第320話 龍の降臨と終息
1秒に10体以上のモンスターが飛び出している。全て形は同じ分裂した複製体。
この中心にいる”オリジナル”を倒せば《
”
「アイツを倒せばいいのだな?」
這い出すモンスターを手を休めることなく殲滅しながら、ビリアは冷静に”オリジナル”を観察している。
どこか物足りなさそうな雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。
増殖の元凶の場所へ来たせいでモンスターの数が少ないのが不満なのか?
道中の四方八方から襲い掛かってくる大群と戦っている時は生き生きしていたのに。
チラッチラッと『貴殿に襲い掛かっていいか?
「だが、倒してしまうと……」
「地脈が放出します」
「このモンスターを見て思っていたが、やはり人為的か」
「そうですね。人為的に引き起こされたものでしょう」
モンスターの隙間から、地面に薄っすらと魔法陣が描かれているのが見える。
さっきはビュティが突然”オリジナル”を倒してしまって余裕がなかった。だが、今ならわかる。
魔法陣の全ては見えないから詳しい効果はわからない。
推測するに、地脈から魔力を引き出す、という効果だろう。
「犯人の捜索はドラゴニア王国に任せて、私たちは目の前の状況を止めましょう」
「そうだな」
「地脈は私が何とかします」
「その間は
お互いに準備と覚悟は整った。
俺の背中はビリアに任せる。世界広しと言えども、ビリアほど守護者に相応しい人物はいない。
しかし、彼女は休戦中の敵国所属だ。完全には信用できない。
……頼むから俺の期待を裏切らないでくれよ。
目配せをして、頷き合う。
「ハッ!」
呼吸を練り上げて集中したビリアが真紅の槍を一閃した。
世界が一瞬だけ真紅に染まる。空間が斬り裂かれる。
たったの一振りで周囲の”
モンスターで埋め尽くされていた目の前の空間が空白地帯へと変わる。
「《思考加速》、《多重思考》」
俺は即座に魔法を発動。あらゆる出来事に対応できるよう、思考の速度を加速させる。
世界がスローモーションになった。
地面に手をつき魔力を放出。同時に魔法陣の全貌を把握し記憶。
「……くっ!」
飛び出そうとする膨大な地中の魔力を押しとどめながら、別の思考で魔法陣の解析する。
ふむ。トラップも仕掛けられていないシンプルで綺麗な魔法陣だな。
効果はただ一つ。地脈を手繰り寄せ、魔力を放出すること。
放出の量を制限する術式もあるようだ。
そのシンプル過ぎる効果のため、魔法陣を解除しても地脈の魔力を防ぐことはできない。
トンネルを開けて出口の大きさを制限する魔法陣と言えば想像しやすいだろう。
魔法陣を破壊しても制御されていた出口の大きさが広がるだけ。
地脈の放出を防ぐには、出口だけでなくトンネルごと崩壊させるしかない――今俺がしているみたいに力技で。
――ズキリ。
頭痛がする。魔法の副作用だ。脳の使い過ぎ。
手の爪が弾け飛ぶ。腕に裂傷が走る。手の甲の血管が内側から破裂する。
「貴殿。血が」
問題ない。世界を流れる自然の膨大な魔力に抗っているんだ。反動で怪我を負うのは想定内。
さっきよりも怪我は少ないくらいだ。
ビリアに守られること数分。
魔力は全て地脈へと還り、正常な流れとなった。もう魔力が噴き出すことはない。
「終わりました。守ってくださり感謝します」
淡々とモンスターを殲滅していたビリアは無言の一礼で返答。
怪我は治癒魔法で癒した。血の跡も消す。
ふぅ。疲れた。猛烈に疲れた。肉体よりも精神的に。
ごっそりと魔力が減ったので身体が怠い。今すぐに寝たいくらいの倦怠感と疲労感。
――《思考加速》、《多重思考》を終了。
ズキッと頭を猛烈な鈍痛が貫いた。
この頭痛がデメリットだな。情報過多による脳の許容量と処理能力の超過。
くっ……頭痛い。
”オリジナル”は倒した。もう増えることはない。
あとは未だに残っているモンスターを討伐すれば《
その時――
「「 っ!? 」」
俺たちは同時に振り返った。視線の方向は王都の方角。
正確には、今俺たちがいる場所と王都の間だ。
「……感じたか?」
「はい」
何だこの異様な感覚は。本能が、第六感が、何か違和感を訴えている。
疲れた身体に鞭を打ち、周囲の状況を探る。
これは……
「モンスターの数が急速に減っている……?」
探知できるモンスターが予想外の速度で少なくなっていく。
冒険者や騎士たちが倒したわけではない。周囲に彼らの存在は感じない。でも、確かに減っている。
ビリアもそれを感じ取っているようだ。
「まさか……行くぞ!」
俺たちは来た道を引き返す。そして、驚愕の光景が目に入った。
「共食い……だと!?」
モンスターがそこらじゅうで互いを貪り合っていた。
