第235話 働く女性コンテスト
読者の皆様! お久しぶりです。
そして、長らく音信不通で申し訳ございませんでした。
何とか生きております。
詳しいことは近況ノートに書いておりますのでそちらをご覧ください。
では、第235話をどうぞ!
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レナちゃんとセレネちゃん。癒しの幼女天使が二人、女性陣に抱っこされている。
セレネちゃんはもともと俺たちと行動していたけど、レナちゃんも面倒を見るようにお願いされたのだ。
孤児院の他の子はクッキーの販売で忙しく、レナちゃんは幼児特有の大胆不敵な超積極的行動を起こす。正直に言うと、構う余裕がないらしい。
幼女天使にメロメロな女性陣はそのお願いを即座に了承。まるで妹か娘のように可愛がっている。
甘やかしすぎが心配だが、テイアさんがいるから問題ないだろう。いざという時は止めてくれるはず。テイアさんもレナちゃんのことを娘のように可愛がっているから。
「おねえたん……」
「ねぇねぇ……」
「「むぎゅー!」」
『きゃー!』
「あらあら」
まあ、こんな感じ。実に平和だ。
俺も混ざりたいんだけど、混ざろうとすると、邪魔するな、と女性陣に睨まれる。ガクガクブルブル……。
俺たちが向かっているのは王都の中央広場。普段は多くの人が行き交い、待ち合わせ場所や観光スポットと化している場所なのだが、今日は仮設ステージが建設され、とあるコンテストが開催されるのだ。
大商会であるファタール商会が主催の『働く女性コンテスト』だ。それにソノラが出場する。
まあ、コンテストとは名ばかりで、お店の宣伝を行うのがメインイベント。
実は、一日目と二日目は『働く男性コンテスト』が開催されていたりもする。
俺の知り合いは出場しなかったし、デート相手のセレネちゃんテイアさん親子やアルスは興味なさそうだったから近寄っていない。
「うわぁー。人が多い……」
「姫様、ご気分はいかがですか? 気分が悪くなったりなどは……」
「ちょっと頭がガンガンするけど大丈夫」
広場の人だかりで読心の能力を持つヒースの顔色が悪い。
顔色が優れないのも無理はない。あらゆる感情が無差別にヒースを襲うのだ。
防御の魔道具を与えているけど、心を読めない恐怖を知ったヒースは完全には遮断していないらしい。
こういうのは、雑音のように聞き流すのが対処法なのだが。
「それに、こうすれば平気だもん!」
スッと俺の手を握り、腕に抱きつくヒース。
それくらいなら喜んで。
「あ、あれっ? エリカ、邪魔をしないの?」
「それくらいならいくらでもどうぞ」
「そうなの? なら、私のおっぱいを押し当てて、シラン様を誘惑するぞ!」
ヤる気……じゃなくて、やる気に満ち溢れているのは可愛らしいけど、心の声が駄々洩れですよヒースさん。なんてざん……おっと、心を読まれそうだからこれ以上考えるのは止めよう。
「うぅ……」
「エリカは何故泣いてる?」
「ぐすっ……失礼しました。姫様の押し当てるほどもない胸のことを考えるとつい涙がこぼれてしまい……」
「エリカ酷い! 私泣くよ! 泣いちゃうよ! 私は絶賛成長中なの! いずれエリカを超えてバインバインになるんだからぁ~!」
クールで毒舌なメイドとポンコツ残念な主人が仲良く漫才をしている。
エリカは本当にヒースのことが好きみたいだ。わざとヒースを揶揄って、周囲の心の声から意識を外させている。
全てエリカの思惑通り。
まあ、ヒースは若干精神的ダメージを受けて俺に泣きついているけど。
「最近、エリカの毒舌が酷くなっている気がする」
ジト目のヒース。ケロッとしたクールなすまし顔のエリカ。
「『はて? 何のことでしょう?』じゃない! 私、心が読めるんだよ!」
「おっと。つい癖で」
「癖っていうのはどっち!? 心で答えること!? それとも毒舌!?」
どっちもだろうなぁ。
