第341話 類は友を呼ぶ
今回のタイトル『類は友を呼ぶ』は『変態は変態を呼ぶ』と読んでくださいね。
理由は……読めばわかります……。
どうしてこうなった!?
==================================
帰り際に拾った腹ぺこエルフはまだユグシール樹国の王女アイル・イルミンスール殿下と100%決まったわけではない。似ているだけの可能性が残っているのだ。僅かではあるが。
本人の口から王女かどうか聞き出したいところ。だが、エルフさんは極度の疲労のため熟睡中なのである。余程疲れがたまっていたようだ。
彼女はお腹を盛大に鳴らしながら眠っている。ぐぅぎゅるるるるるるるぅ~ぐぅぎゅるるるるるるるぅ~、と。
その……大変失礼ながら、お腹壊してるのかと疑ってしまいました。
ビュティの簡易な診察によると空腹による音らしい。
取り敢えず、現在は屋敷に連れ帰って客室に寝かせている。
「あふぅんっ! ご主人しゃまぁ~! 心ここにあらずでしゅよぉ~。あぁでも、雑に扱われているという感じがぁ~! これはこりぇでぇ~!」
「黙ろうか、変態」
ビシィッ!
「おほぉぉおおおおおお~っ!」
「
「自らおねだりするとはとんだ変態だな」
パシィンッ!
「きゃうんッ! 痛気持ちいいデス!」
「ご主人様! ぜひこの雌豚を! おほぉっ! ありがとうごさいましゅっ!」
ピシィッ!
「あんッ!」
パシィンッ!
「おぅふぅっ!」
ピシィッ!
「これデスこれぇ~!」
パシィンッ!
「もっと! もっとぞんざいに! 乱暴に! 暴力的にぃ~!」
ピシィッ!
「痛みが身体の奥底まで届いちゃいマス~!」
パシィンッ!
「しゃしゅが~ごしゅじんしゃまぁ~! あへぇ~!」
鋭い音で叩くたびに官能的な嬌声があがる。
四つん這いになった女性二人をひたすら無心になって叩く俺。
……うん、何やってんだろ。
「何って家畜の調教です!」
「……家畜風情が飼い主の心を読むな」
「も、申し訳ございません! 分別がないこの獣畜生をお仕置きしてくだしゃいっ! 過激に! 苛烈に! 強烈にぃ~!」
瞳を潤ませてお仕置きを強請るケレナ。床に四つん這いになった彼女の背中に座り、手に持ったハエ叩きで切なそうにフリフリモジモジしているお尻をペチリ。
パシィンッ!
実に良い音が鳴った。
「おほぉぉぉおおおおおお! ご主人様の椅子になってハエ叩きでお尻を叩かれるなんて……これしゅごい! しゅごいのぉぉぉおおおおお! 雑な叩き方がさらにイイのぉぉぉぉおおお!」
「……うわぁ」
俺、ドン引き。
ドン引きしても変態には逆効果だった。おほぉおお、と椅子が嬉しそうにビクンビクンと痙攣して喜んでいる。
誰かこの変態をどうにかしてくれ……。
「しっかし、こんなものまで作るとはな。引くわぁ」
「蔑んだ視線! ありがとうございましゅっ!」
「会心の出来デス!」
喜ぶ四つん這いの女性二人を一瞥し、ため息をつきながら今日手渡されたハエ叩きを観察する。
植物でできたハエ叩きだ。これは木製だろうか。よく
どこかのポワポワした不思議ちゃん研究者と極度の変態がタッグを組み、試行錯誤を重ね、人体を叩いたときに最も効果的で聴覚的にも優れ、撓り、硬さ、強度などが最高にして至高の材質を見つけ出したらしい。
それを加工して、もう一人の
軽く叩いただけで物凄く良い音がする。
「ハエ叩きというのがポイントです! 叩かれる私たちは、そう! 羽虫なのです! 家畜よりも更に下の存在である邪魔で鬱陶しいだけの羽虫! 素敵ですぅ~! 現在は蔦で作った調教用の鞭も誠意製作中です! 完成した暁にはぜひ鞭を振るってこの家畜を調教をしてください!」
「ワタシはポジションはどうでもいいので、甘美な痛みだけをくだサイ!」
鞭も作っているのか……。もうどうにでもなれっ!
ピシィッ!
パシィンッ!
「おほぉおおお! 何という絶妙な痛み! この音がまた素晴らしい! よくやりました、我が同志よ!」
「きゃうんッ! フフフ、ありがとうございマス。実はどんなに弱く叩こうが、どんなに強く叩こうが、与えられる痛みは常に一定で、絶妙で最高の痛みになるよう調整してあるのデス!」
「なんと素晴らしい! しかし、個人的には弱々しい痛みと強い痛みの緩急が欲しいところですね」
「……ハッ!? 強弱の緩急デスカ! それは思いつきませんデシタ! では、一定の強さ以下の痛みはそのままにしたほうがいいかもしれませんネ。次回までに調整しておきマス!」
「任せましたよ、我が同志!」
「ハイ、先輩!」
四つん這いの美女と美少女が、お互いにキリッとした良い顔でサムズアップをしている。
このハエ叩き、まだ改良されるのか……。
二人の顔に何故かイラッとしたのでハエ叩きでお尻をポンポンと叩いてやった。
ピシィッ!
パシィンッ!
