第29話 陰キャの噂


「くあ」


 欠伸をする。


 黒のセーラー服が翻る。


 フワリ……と、カラーもスカートも。


 とはいえ、乙女は乙女の事情で、清廉にして潔白な態度を……常に世界に明示し続けねばならないカルマがある。


「寝不足……?」


「それなりに」


「朝ご飯は……」


「しっかりと」


「それなら……いいんだけど……」


 同じセーラー服の春人と、肩を並べて登校。


 シスコンの話をしながら、とつとつと音を鳴らして通学路を歩くも、隣にいるセーラー男女おとめの希少性を鑑みれば、春風すら輝かしく。


 などと思っていると、


「――――――――」


「――――――――」


「――――――――」


 視線を感じた。


「?」


 ジロジロと睨みやられる。


 ――何かしたかな?


「あう……」


 小動物の春人も気後れ。


 表情はわかんないけど。


 教室まで歩みを進め、席に着く。


 席替えは行なわれていないので、毎度の場所。


「放課後何かする?」


「えと……どうしましょう……?」


 すっかり春人と仲良くなっている私でした。


 しばらく話していると、


「有栖川さん?」


 愛すべきクラスメイトに名を呼ばれた。


「……………………」


 声を遡行すると、一人の女子生徒。


 ぱっと見……派手だった。


 髪は黒だけど、光の反射は茶を示している。


 校則ギリギリで染めているのだろう。


 裸眼で、睫毛を盛っている。


 スカートも短く、今どきの女子高生……って感じ。


「何か?」


「有栖川さん……碓氷さんと仲良いの?」


「そうでもない」


 何故に?


「でも昨日一緒に……」


「…………あー」


 アレね。


「同じ中学。クラスメイトだったのよ」


「あ、ソレで」


「そうそ」


「付き合ってる?」


「まさか、よね」


「ていうかなんで陰キャやってんの? うけるんですけど」


 笑いを取ってるつもりもないものだ。


「卒業アルバムじゃ結構イケてたじゃん」


「青春の光と影ですから」


「うちらのグループ入らない? 結構他校と交流してるよ」


「要熟考」


 それだけ返した。


「その言葉、素? おもろいね」


 だから笑いをとっているつもりは…………まぁいいか。


 退廃的な口調は、私の処世術だ。


 気苦労して尊敬語と褒めそやしの言葉を口ずさむのは、カロリーを消費するのに痩せないという『誰得』な現象だ。


「なんなら碓氷さんのラインID教えようか?」


「紹介してくれんの?」


「それが聞きたいんじゃなかったの?」


「あはは。わかる?」


「中々の好男子だしね」


「……………………」


 少し、春人が気圧されたように震えた。


 何故よ?


「ホイ」


 神威のIDを渡す。


「助かるー」


「ま、お好きに為さって」


 肩をすくめる。


 元より彼の自業自得だ。


 軽率な行動のツケを払って貰おう。


「陽子さん……」


「何でしょう?」


「いいの……?」


「どうだろね?」


 別に何とも思ってないわけでもない。


 考えてはいないけど。


「超イケじゃん」


 何が?


 卒業アルバムの神威が……らしい。


 中学のアルバム見て、


「誰それがイケてる」


「えー? 趣味悪くない?」


「この人いいよねー」


 そんな話題にものぼるらしい。


 ついでに私の中学時代もバッチリ認識されてしまった。


 陰キャ生活は気に入っているので、あまり波風立てたくないんだけど。


「はぁ」


「溜め息……」


「ま、ね。色々と面倒も起こる」


 中学の頃は、トップグループにいたので、それなりに努力はしていた。


 その努力が高校生で足を引っ張る事になるとは。


「黒歴史……かな?」


「∀ガンダム……?」


 通じるのね。


 サブカルオタクじゃ無くても知っている……世間一般で流通する単語という意味で、『黒歴史』という言葉を作ったあの監督は凄いと思ふ。


 苦笑。

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