第322話 長風呂

お待たせしました!

お風呂担当のランタナの出番ですよ! 


これ、ギリギリセーフですよね?

================================



 目覚めると、目の前には美女がいた。いや、美女を抱きしめて寝ていた。

 ジャスミンとリリアーネ、エリカ、他の使い魔たちならよく抱き枕にして寝ているのだが、今日は違った。


「な、何故ランタナがここに……!?」


 いるはずのない、一緒に寝るはずのない女性ランタナが腕の中にすっぽりと収まって、綺麗な寝顔を披露していた。寝顔も美人だ。

 俺の声が聞こえたのか、優しい橙色の琥珀アンバーの瞳が開かれる。


「……おはようございます、殿下」

「お、おはよう」

「よく寝られましたか?」

「お、おかげさまで」


 抱きしめられているにもかかわらず、ランタナは一切拒絶してこない。

 小さく欠伸をして、子猫のように顔を軽く擦り付ける。何この可愛さ。

 えーっと、俺ってもしかしてランタナに手を出してしまった、とか?

 冷や汗がダラダラと出る。


「すみません。私もつい寝てしまいました……」

「あっ、うん。ソウナンダー。で、どうしてランタナはここに?」

「……覚えていないんですか?」


 困ったような表情で上目遣い。破壊力抜群だ。それは反則。


「実は全く覚えていない。すまん! 俺、何かしたか!?」

「そうでしょうね。何かされたと言われると、今の状態でしょうか? 城に戻ってきた後、殿下のご様子を伺いに来たのですが、寝ぼけた殿下にベッドの中に引き込まれてそのまま抱き枕に……私も今起きたところです」


 マジか……全っ然覚えていない。


「私なんかを抱き枕にして寝にくくありませんでしたか?」

「……いや、温かいし柔らかいし心地いいし気持ちいいし良い香りがするし、今すぐもう一回寝そうなんだけど。ランタナ。専属の抱き枕にならないか?」


 何言っているんだろう、俺。

 まだ完全に疲労が抜けきっていない。寝ぼけて頭が働かない。それに、寝過ぎて逆に疲れている気もする。

 俺の半分冗談、半分本気の言葉をランタナは真剣に考え、


「ふむ。殿下を監視するには専属の抱き枕になるという選択もありですね」

「……そこは普通に拒否してくれ。ただの冗談だ」


 名残惜しいが、起きることにする。

 もっと寝たい。けど、それよりも空腹が酷い。お腹が減りすぎて胃が痛い。何かを食べなければ。身体が栄養を欲している。

 ベッドの上は屍累々。ジャスミンとリリアーネとヒースが爆睡していた。起きる気配は微塵もない。


「うぅ……お腹が……腰が……」


 抱き枕にされていたから、身体がカチコチに固まっていたのだろう。なんかごめん。

 ゆっくり身を起こして、同じく空腹のお腹をナデナデ……かと思いきや、急に恥ずかしさを思い出して顔を赤くしながら身体を隠す……。


「ぐふっ!」


 俺の心にクリティカルヒット!

 あのランタナさん。その動作だけを見たら、濃厚な夜を過ごして朝を迎えた恋人なんですよ。

 無自覚か! 天然か! エロ過ぎる!


「どう、しました?」

「な、何でもない! さぁーて、何か食べるかぁー」


 と起きたのだけれど、


「準備できていませんよ」


 ですよねー。ごもっとも。

 現在時刻は真夜中らしい。丸一日寝ていたようだ。道理で身体がカチコチなのか。寝過ぎだ。でも、それでも抜けない疲労。どんだけ疲れていたんだろう、俺は。

 食事を用意するには時間がかかるらしいので、先に風呂に入ることにする。

 服を脱ぎ、身体を流して、ふと隣に人の気配が。

 そこには、タオルで前だけを隠したランタナの姿があった。


「な、何故ランタナがここに……!?」


 このセリフ、本日二度目です。

 艶めかしい首筋。滑らかな鎖骨。タオルを押し上げる隠れ巨乳。引きしまった腰回り。そして、惜しげもなく披露されている肉付きの良い美脚。

 大事なところを隠しているのに、何故全裸よりもエロいのだろう。


「《魔物の大行進モンスター・パレード》が終わったとはいえ、まだ非常時ですから。殿下が逃げ出さないように監視します」


 護衛じゃなくて監視なんだな……。


「さすがの俺でもこの状況で城を抜け出すことはしないぞ」

「そう思いたいのは山々ですが、今までの殿下の行動を考えると信じることはできません!」


 信用ないな俺! うん、知ってた!