おっと。読心の能力を持たないはずのエリカにニコッと微笑まれた。これ以上変なことを考えてはいけない。
「そろそろ始まるみたいよ」
ジャスミンからの肘撃ちが飛んできた。地味に痛い。
ステージを見上げると、司会であろう女性がマイク型の拡声の魔道具を手に取っていた。
『皆さま、大変お待たせいたしました! 私は今回の司会を務めさせていただきますクロフォンと申します。よろしくお願いしまーす!』
元気溌剌な声が広場中に響き渡る。盛り上がる観客。熱気が凄い。
『おぉー盛り上がってますねぇ~! おっ、ナニナニ? 早く始めろ? いいでしょう! 豪華ゲストもいらっしゃっていることですし、無駄な話などすっ飛ばして始めたいと思いまーす! では、第一回働く女性コンテストの開幕です!』
観客の野次をうまく利用して開幕が宣言された。パチパチパチ、と拍手喝さい。
『まずは豪華ゲストをご紹介いたしましょう! 最初はこの御方! ドラゴニア王国の第一王子にして王太子! エルネスト・ドラゴニア殿下ぁ~!』
えっ? エルネスト兄上? 俺、聞いてないんですけど。
初耳だったことで呆然としていたら、ゲスト席に兄上が護衛を伴って現れた。にこやかに微笑んで民衆に手を振っている。
女性の黄色い歓声が凄いこと。流石エリン母上の血を受け継ぐ
歓声に応えた後、兄上は席に座った。
あっ、椅子を引いたのはマリアさんだ。チラッと視線を交わし合いイチャついている。
さっさとくっつけこの野郎~!
『お次は、このコンテストの主催、ファタール商会から商会長ファナ様!』
見覚えのある金髪紅眼の美女が登場した。滅多に表に出ないファナの登場に男たちが歓喜に沸く。
吸血鬼という種族は魅了の権能もあるからなぁ。魅了の権能無しでもファナは物凄い美人だし。
ファナは見事な営業スマイル。
おっ? 俺たちを見つけたようだ。はっきりとこっちを見た。
『はぁ~。太陽が眩し過ぎる……』
『……頑張れ』
『はぁ~い』
やる気なさそうな返事で念話が途切れる。営業スマイルは途切れない。
その後、他のゲストの紹介や、スポンサーの貴族や商会の名前が述べられ、ようやく出場者の登場となる。
順番は登録順らしい。
『エントリーナンバー1番。貴族御用達の高級料理店『龍の息吹』から、指名1位の超人気ウェイトレス! ケマさんです!』
拍手の中現れたのは露出度多めのドレスを着飾った美人。胸元は大きくはだけ、身体にぴったりとしたデザインのドレスが身体の曲線をこれでもかと主張している。深いスリットがいやらしい。
この人は前に一度出会ったことがある。ソノラに絡んでいた人だ。
『ケマと申します。ご来店されたら、ぜひわたくしをご指名くださいね。たっぷりとサービスさせてもらいますわ』
さりげなく、そしてあざとくマイクを持ちながら豊満な胸の谷間を強調。スリットから覗く生足が眩しい。
観客の男たちは鼻を伸ばし、彼女から目を離せない。
とどめに投げキッス。男性たちは骨抜きだ。
うわぁお。エルネスト兄上にもウィンクをしている。露骨……。
突然、俺の腕が痛いくらい強く握られた。ふと見れば、ヒースが俺を見上げている。その顔ははっきりと、不満です、と言っていた。
「うぅ~」
「姫様、嫉妬する必要はありませんよ」
「でもでも……あの人、スタイルいいしおっぱい大きいし……男の人ってああいう人が好きなんでしょ?」
「いえいえ。断言しますが、あのような方は旦那様が嫌いなタイプですね」
なんでエリカさんが断言するの?
「そうね、シランは嫌うわね。露骨だし胡散臭いし」
「なんかこう、恋愛から程遠い感じがしますね。お金とか地位が好きそうです」
「あの男と同じ目をしています。自分が上じゃないと気が済まず、上に居ることで優越感に浸り、弱い者を見下して跪かせて従わせたい、というような目です」
ジャスミンとリリアーネも冷静に観察し、テイアさんまでが辛辣に述べる。
女性ってこういうのに鋭いよなぁ。特に同性には。
同じ女性として感じるものがあるのだろうか?
「本当にそうなの、シラン様?」
「まあ、その通りなんだけど……皆さん、なんでわかるの?」
皆は一斉に答える。
「婚約者だから!」
「婚約者ですから」
「婚約者ですので」
「経験済みですので」
約一名、珍しく無表情で
ヤバい。だ、誰かぁ~! テイアさんを助けて! 闇落ちしかけているぞ!
こういう時は最終兵器『
「ママァ~」
「あらあら。セレネは可愛いわね」
よ、よかったぁ。いつものおっとり系美人の母親に戻ったぞ。
流石癒しの天使。この可愛さに抗える者などいない。さらに、自分の愛娘だと効果は絶大。
全員がホッと息を吐く。
いろいろとドタバタしているうちに最後の人物紹介になったようだ。
『では、最後の出場者です! エントリナンバー11番、レストラン『こもれびの森』の看板ウェイトレス! ソノラさんです!』
ガッチガチに緊張して、手と足が一緒になりながらステージに上がってきたソノラがぺこりと一礼した。大勢の観客を見渡して更に顔が強張り、青白くなる。
『『『『 ソノラちゃ~ん! 』』』』
一斉にソノラの名前を叫ぶ一団が。
あっ、一番前の席を陣取った商店街のおじちゃんおばちゃんたちか。ソノラは商店街のアイドルだからな。
小さい頃から王都を駆けまわり、仕事を手伝い、おばちゃんたちの井戸端会議に参加し、人懐っこい笑顔でおじさんたちの疲れを癒していた。
本人には自覚はないが、ソノラの顔は途轍もなく広くて人気者なのだ。コンテストの優勝予想が1位になるくらいに。
知り合いの顔を見つけて、ソノラは若干緊張が和らいだらしい。マイクをギュッと握りしめ、震える唇を思いきって開く。
『初めまして、ソノラです! よろしくお願いします! …………あっ、私が働く『こもれびの森』もよろしくお願いしまっしゅ!』
…………最後の最後で噛んだ。
広場に集まった全員が思ったはずだ。
でも何故だろう? ほのぼのと癒されて和むのは本当に何故だろう?
顔が真っ赤に染まり、ソノラは泣き出しそう。
こんな感じで『働く女性コンテスト』は開幕した。
<本編には関係ないショートストーリー>
『小さなレストランの歌姫』
これは、シランが生まれるずっと前の出来事・・・
夕暮れの王都の街を冒険者風の服を着た三人の男が並んで歩いている。
「殿下、そろそろ城へお帰りになったほうが」
「うるさいぞ、リシュリュー。偶には俺にも息抜きをさせろ」
眼鏡をかけた青年がリーダー格の青年に提案するが、あっけなく却下される。城へ帰るつもりはないらしい。
一人では説得できないと察したリシュリューと呼ばれた青年は、もう一人の大柄な青年を巻き込むことにする。
「王太子である貴方がお忍びなど……レペンス、貴方からも殿下に言ってやってください!」
「はっはっは! 偶には良いではないか。こういうお忍びも今だからこそ出来るのですぞ」
「ユリウス? レペンス? どこが偶にですか、二週間前も同じことを言っていましたよね? その前の週も言っていましたよね?」
「「……」」
幼馴染のジト目を青年二人は目を逸らすことで躱す。
リシュリューがユリウスをを呼び捨てにすることなど滅多にない。余程イライラが溜まっているらしい。
しかし、そのイライラもすぐに呆れに変わる。もう長い付き合いだ。
昔から変わらぬ二人の反応に、はぁ、とリシュリューは深い深いため息をついた。
臣下として主のお忍び癖を矯正させなければならない。いっそのこと、縄でグルグル巻きにしたほうが良いのだろうか?
