそうなりますよね」


 お兄ちゃんでなくともわかること。


「処女のままレイプされるのも、乙ですねぇ」


「お兄ちゃんに捧げてくれるんだろ?」


「一生待っててください」


「堪忍!」


 こっちの台詞です。


「春人や五十鈴に絆されるなよ!」


「多分二人とも童貞ですよ」


「非処女?」


「魅力的な懸想ですけど、実現性が伴いませんね」


 婦女子としての嗜み程度は覚えておりますが……それにしたって私の処女性はさほど勘案に値するモノでしょうか?


 南無妙法蓮華経。


 結局のところ、私は私以外の何者でもなくて……だからこそ、きっと私は烏丸茶人の偶像足り得るのでしょうけど。

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