第45話 あれが噂の転校生


 六月に入った。


 梅雨の季節。


 長崎は今日も雨だった。


 というボケは置いておいて。


「今日は転校生を紹介します」


 日に日に蒸し暑くなっていく。


 梅雨前線は休暇を申請し受諾されたのか――今のところ雨が降り出す気配も無く、相反するように太陽の照る……と言ったところ。


「金子です。よろしくお願いします」


 私は頬杖をついて、窓を見る。


 既述の如く、今日の太陽の元気なものよ。


 雨は好きだ。


 場面。


 あるいはステージか。


 本でもよく舞台装置に使われる。


 お兄ちゃんも時折使うので、濡れるのは不快でも、情緒は確かにある。


 私の勘違いの産物かも知れないけど。


「「「「「――――――――」」」」」


 女子の悲鳴が聞こえてきた。


 聞いた……むしろ認識した、か。


 大声であるにも関わらず、私の耳を右から左へ……スルーというか、カルテジアン劇場で明朗されないのでホムンクルスも認識が鈍い。


 要するに認知のレベルで、


「何かを騒いでいる」


 はわかったけど、それを情報として脳が処理しない。


 結果、雑音だけが残った。


「……………………」


 …………雨降らないかな……。


「こちらは?」


「有栖川陽子さんですよ」


 凜ちゃんの声が聞こえた。


 知らない男子の声も。


「有栖川さん」


 名を呼ばれる。


 意識のピントを外から内に合わせた。


「…………――――」


 イケメンがいた。


 正確にはイケメンではない。


 格好良いとはお世辞にも言えない。


 けれど、その御尊顔は丁寧に造られていた。




 ――犬耳とか似合いそう。




 一瞬そう思った。


 周りにもイケメンはいるけど、その誰とも合致しない。


 単純にタイプの問題でもあろうけど、それにしては何と申すべきか……一種のシンボリックとして立脚している。




 お兄ちゃんは残念無念。


 私と同じ設計図で生まれたので、同じ茶髪だ。


 顔も整って(身内贔屓)良くモテる。


 ただ言動と思惑がシスコンに偏っているので、ある種、将来が心配だ。




 凜ちゃんはキラキラしている。


 ゴテゴテ飾り立てるのではなく、簡素で清潔感に溢れていた。


 大人の男性と思わせる……というか大人の男性なんだけど。


 森の香水にクラクラする爽やかイケメンさん。




 神威は大和男児だ。


 女子の気を惹くカリスマを持ち、少年っぽく、快活。


 嫌味が少なく、同い年には特にモテる。


 謙遜を覚えれば、素敵な男の子になるだろう。




 春人は可愛い。


 これは生まれ持った因業だろう。


 金髪碧眼の特異性は、在る意味で可哀想であり、在る意味で逆の考察……羨ましくもある。


 他者に怯えること多々で、そこがまた庇護欲をそそる。




 対する目の前……教卓の前に立っている少年は、動物的だ。


 ワンコを想起させる。


 さっき、


「犬耳が似合いそう」


 と思ったのはソレ。


 こちらを見てキラキラと赤色の瞳を輝かせている。


 髪は紅茶色。


 私や春人に続き、三人目の異彩色。


 もちろん地毛だろう。


 髪を染めるのは校則違反。


 それでも何か、ローティーン系ワンコを思わせる。


 顔の造りは積極的に良い物の、纏う雰囲気が、


「格好良い」


 より、


「可愛らしい」


 に傾倒する。


「有栖川陽子さん」


 また名を呼ばれた。


「陽子で良いですよ」


「では陽子」


 クラスの視線が私に集中した。


 熱を持っている。


 何かしましたか?


 私…………。


「小生と婚約してください!」


「…………は?」


「責任は取ります。婚前交渉も控えます。どうですか!」


 どうですかって。


「謹んでごめんなさい」

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