第28話 兄と朝と


「起きたもれ」


 んあ?


 ムニィと頬を引っ張られた。


 ブルドッグ。


 その屈辱で、目が覚める。


 目の前には茶髪の男の人。


 何か毒づいてやろうか……とは思うも、どこか空虚で得がたい空気は、何かしら理性を沈静化させる。


 実の兄に対して、毒舌の砲撃を浴びせるのも……大艦巨砲主義の悪しき慣習と言えば……まぁその通りではあれども……なんだかなぁ……無念無想。


「お兄ちゃん……」


「御機嫌如何?」


「よく眠れました」


「なら宜しい」


 苦笑。


「メシできてるから。陽子きゅんも速やかに起床すること」


「きゅんって付けるな」


「じゃあ陽子」


 さいです。


「可愛いなぁ」


 恍惚の表情で言わないで欲しい。


 兄と妹って分かって言っているのだろうか……と、時折、『残酷な天使の命題』を想い起こす私でした。


 ソワカ。


「ある種のセクハラよ?」


「今に始まった事じゃないし」


 こいつ……開き直りやがった。


「眠っているところをキスしたりしてないでしょうね?」


「……………………」


「その沈黙は何!?」


「小粋なジョーク」


「本当でしょうね?」


「好きなのは本当」


「それは伝わってきますよ」


「じゃあ結婚」


「しません」


 むしろ出来ません。


「お兄ちゃんには惹かれない?」


「引きはしますけどね」


「そっかぁ」


 どうせだから架空の妹を愛でてなさい。


 朝食はフレンチトーストだった。


 サラダとコンソメ。


 後ベーコン。


「仕事は良いの?」


「少し落ち着いた」


「大学は?」


「今日は行くつもりだ」


「大変じゃない?」


「別に苦に思った事も無いんだが」


 逆に凄い。


「凜ちゃんもいないし」


「二人きりだな」


「何もしないけどね」


「えー」


 そこで不満そうな声を出すのがお兄ちゃんの悪癖だと思ふ……。


 もむもむもぐもぐ。


 御飯を食い散らかして、お兄ちゃんの自然な笑顔を見て、私は自然と、健全と、食後の言葉を口にしていました。


「ごち」


「お粗末様でした」


「さて、じゃあ私は登校を」


「送ろうか?」


「春人と約束してるからいい」


「むぅ」


「恋愛は自由だよ」


「お兄ちゃんともね」


「憲法の範囲内で」


「じゃあ革命を起こそう」


「生まれてくる子どもが不憫」


「子どもを作らなければ良いの?」


「子どもを作らないと老後の年金が安定しないよ」


「十分、見通しの悪さは明示されてるが……」


 そですねー。


「とにかく大丈夫だから」


「イジメとか受けてないか?」


「基本モブ子なんで」


「玉石は見分けが付くはずなんだが」


「お兄ちゃんの時とは、少し事情も違うけどね」


「さもありなん」


 うん、と頷かれる。


 制服を着て、髪を整えて、伊達眼鏡。


「イモだなぁ」


 我ながら自嘲してしまう。


 誰に迷惑かけるでもないけど。


「ザ・文学少女」


「単なるメガネっ娘だ」


 黙らっしゃい、お兄ちゃん。


「凜によろしくな」


「迷惑は掛けないようにする」


「むしろ頼るくらいで丁度良い」


「友達だもんね」


「教師と生徒でいたすなよ」


「お兄ちゃんは凜ちゃんを何だと思ってるの?」


「友達」


 ……宜しい。


「ただアイツは陽子を好きすぎる」


「誤解を招く事言わないの」


「シスコンのファンだから」


「中性子は出てこないの?」


「もうちょっと待ってくれ」


 別に急かしているわけでもないんだけど。


「そんなわけで行っています」


「恋に恋をしないでな」


「それは今後の気分次第」


「愛してるぞ!」


 ご厚意だけ有り難く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます