第36話 対岸の火事


 ゴールデンウィークも終わりに近付く。


『謀ったな!』


『孔明でもシャアでもないんですけど』


 休日もそこそこ。


 暇潰しに勉強していると、神威からコメントがあった。


『ラインのID流布したろ』


『えん罪』


 流布はしていない。


 一人に教えただけだ。


 その個人情報が、どう扱われるかは、私の知った事ではない。


 とはいえ相手ばかりにはあまりに深刻な御様子で……同情はしないけど哀悼を捧げる程度はやってみせるアルルカンな私。


『御苦労様』


『何故教えた!?』


『教えなかったら刺されそうだったので』


 こんなモブキャラが好男子と仲良くすれば、裏を勘ぐるも必然だろう。


「くあ」


 欠伸。


 勉強の手を止める。


 うーん、眠気は人類永遠の大敵だ。


 意識の持続性を途切れさせるのもそうだけど……集中力の欠損の意味で、どうしても知性活動に限界を設定される。


 生物の、脳持つ故の、悲しさよ。


 キッチンに顔を出す。


「お、陽子」


「コーヒー作って」


「お兄ちゃんコーヒーが飲みたいのか?」


「それでいいです」


「お兄ちゃんミルクは入れるか?」


「絶対に要らない」


 なにか卑猥な言葉に聞こえるのは、私の耳が腐っているのか。


『おかげでコメントが結構来てるんだぞ?』


『御苦労様』


『本当に反省してねえな』


『対岸の火事』


『自撮り画像付きで「仲良くしよう」が、ゴールデンウィーク入ってから既に五件。ぶっちゃけ引くレベル! 自重って言葉を知らねーのかソッチの連中は!』


『モテモテだね』


『んなわけあるか』


 いや、実際多数にアプローチされているわけで。


 直接的な証左ではござらんか?


『抱けば?』


『性病が怖い』


『わかる~』


「ほい。お兄ちゃんコーヒー」


「ありがと」


 お兄ちゃんからコーヒーを振る舞われて、ソレを飲む。


 ダイニング。


 お兄ちゃんはリビングでパソコンを広げていた。


 ライターの仕事だろう。


『お見合いかっつーの』


『自撮りがお見合い写真?』


『似たような物だろう』


 南無。


『可愛い子いなかった?』


『目がでかい女ばかりだな』


 画像加工ね。


 コーヒーを飲む。


 インスタントだけど、お兄ちゃんの意思を感じる一品。


 べ、別にコーヒー淹れてくれたからって何とも思ってないんだからね!


 うん。


 感謝はするけども。


『ま、愛されてる証拠という事で』


『これをガチで言うからな』


 何か問題が?


 スマホ、カシカシ。


『安易だった事は認めるけど』


『手遅れだ』


 まぁね。


 それね。


『けど神威に近付くと、またウザいって言われそう』


 コメントが帰ってこなかった。


「…………」


 コーヒーを飲んで、まったりする。


『彼氏とかいないよな?』


『マナー違反』


 いないけども。


『そうか』


 何を納得している?


 処女で悪いか?


『ってなわけでデートしようぜ?』


『会話に繋がりが感じられないのですけど?』


『軽くだ』


 重くなければいいのですか?


『昼飯奢ってくれるなら構わないけど』


『じゃあそれで』


『十一時半に喫茶店ロマンス集合ね。ふわとろオムライスごちになります』


『ああ、それでかまわん』


 そう相成った。


「陽子」


「へぇへ」


「昼飯はどうする?」


「外で食べる」


「要らないか?」


「ですなた」


 奢りで、ふわとろオムライスだ。


「男か?」


「生物的には」


「浮気か?」


「そも主がいないんですけど」


 恋人がいないと浮気も発生しようがない。


「お兄ちゃんの嫁だぞ?」


「頭を象とすげ替えなさい」


 少しはマシになるでしょう。


「むぅ」


「凜ちゃんによろしく」


 サラリと述べる私でした。

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