「だからといって風呂までついて来なくてもいいのに」

「…………」


 ジト目で睨む無言のランタナ。その顔には『信用できませんから!』と書かれている。

 俺なんかのために身体を張りすぎなんだよ。


「ランタナさんの好きにしてください」

「そうさせていただきます!」


 湯船に浸かる。温かなお湯が全身に染み渡り、身体の凝りが解けていくのを感じる。


「ぼぇ~……ぎもぢいいぃ~……」

「はぁ~……そうですねぇ~……」


 あまりの気持ちよさに、だらけきった声が漏れる。堕落しそう。

 ランタナの蕩けきった声を聞いたのは初めてかもしれない。

 とろ~んと緩みきった可愛い顔に火照った肌が色っぽい。肌に浮かんで伝い落ちる透明な雫が美しい。

 というか、タオルで身体を隠さないの? 全部丸見えですよ。肌が触れ合うくらい近くにいるし……。

 ランタナが気にしないのなら、そのままでもいいかなぁ。


「ランタナ」

「はい」

「お疲れ様」

「はい……殿下を守り切れず申し訳ございません」


 あぁー、俺って暗部に連れて行かれたことになっていたか。その時はランタナにキスして油断したところを眠らせたんだっけ。

 彼女はグッと拳を握る。


「もっと強くならなければ……」


 どこまで強くなるつもりなんだか。王国でも五本の指に入るくらい強いのに。

 俺は固く握られた彼女の手に触れ、優しく開かせる。


「殿下?」

「ほら、力を抜いて。お風呂は疲労を抜く場所だぞ。脱力脱力」

「それもそうですね……いいお湯です」


 ランタナがチャプンとお湯を肩にかける。波が俺にも届いた。

 いいお湯だ……力が抜ける……何も考えず、ただただお湯に身を委ねる。


「あ゛ぁ~……」

「ふぅ~……」


 俺たちのだらしない声が浴室に反響して消えていく。

 隣の美女の吐息を聞きながら目を瞑り、自分の体内に意識を集中させる。

 疲労によって体内の魔力に淀みができている。魔力を使いすぎたからなぁ。魔力の淀みは疲労が長引く原因の一つでもある。

 ゆっくりと淀みを正常にしていく。

 ついでにランタナの魔力の様子も探ってみよう。さっきから手を繋いでいるから探るのは簡単だ。


「ランタナも疲れているな。魔力が凝り固まっているぞ」

「魔力が凝り固まる?」

「あれっ? 聞いたことない? 筋肉に疲労が溜まって硬くなるように、魔力も疲れると固まるんだ」


 知りませんでした、と驚くランタナ。

 彼女の体内はカチコチだった。今までの頑張りの分もあるだろう。頑張り屋さんだから。


「俺が解すこともできるけど、全身を触る必要があるんだよね。メイドの誰かに……」

「……わかりました。少し目を瞑っていてください」

「えっ? あっ、はい」


 言われた通りに目を瞑る。

 チャプンとランタナが立ち上がる音を耳が鮮明に拾い、波紋を身体全身で感じたかと思うと、何かの重さが身体に乗り、柔らかくてスベスベなもので包まれた。


「ラ、ランタナ!? 何故抱きついて……!?」

「ど、どうぞ」

「どうぞって何が!?」

「これならば見られる心配もありませんし、全身を触れると思います」


 俺の身体に正面から抱きついているランタナ。

 裸で抱き合うなんて傍から見たら誤解される。そんな体勢。対面の座位。

 隠れ巨乳が押し当てられている。


「む、胸が……」

「気のせいです!」

「は?」

「き、気のせいです! すべて殿下の気のせいです!」


 胸を押し当てているのは恥ずかしいから黙ってろってことね。なるほど、了解。しかし、耳まで真っ赤だぞ。

 だからランタナは身体を張りすぎなんだよ。どうしてそこまで頑張る?