急速に数を減らしていた原因は共食いだ。
触手で貫き、抉り出し、かき混ぜ、引き裂き、叩き潰し、巨大で醜悪な口で引き千切る。
体液が噴き出し、地面に水たまりを作る。
断末魔の甲高い悲鳴が耳をつんざく。水っぽい咀嚼音に吐き気を催す。
モンスター同士で喰らい合い、奇怪な肉塊が蠕動したかと思うと、急速に膨らみ、一回りも二回りも大きくなって力を増した。
そしてまた、近くの同族に喰らいつく。
「醜悪だな」
「そうですね」
さすがのビリアも不快感を露わにしている。
俺が王都内の”オリジナル”を潰した時はこういった現象は起きなかった。他の場所でもなかった。
推測するしかないが、一つ思いついたことがある。
それは、全ての”オリジナル”を倒せば、残ったモンスターが共食いを始めるようプログラムされていた、というものだ。
相手は人工のモンスター。可能性は高い。
このままだと最終的に最も強い個体のみが生き残って暴れる。要は一種の【蟲毒】だ。
驚異的な再生能力。
魔力吸収の能力。
分裂・増殖能力。
実に厄介な能力を持っているモンスター。生半可な攻撃は相手のエネルギー源になるだけである。
もう既に王都を囲う防壁に迫る大きさになっており、冒険者や騎士たちの放つ魔法を吸収してさらに成長している。
「貴殿はアレを倒せるか?」
「倒そうと思えば……」
「しかし、周囲に甚大な被害が広がる、か?」
「……はい」
王都に近すぎる。それに、この場から攻撃をするとモンスターの巨体の先に王都がある。
攻撃が外れたり貫通したりすると、王都に直撃してしまう。
倒すなら場所を変えなければ。
「やるしかありませんね」
「
頼もしい相手だ。ビリアとは仲良くなれそうな気がする。
俺たちは武器を構えて呼吸を整えた。
足を踏み出そうとしたその瞬間――
「――どうやら
『GaaaAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
巨大な咆哮が世界を揺るがし、ビリアの声がかき消された。
猛々しい雄叫びと共に
ドラゴニア王国を守護する白銀の龍の降臨だ。
剥きだした長大な牙。鋭利な爪。煌めく白銀の鱗。しなやかな巨体を虚空でくねらせ、空色の瞳で王都を脅かすモンスターを睥睨している。
「……あれが龍。ドラゴニア王国の神龍かっ!」
ビリアが呆然と見上げる龍が再び咆えた。
強大な力が溜まっていくのを感じる。白銀の巨体が輝く。
世界最強種族の降臨により、モンスターは恐慌に陥った。そして、膨大な魔力に引き寄せられ、触手を伸ばす。
怯えながらも刻まれた
「モンスターが暴れて……拘束を!」
俺が行動する前に、空から歌が降ってくる。
『《捕縛の歌》』
不気味なほど美しいセレンの歌声。龍を崇める巫女のように舞っている。
心にまで浸透してくる歌姫セレンの歌が魂を縛り上げ、モンスターに刻まれた
ニヤリ、と龍が笑った気がする。
『GoooAAAAAAAAAAAAAAAA!』
空に向かって放たれた白銀の《
直視できない眩い白銀の光はモンスターだけを正確に撃ち抜いた。
まるで巨大な光の柱が空へと立ち昇っているかのよう。
光が消えた時には、モンスターは細胞のひとかけらも残らずに世界から消滅していた、
恐ろしいことに、モンスターを倒したこと以外、周囲への被害は一切ない。衝撃も震動も何もかも感じない。
まさに神の裁きの光。
役目を終えたと言わんばかりに、神龍は雄たけびを放つ。
それがきっかけとなって、我に返った冒険者や騎士、そしてドラゴニア王国の国民たちから一斉に歓声が巻き起こった。俺たちがいる場所まで歓喜に沸く声が届く。
「終わりましたね」
「そう……みたいだな……」
あっけない幕切れというか、肩透かしを食らったというか、現実離れした夢を見ている気分だ。
彼女は何を思っているのだろうか? わからない。
「念のため、討ち漏らしがいないか確認しながら帰りましょう」
「ああ。そうしよう。残っていたら大変だからな」
俺たちは周囲を探索しながら王都へと凱旋する。
王都に無事に到着した時には、いつの間にか、神龍はどこかへと飛び去っていた。
夜空では
こうして、ドラゴニア王国の王都に甚大な被害をもたらした《
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お読みいただきありがとうございました。
オーロラと龍?
あれっ? これってポケ〇ンの映画で見たような気が……?
こう思ったのは作者だけでしょうか……
これにてモンスター・パレードは終了!
あと数話でこの章も終わる予定です。
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