第48話 神威さん焦り気味
夏も近付く梅雨頃。
今日はザルラーメンに相成った。
付け麺とも。
造っているのは凜ちゃん。
昨今は、答案の答え合わせで忙しいらしい。
恐縮ながら有り難いことに……時間を作って、エプロンを纏って、有栖川家の食事を作ってくれている。
萌え。
「私の成績どうだった?」
「適確でしたよ」
物腰柔らかい言葉が胸に染みる。
「それより金子さんはどうされました? 開幕パンチからあんな感じでしたけど」
「気に入られたみたいで」
「ですよね」
コロコロ。
笑う凜ちゃん。
…………冗談ごとじゃないんだけどなぁ。
「可愛い人にモテますね。陽子さんは。アンデルスさんも唯一のお友達が陽子さんみたいですし。何かしらの萌え成分を振りまいているのでしょうか?」
不名誉な。
「お兄ちゃんは?」
「性格が可愛いでしょう?」
その発想は無かった。
単なるシスコンな気もする。
アレを可愛いと定義するか。
凜ちゃんの薫り高いコーヒーを飲みながら、ダイニングで時間を潰していると、ピロリンと無機質な電子音。
「ふむ」
神威からだった。
スマホのラインだ。
『なあ。又聞きしたんだが』
『はあ』
『転校生に告られたって本当か?』
『本当ですけど』
『なんて返したんだ!?』
『謹んでごめんなさい』
『そっか』
そもそも報告する義理もないのだけども。
『焦った?』
『そりゃな。ぶっちゃけお前は、ちょっとモテすぎだ。陰キャやるんじゃなかったのか? どう考えても破綻してるぞ』
あう。
そ~言われると照れるな~。
『ま、一目惚れを否定はしないけど……そこまで安い女でもないんで』
『春人はどうしてるんだ?』
『いつもの通り』
いつもの如く。
『今度デートしね?』
『気が向いたらね』
『せめてラインIDの件くらいは罪滅ぼしてほしいんだが』
『私のせい?』
『根幹を為すのはな』
さいでっか。
『前向きに考えてみます』
『またそういう政治家みたいな事を……』
『責任ある発言をしないのがマスメディアの処世術なので』
『わかるけどさ』
わかるんだ。
島国の業よ。
『そいつ格好良いのか?』
『神威ほどじゃないけどね』
どちらかと言えば、
「可愛い」
に該当する。
……。
…………。
………………。
……………………。
それ以上コメントは来なかった。
何か地雷でも踏んだっけ?
「スマホ中ですか?」
凜ちゃんが尋ねてくる。
「終わりました」
「では夕餉にしましょう」
「さっさーい」
「先生も呼ばないと」
付け麺。
ピリ辛ダレに、ゴマと長ネギ。
「凜ちゃんは良いお嫁さんになるね。うん。これは間違いない。娶る人が羨ましいし怨めしいかなぁ」
「恐縮です」
穏やかに笑われる。
「私のことどう思ってる?」
「愛らしいですよ」
「陽子みたいで?」
「陽子みたいで」
コックリ頷かれました。
「さいでっか」
純粋に照れる。
凜ちゃんの爽やかさは目に毒だ。
「陰子でも良いんですけど」
「お兄ちゃんに影響されすぎ」
「ですね」
「面白いか? 俺の小説?」
眉をひそめるお兄ちゃん。
聞く人によっては皮肉に覚えるかも知れないけど、此奴の場合は本気で疑わしく思っているのは間違いない。
この辺、器用な技術があると別の側面で不器用になる典型。
で、
「ええ」
凜ちゃんが安心させる様に頷く。
「今のところは」
私も麺を手繰りながら頷いた。
凜ちゃんの真摯な心遣いをフォローする形になったけど、たしかに少年少女にとって、お兄ちゃんのシナリオは夢と希望と青春と中二病に溢れている。
付け麺……美味しゅうございました。
まる。
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