おわりに

 本論は一応、これで終いとして筆をおくことにする。追々、既存の議論に捕捉するかたちで加筆する可能性もあるが、新たな論点を付け加える予定はない。


 本論で述べたものは、いずれも退屈でさほど新規性のあるものではなかったに違いない。だが、本論の目的は愉快な話をすることではなく、また目新しい視点を提供することでもない。


 最初述べたように、従来の「表現の自由」を巡る議論は、極めて初歩的な地点を足踏みしてきた。それは、表現の自由を守ると称する人々が全く支離滅裂な主張を繰り返しているからに他ならない。


 そのような稚拙な議論は無視すればよいと思うかもしれない。私も、それができたらどんなに楽かと思う。だが、ヘイトスピーチの蔓延という過去の事例からわかるように、稚拙な主張も無視し続けば支持を得て、甚大な影響を及ぼす。


 本論は実に初歩的な議論を、わかりやすく簡潔に、短く説明したつもりである。ときには端的すぎたり、簡潔すぎるようなところがあったかもしれない。だがこれは、本論が初歩を理解できていない人々に向けて書かれた、一種のチュートリアルであるための必然である。


 とはいえ、本論を通読してくださった読者の大半は、本論を必要としている人々ではなく、すでに本論の内容なぞわざわざ私に説かれずともわかっている人ばかりではないかと思う。だから、そういう人たちにお願いしたい。


 本論は、ネットの議論で稚拙な主張に出くわしたとき、URLを投げつけるかたちでぜひ利用していただきたい。その際に「鬼は外」と言うと完璧である。要するに、本論の存在意義の最たるものは、初歩的な説明を逐一しなければいけない労力の省略である。


 あなたが極めて稚拙な議論を目にし、しかしその稚拙さを一から文字を起こして説明するのは骨が折れるというときに本論は役に立つ。すでにまとめられたものであれば、リンクをコピペしてわずか10秒で必要な説明を終えることができる。


 リンクを送られた相手の大半は、読みもしないだろう。だが、それでいいのかもしれない。少なくとも、相手が数千字の文章も読まない不誠実な人間であることは白日に晒されるのだから。その程度の成果を得るために、わざわざあなたの貴重な時間を割く必要もあるまい。


 我々は議論を「前へ」進めなければならない。ついてこれない人々の相手はこの程度にして、次はぜひ有益な議論をしようではないか。

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性暴力表現を公から追放する論理 新橋九段 @kudan9

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