第49話 お兄ちゃんの苦悶


「Pppp!」


 アラームが鳴る。


 起床の時間だ。


「ううん……」


 正直眠い。


 ヒュプノスの誘いは……それほどまでに強力で、何にせよ眠らざるを得ない……と云う意味であまりに強烈でもある。


「サボろっかな」


「ダメだ」


 お兄ちゃんの声。


「目覚めのキスを」


「起きますよ」


 一瞬で覚醒まで持って行かれる。


「何でだよ」


「実の兄妹でキスはしないでしょ?」


「資料集めだ」


「シスコンなだけよ」


「むぅ」


 呻くお兄ちゃん。


「とりあえず朝食できてるから。ちゃっちゃと食ってくれ。」


「はーい」


 くあ。


 欠伸。


 背伸び。


 そしてダイニングへ。


 味噌の香りが迎える。


 焼き鮭の定食が其処には在った。


「おー」


「驚いたか」


「お兄ちゃん……なのかな?」


「いや凜」


「……………………」


 ……でしょうよ。


 朝餉もむもむ。


 焼き鮭の塩辛さや、旨味が御飯を進ませて、なお胃にも優しく、舌にも強制をしない味付けは凜ちゃんらしい。


 散々食べた味だ。


「ご馳走様でした」


 パンと一拍。


 ピンポーン。


 インターフォンが鳴った。


「おまえらか」


 お兄ちゃんがフォンに出る。


 どうやら相手方は複数形。


「……となると」


 春人と五十鈴か。


「帰れ」


 スパァン!


 室内スリッパで、お兄ちゃんの頭をはたく。


「はいはい。今出ますよ」


「陽子!」


 何でっしゃろ?


「お兄ちゃん以外の男と付き合うな」


「行き遅れても?」


「俺が責任を取る」


「私じゃお兄ちゃんの力にはなれないよ」


 それは散々思い知っている。


「そんなことは元から期待していない」


「でも凜ちゃんイケメンだし」


「アイツがいいのか?」


「顔が良いから…………要件の四十九パーセントは、まぁ満たしてるよね……銀英伝の言葉を借りるなら……だけど」


「お兄ちゃんには陽子しかいない!」


「大学ではモテるんでしょ?」


「陽子より可愛いヤツ居ないもん」


「光栄です」


 サラリと流す。


 事実、お兄ちゃんは私に依存している。


「――ソレが空虚だ」


 とは、私には言えない。


 どうしても負い目という奴は、コレはコレで…………面倒くさい物なのだ。


 南無妙法蓮華経。


「お兄ちゃんはソレで良いの?」


「子ども作らなけりゃ良いだけだろ?」


「そういう生々しい話は止めてくれる?」


「じゃあどうしろっての!」


「仕事をしなさい」


「はーい」


 そこは言う事を聞くらしい。


「く! 血の繋がりがそんなに大事おおごとか!」


「さてどうでしょう?」


 お兄ちゃんも恋愛以外は好男子なので、


「悪い気はしない」


 は本音だけど、


「やっぱり……ね」


 二の足を踏むのは妹としてしょうがない。


 ぶっちゃけた話、


「お兄ちゃんにも大切な人が出来れば良いね。いや本当に。こっちとしてもソレを望むよ。私は何も出来ないけども……」


 そう言わざるを得ない。


「陽子とか?」


 どうしてもソッチに繋げたいらしいな…………。


 嘆息。


「じゃ、学校行ってくるんで。お兄ちゃんも大学行くんでしょ?」


「そーだけどー」


「勉強頑張って」


「はーい」


 私の意見は聞き分ける。


「ぶっちゃけ凜はどうだ?」


「良い先生だよ?」


「そか」


 ――――?


 少し、その意味が分からない私でした。

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