第44話 アトリエ


「こちらが……アトリエになります……」


 アトリエ部屋に、春人が案内してくれた。


 こちらとしては光栄なんだけど……疑問もありまして、広々とした空間……アトリエに思うところが無いと言えば嘘に相成る。


「ちょっと広くない?」


「ああ……」


 種明かし。


「えと……」


 なんでも、高級マンションの最上階の部屋を二つ買ったらしい。


 春人の両親が。


 で、壁をぶち抜いて一つの部屋に。


 アトリエはその時に造られた物だとか。


 布が散乱し、完成予想図があり、型紙が置いてあり、パソコンが鎮座していた。


 パソコンの画面には3Dグラフィックが。


「もしかしてコレも?」


「えと……役に立ちますよ……」


 完全にプロの仕事場だ。


 ここまで本格的とは。


 ぶっちゃけた話……これでは西欧ブランドのファッションショーやパリコレでも通用するレベルじゃあるまいか?


「親の……遺産だから……」


「……………………」


 何を語れと?


「あ……ごめん……重いよね……」


「それは構いませんが」


 両手を広げる。


「これが陰子の衣装ですか?」


 机に放置してある縫い物を取る。


「そだね……」


「私の分は?」


「今から……」


 キラリ。


 春人の目が光った。


 ちょっと警戒してしまい……まさか春人が私を襲うわけではないにしても、光る瞳孔……あるいは虹彩は無視能わず。


「な、何するの?」


「採寸……」


 わーお。


「とりあえず……メジャーを充てさせて……」


「構わないけど……」


 そんなわけでこんなわけ。


 背丈からバストまで、念入りに採寸されました。


 採寸表を出力すると、ソレに合わせて、春人は型紙を切り出す。


 その手際の鮮やかさたるや。


 素人目にも、


「芸術品」


 ととれる。


「こんな感じ……かな……」


 一息で切り抜いてしまい申した。


 それからパソコンで3Dのモデリングを組んで、完成像へと映像……グラフィックで表現していく様は、まるで芸術にも似て。


 ――マジで、これで食っていけるんじゃあ……。


 とは私の感想。


「とりあえず……」


 と春人。


「陽子さんの衣装は……縫える……」


「手伝う事は?」


「在るような……無いような……」


 どっち?


 要するに一人でやった方が効率は良いんだろうけども。


「こんな感じで……どうかな……」


 パソコンの画面を見せられる。


 陰陽陽子の衣服が、灰色で表示される。


 モデリングの映像だ。


「可愛い」


「陽子さんが着たら……もっと可愛い……」


「っ」


 ドクン。


 心臓が鳴った。


 はにかむ御尊顔の愛らしい事よ。


 今は前髪も表情を隠していないので、直に春人の魅力が伝わる……それはつまり直球勝負にも相成るということで、私の乙女心も撃ち抜かれて必然だ。


 何時もは、前髪と伊達眼鏡で隠しているんだけど。


 伊達眼鏡同盟。


「あわわ……!」


 狼狽える。


「どうかしましたか……?」


「可愛い!」


 ヒシッ、と抱きしめる。


「あう……」


「可愛いなぁ」


 本当に、心底、そう思う。


 まこと以て有り得ない次元とでも言いますか……もうちょっと述べるならレイプしてあまりあるレベル……いや、しませんよ?


「あうぅうぅ……」


 春人は照れるばかりなり。


 うん。


 強姦願望。


「私以上に春人が可愛い!」


「あはぁ……」


 蕩ける春人でした。


 他者にエッチな目で見られると春人は蕩けるということは……既に私や凜ちゃんの知るところでもあって……だから確かにズルいのも事実。


 けど許す。


 本当に可愛いのだ。


 乙女にも似た愛らしさよ。


「男の娘だなぁ」


「僕の……理想です……」


「だよね」


 それは、わかっているつもり。


「けど、私に衣装作れるかな?」


「指導しますよ」


「それならいっか」


 そう承諾する私でした。


 陰陽陽子おんみょうようこ……ね。


 私こと陽子と名前が一緒なのは、


「まぁ」


 南無三ということで。


 基本、烏丸の業だ。


 私がどうこう言う物でも無い。

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