第31話 デートの前の


「ゴールデンウィークかぁ」


 四月も終わりの今日この頃。


 陽気な季節の到来を宣言するような、窓の日差し。


 私は中間テストに備えて勉強をしていた。


 五月の中間くらいに行なわれる。


 それはまぁ高校生にとっての必然で在って、ついでに強要的なイベントの通過でもあるのだけれども。


「飛び出せ青春!」


 …………。


 BGMは無視の方向で。


「陽子! デートしよう!」


「警察に職質喰らいますよ」


「え? 警察って職質が仕事じゃないの?」


 たまに内の兄貴はわからんことをいう。


 なんというかマイウェイを突っ走る…………非常識人のような言動が、端々に目立つのだ。


「先生は要するに構って欲しいんですよ」


「凜ちゃんがいうと説得力あるわぁ」


 この人はお兄ちゃんの理解者だ。


 あらゆる意味で、お兄ちゃんを知り、私を知り、ついでにその補完をする……人類きっての調停者と相成る。


「凜ちゃんは仕事は?」


「していますよ」


 ――タブレットで。


 とのこと。


「凜ちゃんが行くなら付き合う」


「何故!?」


「お兄ちゃんと二人は疲れるから」


「何故!?」


「そのハイテンションが」


「じゃあローギアにするから」


「そこまでの器用さは求めてないよ」


 基本的にお兄ちゃんはドッカンターボだ。


 付き合う身にもなれ――は私の思うところで、何にせよ人をそう上手く扱えるなよ……という意思表明でもあったりして。


「そだ」


 スマホをカシカシ。


「何してるんだ?」


「デートならもう一人」


「呼ぶのか?」


「凜ちゃんとも会わせたいし」


「拙……ですか?」


 クネリ、と首を傾げる凜ちゃん。


『今ヒマ?』


『ヒマ』


『遊びに行かない?』


『いいの?』


『大歓迎』


 ってな具合。


「いいので?」


「大丈夫」


 ドン。


 胸を叩く。


「どうせ暇潰しに勉強してるだけだったから」


「それも哀しすぎるな」


「だから付き合って」


「飛び出せ青春」


「凜ちゃんに」


「お兄ちゃんは!?」


「付いてきたいなら構わないよ?」


「このツンデレめ」


「本当にそう思う?」


「うむ!」


 お兄ちゃんも苦労してるなぁ。


 主に社会適合の範囲で。


「それじゃ着替えますか」


「出てけ」


 扉を指す。


「陰キャは止めてくれよ?」


「わかってる」


 流石にプライベートで、陰キャやモブ子は無しだ。


 ファッション雑誌の丸パクリでコーデして、髪も三つ編みにはしない。


 元より伊達眼鏡も付けていない。


 裸眼だ。


 姿見で服と髪型を整える。


 メイクをして出来上がりだ。


「か」


「か?」


「可愛い」


「てい」


 抱きつこうとした、遺伝子同位体を差し止める。


「凜ちゃん。どうにかして」


「可愛いですよ」


 こっちに抱きつこうとするお兄ちゃんの首根っこを引っ掴んで、そんな論評。


「光栄です」


 慇懃に一礼。


「その台詞回しはどうにかなりませんか?」


「処世術ですので」


 何時もの様に、何時もの如く。


 お兄ちゃんと凜ちゃんはラフな格好だった。


 どっちも地が良いので、ゴテゴテ飾り付けることもない。


 お兄ちゃんはワックスで髪を立てている。


 凜ちゃんは丁寧に梳いて、清潔感を演出。


「うーん」


 悩む。


「何だ?」


「何か?」


 いや。


 絵になる二人だなって。


 ――いっそ二人でデートすれば?


 は、思っただけで、言わなかった。

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