「おほぉっ!」
「おふぅっ!」
くっ! どんなに軽く叩いてもいい音がしやがる。なんか悔しい。
ケレナとニュクスのキリッとした顔が途端に恍惚と緩んで18禁顔に。瞳がトロンと蕩けて、だらしなく開いた口からトロリと唾液が糸を引いて床に垂れ落ちた。
「あっ、そうデス。《痛覚強化》」
ニュクスさん!? 何をしていらっしゃるんですか!?
その魔法は身体の感覚、それも痛覚限定で強化するものだぞ! 場合によっては拷問にも使われる凶悪な魔法を自分に!?
そもそもこのハエ叩きに付与してあるでしょ!
「ふっふっふ。さすが我が同志です。自分に魔法をかけるとはいいところに目を付けました。やはり一定の痛みでは物足りなかったようですね」
「これで身体の奥底から焼けるような強烈な痛みを感じられマス……ハァ……ハァ! もしや先輩も?」
「はい! ご褒美の時にはよく使用しますから! もちろん今もかけていますよ!」
「……どうデスカ? 使い心地ハ」
「天にも昇る地獄の痛みとだけ述べておきましょう」
「ゴクリ……」
天にも昇る地獄の痛みって矛盾してないか?
というかニュクスさん。
くっ! 懇願の上目遣いが可愛すぎる!
それにしても……
「へぇー。ケレナっていつもそんな
「え? あ、そ、それは……」
「本当のドМなら自身の身体だけでお仕置きを受け止めると思っていたんだがなぁ。ケレナはその程度のドМだったのか?」
ペシィン!
ピシィッ!
パシィン!
「おほっ! おふっ! あっ、あぁっ! しゅ、しゅごい!」
「で? どうなの? ご主人様が問いかけてるんだけど」
「冷徹なご主人様しゅごい! ご、ご主人しゃまの言う通りでごじゃいましゅ! わたくしめが間違っておりました! ドМと称しながら自ら禁じ手を……家畜風情が勝手な行動をして申し訳ございませんでしたぁー!」
「そうだよなそうだよな。普通ならお仕置きしている子に
「魔法をかけてもらえるようにいやらしくご主人様に媚びます!」
「その通り。正解だ。今回は特別だ。正解したご褒美を受け取れ」
ケレナのお尻を叩く……かと思いきや、突然のニュクスへの攻撃。ぺちり。
「エッ? 何故ワタ……キャァァアアアアアアアアア! 昇天しちゃうゥゥゥウウウウウウウ!」
「え? ご主人様お預けですか? それはさすがに……」
自分が叩かれると思っていたところの
このお尻ペンペンは二人とも予想外だったはず。
そして、珍しく嫉妬したケレナに《痛覚強化》の魔法をかけて不意打ち。ぱちん。
「おほぉぉぉおおおおおお! しゅごいぃぃいいい! 自分で魔法をかけるよりもしゅごいのぉぉぉおおおおお! おほぉぉぉおおおおおお!」
ニュクスは崩れ落ち、ケレナはビクンビクンしながらも必死に椅子を続けている。
ケレナよ。その根性だけは褒めてあげよう。君は変態だ。
おっと。どこからか水が噴き出す音が聞こえているようないないような。
全て樹のせい……ではなく気のせいだろう。
『――――!』
「……ん? 今、嬌声とは別の声が聞こえたような……」
ムワッと蠱惑的な甘い香りが充満する中、よく耳を澄ませる。
『――――! ――――ぁ!』
確かに聞こえた。女性の声だ。一体誰の声だ、と思った瞬間、ケレナの寝室のドアが壊れんばかりに勢いよく開け放たれた。
「ユ~グ~ド~ラ~シ~ル~さ~まぁぁああああ! ここでござるかっ!? 今、一瞬膨大なユグドラシル様の波動がまき散らされ……おほぉぉぉおおおおおお! ここは何でござるかぁああああ! 部屋一面瑞々しい植物が生え、空気は深淵なる森よりも深く澄んだ葉の匂いがぁっ!? おっふぅっ! これは土の香り! 力強い大地の香りも! なによりも満ち溢れる雄大な自然! 世界そのものの力の塊ぃぃいいいいい!?」
そこには、
「わかる……わかるでござる。感じてしまうでござるよぉぉぉおおお! 身体を駆け巡るこの大自然の力が! 人の身では太刀打ちできないこの荒々しく暴れ縦横無尽に育つ世界の波動が! 母なるユグドラシル様の存在が!」
恍惚と陶酔した表情のエルフの全身がビクンビクンと小刻みに痙攣し始める。
「尊い……尊すぎるでござる! おほっ! おほぉ! おほぉぉぉおおおおおお! ――尊死ッ!」
えーっと、どうしよう……?
数多の経験から、これは無視すべき、関わり合いになると面倒なことになる、と本能が教えてくれている。
そうか。類は友を呼ぶと言うが、変態が変態を呼んでしまったか。
「無視したいけどなぁ……けど、無理だよなぁ……」
あはは、と遠い目をして現実逃避気味に力なく笑う。
その視界の端で、ブリッジ? 海老反り? のようなのけ反った体勢でビックンビックンと気持ちよさそうに小刻みに痙攣するエルフの姿がずっと映り続けていた。
================================
これ、大丈夫ですよね? 警告がきませんように!
今まで大丈夫だったからセーフのはず!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます