第241話 情報提供

 

この作品のレビュー数が995人・・・!?

いつもありがとうございます。


あと五名、星を入れてくれてもいいんですよ?

いえ、もっと大勢、入れてくれてもいいんですよ?

|ω・`)チラッ……チラチラッ


本編をどうぞ!

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 頭が痛い。ぷくーっと腫れて痛い。頭の上にたんこぶが……。

 ヒースも涙目で頭を撫でている。

 調子に乗ってエリカを揶揄ったら、拳骨を貰ったのだ。あぁー痛い。

 女性陣の自業自得という目もすごく痛いです。心に突き刺さるぅ~。


「反省してください。王子と皇女がすることですか!?」

「ギャウッ!?」

「キュウッ!?」


 トドメと言わんばかりに、丁度頭のてっぺんにチョップを落とすエリカさん。ドSだ。ドSのメイドがここにいるぞ。

 もっと言ってやれ、というジャスミンと近くで護衛するランタナの眼差しが俺の心に罅を入れる。リリアーネは紅茶のカップを優雅に傾け、テイアさんは幼女二人の相手中。

 リリアーネさん? それはわざと無視してますよね? 気づいてるからね。

 俺に味方はいない。


「んっ?」


 話題を逸らすために会話のきっかけになるものを探していたら、ふと、路地から二人組の男が出てくるのがこのオープンテラスから見えた。

 知的そうな男とホストのようなチャラ男だ。俺たちに気づいて会釈し、近づいてくる。

 密かに俺たちを護衛していた近衛騎士が立ち塞がるが、俺が許可して招き入れた。


「お久しぶりです、殿下」

「久しぶりなんだじぇ~」


 リタボック金融のリタとボック。テイアさんが借金を返していた相手だ。あの時は、この二人の男のおかげでテイアさんを助けることが出来た。感謝している。


「よう! 久しぶりだな」


 彼らを知らない婚約者四人は、誰?、となっているし、テイアさんに関しては、二人を睨みつけて子供たちを背中に隠している。

 敵意丸出しの視線に気づいたのか、リタが苦笑して話しかけた。


「貴女もお久しぶりですね、テイアさん」

「……お久しぶりです」

「お元気そうで何よりですよ。セレネさんも」

「……」

「そんなに睨まなくても、私たちは何もしませんよ」

「そうだじぇ~。何もしないじぇ~」


 テイアさんのあまりの警戒の仕方に、女性陣も殺気だった。鋭い眼差しでリタとボックを睨む。彼らは抵抗の意思はないと示すためにホールドアップ。


「誰?」


 ジャスミンが女性陣を代表して質問した。


「金融業のお二人です。私の借金取りでした」

「リタボック金融のリタと申します。こっちはボック」

「ボックだじぇ~!」

「少し前まで、テイアさんには借金返済の催促をしておりました」


 悪びれもなく淡々と説明するリタ。実際、彼らは悪いことはなに一つしていない。全て合法。むしろ、良心的だった。


「リタボック金融? あのお人好し金融なの?」

「お人好し? ジャスミンさん、彼らのことを知っているのですか?」

「リリアーネは知らなそうね。というか、ここにいるほとんどの人は知らないでしょうね。リタボック金融は、悪い人からは容赦なく毟り取り、弱者にはとても優しく施しを与え、職まで斡旋するお人好し金融って密かに有名なの」


 この二人が……、と疑いの眼差しが襲っているが、事実なんだなぁ、これが。

 あっ、テイアさんは全然信じてないな。まあ、知らない土地に来て、借金を負わされ、毎日生きるのに必死過ぎてこういう話を聞く余裕はなかったのだろう。


「まあ、それはわかるかも……」


 肯定的な言葉を放ったのは、意外な人物、ヒースだった。


「なんて言うか、見た目は胡散臭いけど、中身は優しいというか、天邪鬼というか、表には出さないツンデレさんって感じがする……」


 じーっと全員の視線がリタに集まる。ツンデレ……。

 読心の能力を持つヒース。心を完全に読んでいないってことは、だんだんと夢魔の力をコントロールできるようになっているな。良いことだ。

 そこでズイッとヒースの前に立ち塞がる人物がいた。リタの相棒のボックだ。


「嬢ちゃん……!」

「ひぃっ!?」


 ヒースは突然凄まれて、怯えて目を瞑った。しかし―――


「兄貴のこと、よくわかってるんだじぇ~!」

「ふぇっ?」


 怒られる、と思っていたのだろうが、予想外の反応に思わず呆気にとられる。目の前のボックはとても嬉しそうに顔をほころばせていた。


「そうなんだじぇそうなんだじぇ~! 兄貴は優しいんだじぇ~! 他の人の前ではデレないツンデレさんなんだじぇ~!」

「ボック!」

「兄貴のことをよくわかってくれる人がいて、嬉しいんだじぇ~!」

「いい加減にしなさい!」

「あいてっ!? 痛いじぇ兄貴ぃ……」


 ボックの頭に拳骨を落としたリタ。もはや照れ隠しにしか見えなくなった。


「ボックが失礼しました」


 あぁうん……。なんか空気が気まずい。

 そっか、彼は知的な雰囲気を感じるツンデレさんなんだ……。

 取り敢えず、席を勧めて近づいてきた理由を聞こうか。


「わざわざデート中に来るなんて、何か理由があったんだろ?」

「はい。そうでした。殿下は『黒翼凶団』をご存知ですか?」

「黒翼凶団? 狂信者の犯罪集団がどうした?」


 何故突然、黒翼凶団の話を持ち出したのだろう?


「ねえエリカ。コクヨクキョーダン、だっけ? 知ってる?」

「はい姫様。悪魔系のモンスターを神と崇める狂信者たちです。犯罪者集団として各国のブラックリストに登録されている組織ですよ。所謂テロ組織です」

「なんでモンスターを崇めているの?」

「それを言ったら各国も崇めているかと……」


 それはエリカの言う通り。ドラゴニア王国は龍だし、フェアリア皇国は妖精などなど、ほとんどの国はモンスターに分類されている存在を崇めているのは間違いない。国旗にも反映されている。

 別にそれだけなら悪いことではないのだが……。


「姫様。信仰するだけなら自由なのです。しかし、黒翼凶団は別です。彼らが崇めるのは悪魔系のモンスター。悪魔は、対価を支払えばそれに応じた力を与えてくれたり、手助けをしてくれる、という厄介な特徴を持っています」

「あぁー。何となくわかったかも。その対価って言うのがダメなものなんだね。例えば命とか?」

「ご明察です。自分の命や他人の命。それを躊躇なく、見境もなく生贄に捧げる過激な集団が黒翼凶団なのです」


 悪魔系のモンスターは人を魅了し、惑わせ、堕落させ、時には力を与えてその様子を楽しむモンスターなのだ。負の感情や生命を喰らう存在。

 例えば、世界征服を願い、対価を支払って了承されたとする。そうすると、悪魔は周囲の人を殺し始めるのだ。悪魔の考え方からすると『契約者が世界に一人だけの存在になったら世界征服したってことだよね』ということらしい。

願えば対価を払えば聞き届けてくれる実行してくれる=神様である』というのが、黒翼凶団の信者たちの考え方なのだ。

 一応、淫魔と呼ばれるサキュバスやインキュバスも悪魔系のモンスターに分類されるのだが、彼らは精気を吸い取ると同時に、途轍もない快楽を与えてくれる。悪魔系のモンスターの中では比較的マシである。最悪の場合は、干からびて腹上死するけど。


「そのテロ集団がどうしたんだ?」

「先ほど、その構成員らしき人物とすれ違ったかもしれなくてですね。一応ご報告を」

「もっと詳しく」

「はい。近くの路地で男とぶつかったのですが、顔色が悪く、血の臭いがしました。謝りもせずに呟いた言葉が『我が神のために』。どこかへと立ち去っていきました」

「紋様は見たのか?」

「はい。右の鎖骨の辺りに、蝙蝠に似た悪魔の翼の刺青が」


 ほぼ確定か。見間違いの可能性もゼロではないが、警戒に値する情報だ。

 俺たちの情報網に黒翼凶団が王都で活動しているという情報はない。

 暗部も完璧ではない。親龍祭の期間中の今は人の出入りが多すぎる。


「ランタナ。城へ誰か報告しに行かせろ」

「はい! 皆様もお戻り下さい」

「ああ。そうする」


 ファナには念話をして……でも、コンテストの審査員になっているから動けないか。他の暗部も動かさないと。

 人が大勢いる場所でテロが行われたら大惨事だ。死傷者が大量に出てしまう。それだけは防がなければ。


「情報提供感謝する」


 さりげなくリタに情報料を手渡し、俺たちは席を立つ。もっとデートをしたかったけど、仕方がない。安全第一。デートなんかできる時にすればいい。



 はぁ……何もないといいけど。










<本編で書きたかったボツネタ もしくは IFストーリー>


「あぁ! ママをアイジンって言った人!」

「貴方でしたか、娘に変な言葉を教えた人は!」

「あ、あぁー……あの時のことですか。実際、事実ではありませんか? テイアさんがシラン殿下に囲われたことは噂になっていますし」

なっていません!」

「ほう……、ですか」

「うっ……!?」

「ねぇママ。アイジンってなぁに?」

「セレナはまだ知らなくていいわよ。いいえ、一生知らなくていいわ」

「セレネちゃん、アイジンって言うのはね、大好きな人って意味なんだよ」

「シランさんっ!?」

「お嫁さんとは違うの?」

「ほとんど同じ意味だよ」

「そうなの……? ママはにぃにぃのことが好きで、にぃにぃはママのことが好き! アイジーン! セレネと同じお嫁さーん!」

「…………シランさん、帰ったらお話があります」(静かな怒り)

「あっ……」



作者「このシーンを入れられなかった……悔しい!」




























≪本編には関係ないショートストーリー≫



『真紅の女王の微笑み』 その5



 高速で空中を疾駆する真紅の吸血鬼。灼熱に燃える流星が白銀の龍の巨体に直撃した。

 しかし、頑丈な鱗に覆われたその身体には一切のダメージはない。先ほどから何度も攻撃するが、全く効かない。もう呆れの笑いが出るほど。

 相手は、反撃と言わんばかりに大きな口を開けて咆哮。魔力を伴ったその轟音は、衝撃波となってファナの身体を吹き飛ばした。


「くっ!」


 力に逆らわず、勢いに任せることで衝撃を緩和。勢いが減速したところで背中の血の翼を利用して移動。ジグザグに移動したり、残像や幻を利用して攪乱。

 龍の真上から一気に急降下して、その巨体へと手のひらを押し当てた。


「《浸透波》!」


 掌底。体内へと衝撃波を伝える内部破壊攻撃。どんな生き物も体内を鍛えることはできないという弱点を突いた攻撃だ。が、強靭な龍の鱗はその衝撃を内部へと伝えることはなかった。

 身を捩る龍。たったそれだけで暴風が生まれ、再びファナは吹き飛ばされた。


「どんな体をしているのよ!」

『さあ? 自分ではよくわかりません。一つ言えるとすれば、この姿になると人化した時よりも数十倍は防御力や耐久力がアップしますね。もちろん攻撃力も』


 ガァアアアアアッ、と咆哮と共に放たれる龍の息吹ドラゴンブレス。極太の白銀の光が遥か彼方へと消えていった。もし、その先に山があったとしたらごっそりと消滅していただろう。街があったら一瞬で消し飛ぶ威力。

 真横を通り過ぎて行った閃光に、ファナは思わず冷や汗が流れた。

 直撃していたら、血の一滴も残らずに消滅だ。いくら不老不死とはいえ、全細胞を消し飛ばされたら死んでしまう。


『まあ、この姿が本来の私なのですが。これでも小型化してますけど』

「なんで貴女みたいな化け物龍があの坊やに仕えているのよ……。この王国の神龍でしょうが!」

『そのほうが楽しそうだったから、ですかね』

「……へぇー」


 やはり、あの坊やはただ者ではないらしい。身なりは良かった。どこかの貴族の子息なのだろう。

 それにしても、相手は白銀の龍。それはこのドラゴニア王国を守護する神龍。全ての種族の頂点に位置する最強種。

 そんな化け物を使役する少年が普通なわけがないか。ファナは妙に納得した。そして、興味が出た。

 聖域に引きこもっている神龍が現世に出てくるほどなのだ。余程、あの坊やは面白いに違いない。


『……それに、一人は寂しいですから』


 最後にぼそりと付け加えられた言葉。それが彼に仕える一番の理由なのだろう。ファナにはその気持ちがわかる気がした。

 彼女は一人というわけではない。従者たちが何人もいる。彼女の血を流しこまれ、主人と一緒に悠久の時を生きることになった血族むすめたち。

 従者たちに弱音を吐くことはできない。主人として自尊心プライドが許さない。

 周りに人はいれど、彼女はいつも一人。孤高で孤独。

 彼女が求めていたのは自分の隣に立つ者。弱音を吐いて甘えることが出来る者。遥か昔に求めることを諦めたパートナー。


 ―――羨ましい。


 そんな感情が彼女の中で湧き上がった。自分より化け物なのに、寂しさを和らげてくれる人物がいる。パートナーがいる。それが憎いほど羨ましかった。


『ふふっ。口説くのはご主人様にお任せしましょう。…………あと、隙があり過ぎですよ』

「っ!? しまった!」


 話しに夢中になり過ぎた。ハッと頭を切り替えるが、もう遅い。気づいたときには全身の骨が砕け散るほどの衝撃が彼女を襲っていた。


「かはっ!?」


 受け身も取れずに彼女は地面に激突する。彼女が墜落したところは、半径20メートルも陥没したクレーターが発生していた。

 手足が折れ曲がり、折れた肋骨が内臓に突き刺さる。血が口からこぼれ出し、呼吸ができない。


女王クイーン!?」

「ご無事ですか!?」


 丁度吹き飛ばされた先は、古城の目の前だった。屋敷から飛び出してきた従者たちが主人の惨状に驚愕し、その傷を負わせた上空の龍を睨め上げる。


「よくも女王クイーンを!」

「神龍と言えど許しません!」


 今にも龍に挑みかかりそうな半吸血鬼ダンピールたち。それを止めたのは主人であるファナだ。


「待ちなさい!」


 血を吐きながら身体を起こしたファナが従者たちを一喝した。吸血鬼の血が活性化していたからか、もう傷の半分くらいは再生していた。驚異的な回復速度だ。


「しかし!」

「我らが時間を稼ぎます!」

「止めなさい。あれは私の獲物。手を出したらダメよ」


 濃密な血と魔力を纏った真紅の女王が命じた。

 主人のどこか楽しそうな獰猛な笑みに気づいて、言いたいことを堪えた従者たちは一歩下がって一礼。命令に従い、戦いを見守るようだ。

 ファナは鮮血の翼を生やし、大きく羽ばたいて、横柄に睥睨していた龍の下へと向かう。


『良い従者たちですね』

「……そうね。私についてきた馬鹿なたちよ。本当にまったく……」


 そういう彼女はどこか嬉しそう。

 紅い双眸を輝かせたファナが、神龍の空色の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「そろそろ遊びも終わりましょうか」

『そうですね』


 二人は力を溜めていく。一方は真紅の力。もう一方は白銀の力。猛烈な二つの力が渦巻き、ゴゴゴッと空間が震動している。

 先に攻撃を行ったのはソラだ。


「《白銀の世界》」


 世界が白銀に侵食された。粉雪のような光が降り、美しく幻想的だが、触れた相手を傷つける凶悪な世界。

 光に触れたファナの身体が傷つき、溶け、ごっそりと消滅し、全身から血が流れ出す。


「ハハハハハ! アハハハハ!」


 血にまみれながら、ファナは狂ったように笑い続ける。

 全力でぶつかれる相手がいることが心地いい。痛みすら心地いい。実に気分が良い。

 膨大な魔力が迸り、体内の血が、流れ出た全ての血が、一ヶ所に集まり、凝縮して、一つの巨大な杭となる。


「《殲血の神杭ゲイ・ボルグ》!」


 それは白銀の世界を斬り裂き、猛烈な速度で真っ直ぐに龍の巨体へと突き進んだ。

 杭の先端が鱗とぶつかり、視界が真紅に染まった。

 世界を揺るがすほどの衝撃。空気が震え、地面が揺れる。それは遙か遠く離れた場所でも、その衝撃を観測したほどだった。

 十数秒は経っただろう。ようやく視界が元に戻った時、龍の巨体の姿はなかった。

 力の全てを出し切ったファナは、何とか気配を探ろうとした。その直後、懐から声がした。


「―――私の鱗が砕け散りました。誇っていいですよ」


 いつの間にか人化し、懐に潜り込んでいたメイドのソラが、白銀に輝く片手をファナの胸にかざしていた。


 ―――負けた。


 一瞬にしてファナは悟った。次の攻撃には耐えられない。

 元々勝てるとは思わなかった。相手が格上過ぎた。完敗。清々しいほどの負けっぷりだ。

 楽しい時間の終わり。ちょっとだけ寂しくて切ない……。


「《龍の白銀ドラゴン・レイ》」


 遊びを終わらせる最後の一撃。龍の息吹ドラゴンブレスにも似た極太の光線が放たれた。その光にファナは呑み込まれる。

 遥か遠くまで突き進んだ光が消え去った時、ファナの身体は首から下が消滅していた。

 生首だけとなったファナ。

 目を閉じた彼女は、重力に引かれるまま、地面に向かって落ちていく―――



<つづく> 次回で『真紅の女王の微笑み』最終話!

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