友の暗い考えを敏感に察知したのか、ユリウスは冷や汗を流しながら咄嗟に言い訳をする。
「そ、そう! これは嫁探しでもあるのだ! 嫁探しだ嫁探し。どこかに素敵な女性はいないかなぁ~?」
「殿下にはアンドレア様がいらっしゃるでしょう? それに先日、フェアリア皇国のビフレスト侯爵家次女エリン様との婚約も決まったばかりではありませんか」
「それはそうだが、次期国王として、俺は王国の平民の女性と結婚する義務がある! そうだろ?」
「そうですが……」
再びリシュリューはため息をついた。
嫁探しと言われると何も言えない。それがユリウスの義務だからだ。
「あまり長く城を空けると問題になりますな。どうしますか? 女性といえばやはり娼館ですかな?」
「レペンス……俺は暗部の巣窟には行きたくないぞ。それに、妻にするなら下着姿が似合う女性が良い!」
男らしくキッパリと断言するユリウス。しかし、発言内容がとても残念だ。
殿下、と呆れながらリシュリューが言い放つ。
「胸の大きな女性が一番に決まっています!」
「「異議あり!」」
あ~だこ~だとお互いの性癖の議論という馬鹿話をしていると、お腹が空いてきた。そろそろ夕食にちょうどいい時間だ。
「腹が減ったな」
「そうですね」
「そうですな。というか、ここはどこですかな?」
「「さあ?」」
レペンスの問いかけにユリウスとリシュリューまでもが首をかしげる。
話に夢中で、どこかの路地に迷い込んでしまったようだ。お忍びでよく探索しているが、この辺りは見たことが無い場所だ。
キョロキョロと辺りを見渡していると、ユリウスの耳がピクリと動いた。
「何か聞こえないか?」
「私には何も」
「殺気は感じられませぬ」
「……こっちだ」
何かに導かれるようにユリウスは路地の奥へと突き進む。二人は慌てて追いかけた。
迷路のような道を進むと、視界が開けた。
ぽつんと佇むログハウス。まるで絵本の中の妖精の世界から飛び出してきたような幻想的な建物があった。
中から良い匂いと綺麗な歌声が外に漏れている。
「歌?」
「それに空腹を刺激する美味しそうな匂いもしますな」
「どうやらレストランのようですよ。隠れ家レストラン『こもれびの森』。このような場所があるなんて知りませんでした」
「入ってみるか」
ドアを開けると、カランコロン、と優しいドアベルが鳴る。
内装は温かな色合いで、和やかな雰囲気。穏やかな笑顔に満ち溢れ、綺麗な歌声が耳と心を癒す。
三人は空いている近くの席に座り、歌声の聞き惚れる。
歌は終盤を迎え、名残惜しいが終わってしまった。一瞬の静寂の後、店内は拍手喝采。
美しい笑顔を浮かべて拍手に応じた美女が、三人のテーブルに近づいた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりかしら?」
歌を歌っていたのはどうやら店員でもあったらしい。リシュリューとレペンスはハッと我に返りメニュー表を覗き込む。ただ一人、ユリウスだけは店員の女性から目を離せず声をかけた。
「素晴らしい歌声だったよ」
「あら、ありがとう」
「劇団に所属したりしているのかい、歌姫さん?」
「劇団? いいえ、してないわ。ただ歌が好きなだけよ、冒険者には見えない冒険者さん」
「ふむ……どうだろう? 俺のところへ来ないか?」
あっさりとナンパし始めた王子。メニュー表を睨んでいた臣下の二人が慌てて顔を上げた。
「ちょっ!? でん……ユリウス!」
「油断も隙も無いですな。ナンパは控えてくだされ」
言葉は諌めているようだが、声音や表情は諦めモード。言っても無駄だと悟っているらしい。
三人のやり取りを女性はクスクスと楽しげに笑い、
「ふふっ。あなたたち、やっぱりお忍びの貴族様かしら? 折角のお誘いだけどお断りするわ。私は自由に歌っていたいの」
「そうか……なら、せめて名前だけでも教えて欲しい」
残念そうだが全く諦めていないユリウスのことを上から下まで観察し、瞳の奥まで覗き込むと、まぁいいわ、と言いたげに女性は頷いた。
「名前くらいなら教えてあげる。私の名前はディセントラ。この隠れ家レストラン『こもれびの森』で偶に歌わせてもらっているただのウェイトレスよ」
これが、のちのドラゴニア王国国王ユリウス・ドラゴニアと第三王妃ディセントラの初めての出会いであった。
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※近況ノート『生存報告ぅ……』
URL:https://kakuyomu.jp/users/Crohn/news/1177354054922787051
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