 まあいいや。彼女の頑張りに報いよう。

 彼女の温もりを感じながら、体内の魔力に意識を集中。触れ合っているところから凝りを解していく。


「んぁっ!?」


 ぴくっと反応して声を漏らした。


「大丈夫か?」

「は、はい。びっくりしただけです、はい」


 身構えるように身体に力を入れるランタナ。だが、解しているのは魔力だ。身体に力を入れようが入れまいが関係ない。

 魔力の凝りを揺らし、揉み解し、溶かす。淀みを正常な流れへと修正する。


「んっ……んくっ……んんぅ~っ!」


 ぎゅっと抱きついてくる。噛みしめた口から漏れ出る艶めかしい声がエロい。

 何故ランタナは俺の理性をぶっ壊しに来るんだろうか。わざとか?


「気分は悪くないか?」

「だい、じょうぶ……です。んっ! 気持ちいいだけ、ですからぁっ! あぁんっ!」


 盛大に放った喘ぎ声。パッと口を押えた時にはもう遅い。バッチリ聞いてしまった。

 ランタナのエロい声だからこそ、破壊力がデカい。

 煩悩退散! 煩悩退散!


「……続きを……してください……」

「いいのか?」

「…………」


 無言。でも、コクリと小さく頷く気配がした。

 ならば続けよう。


「んっ、あっ、あぁっ、んんっ……!」


 大きくなる嬌声。

 心を無にするんだ、俺!


「そ、そこ……いい……あっ……きもちいい……」


 耳元でささやかないで!

 素数を数えろ! 2、3、5、7、11、13、17、19、……


「んっ、んっ、んんっ、んぅ~~~~っ!」


 ピクピクと小刻みに震えるランタナ。

 声を漏らさないようにか、俺の首筋に噛みつく。それでも声を抑えられていない。

 頑張れ、俺の理性! 堪えるんだ!

 どのくらいの時間が経ったのだろう。5分? 10分? 30分? 1時間? 永遠にも感じる時間だった。

 理性を総動員させて、何とか体内の魔力の淀みを消し終わった。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


 ランタナは何度か小刻みに震えながらぐったりと脱力してもたれかかり、首筋に荒い吐息を吹きかけてくる。

 もはや事後だ。

 言っておくが、俺たちは何もしていない。何度襲いそうになったかわからないけど。

 あぁ~疲れた。主に精神的に。よく理性を保つことが出来たと思う。

 疲れを癒すためにお風呂に入ったのに、何故心身ともに疲れ果てることになっているのだろう。不思議だ。


「ランタナ……大丈夫か……」

「はい、なんとか……身体がポカポカして、スッキリした感じです……身体が軽い……」


 ポカポカしているのはお風呂に入っているからだと思います。

 魔力の凝りを解したから魔法の発動がスムーズになるんじゃないかなぁ。


「その……気持ち良かった、です……」


 その感想はいらなかった。あれだけ頑張った理性にひびが入る。あと一撃何かあったら、木っ端みじんに砕け散るだろう。


「殿下、一つ言わせていただいてもいいですか?」

「いいぞ。俺もランタナに言いたいことがあったんだ」

「あの、殿下……」

「ランタナ……」


 お互いに言いたいことは何となくわかっている。

 ずっと裸で抱き合っていたんだ。言わなくても伝わっている。

 俺たちは同時に告げた。


「私、のぼせて動けません……」

「俺、のぼせて動けないんだが……」


 長湯に加えて、裸で抱き合うことの興奮と魔力の凝りを解す際の快楽によって、俺たちは見事にのぼせて身体に力が入らなくなってしまっていた。

 立ち上がることはおろか、動くことさえできない。

 どーしよ。

 俺たちはボーっとした頭で何もできず、ただただ抱きしめ合う。



 のぼせて動けなくなった俺たちを、湯船に浸かったまま寝ていないか確認しに来たソラとエリカによって救出されたのは、およそ3分後のことだった。










================================

さすがランタナさん。

ヒロイン章でもないのにヒロインをしている。


描写はセーフですよね?

ただの魔力循環的なことですし……


ここまでやったのなら一線超えろよ! と叫びたいです。

残念ながら、二人とものぼせてしまいました。

お預けです。


ちなみに、もっとエロく書こうとして踏みとどまったのはここだけの話。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る