第184話 赤い魔女からの緊急依頼
冒険者パーティ《パンドラ》として俺、ソラ、ピュア、インピュア、
週に一回ほどこうして街を歩き、ギルドに行ったほうが抑止力になる。Sランク冒険者パーティを見れば、犯罪などしようとする気が無くなるだろうし、冒険者たちも大人しくなる。極一部は、腕試しとして襲い掛かってくるが、威圧すれば一瞬で気絶してしまう。
ギルドに入ったら、黒いフェンリルの獣人の女性がすぐさま近寄ってきた。超人気受付嬢で、俺たち《パンドラ》の専属受付嬢でもあるシャルだ。狼耳をピコピコ、尻尾をフリフリと動かしている。
「パンドラの皆さん、こんにちはー! 今日はどのようなご用件で?」
「依頼の確認や、情報を知りたくて来ました」
冒険者の時の俺の口調は敬語だ。一人称も俺から私に変えている。若干言いづらい。
「奥の部屋へどうぞー!」
シャルが、尻尾をフリフリさせながら、奥の部屋へ案内してくれる。他の男の冒険者からの嫉妬や殺意の視線は気付かないフリをしながら、俺たちも後に続く。相変わらずシャルは人気者のようだ。
案内された部屋のソファに座るが、毎度おなじみの光景が広がる。
「どうやっても逃れられない運命なんですね……」
「はい、逃れられませんね」
「いい子いい子ー」
「きゃうん……」
二人にされるがまま。
「シャル、報告を」
「はいですぅ! お勧めしたい依頼が一つありますぅ!」
ビシッと背筋を伸ばしたシャルが、自棄になってハキハキと報告した。目は相変わらず涙目だけど。
「ふむ、どのような内容ですか?」
「えーっとですね、ダンジョンに一緒に潜って欲しい、という内容ですね。つい先ほどご依頼がありました。前報酬500万イェン、成功報酬500万イェン。成果によっては追加報酬もあるそうです」
何という破格な依頼内容。成功すれば1000万イェンか。Sランク冒険者を雇うとしても多すぎるくらいだ。それだけ難易度が高い依頼なのだろうか。それとも、長く拘束される依頼か。
もう少し聞かないと判断できない。
「依頼人を探してきましょうか? 依頼人は冒険者だったので、まだギルド内にいるかもしれません」
「ええ、お願いします」
依頼人と話すことも重要だ。依頼はお互いの信頼も必要。特に護衛や合同のモンスター討伐の依頼では。誰でも信頼できない相手に命を預けたくないはずだ。だから、依頼人と話せるなら話したい。
シャルは嬉々として立ち上がる。
「では、行ってまいります!」
シュパッとシャルが部屋から出て行った。そして、30秒ほどで戻ってきた。いくら何でも早すぎない?
「依頼人を連れてきましたー」
若干声が沈んでいるのは気のせいだろうか。いや、気のせいではないだろう。
依頼人も空いているソファに座る。黒いローブを羽織った魔法使いの女性。俺とあまり年が変わらず、意志が強そう。髪は燃えるように赤く、瞳は真っ赤な
「今回依頼をお願いしたアルストリアです。よろしくお願いします」
少し硬い声で言い、アルスが礼儀正しく一礼した。真面目な口調のアルスは凛として美しい。
依頼人はアルスか。あんな高額な報酬を用意して、一体何がしたいのだろう。ダンジョンということだが、目的は攻略か? でも、何故他の人に頼み込む?
使い魔の何人かが、アルスを見て首をかしげる。
「ん? 貴女、ローザの街にいた人?」
「こここ。なるほどのぉ。道理で見たことがあったのか」
インピュアと神楽はアルスを見たことがあったらしい。ローザの街ということは《
「あっ、はい。あの時は助けてくださってありがとうございました」
「アルスさんは戦友なんですよー。一緒に
シャルと戦友。一緒に戦ったのか。
んっ?
「依頼の内容を詳しく教えてください」
「はい。依頼内容は、私と一緒に迷宮都市ラビュリントスにあるダンジョン『亡霊の迷宮』の攻略です」
「攻略ですか」
「期限は、出来れば今日から一週間以内です。前報酬は500万.成功報酬も500万。最下層のボスのドロップアイテムだけ私にください。その他のアイテムは全てお譲りします。追加報酬も考えています」
真剣さがにじみ出ている。そして、隠しきれない焦りも。
俺の知り合いだから、依頼を受けてもいいとは思う。でも、『亡霊の迷宮』かぁ。出来れば行きたくないなぁ。
「率直に言うと『亡霊の迷宮』の攻略は可能です」
「本当ですかっ!?」
「はい。ですが、何故一週間以内と急ぐのか、理由を聞かせてください」
アルスの顔が一瞬だけ凍り付いたように見えた。胸の赤い百合水仙のネックレスを触りながら、心を隠し、台本を読むかのようにスラスラと説明を始める。
「実家からの命令です。私が冒険者を続けるのなら、力を示すようにと。一週間以内に『亡霊の迷宮』を攻略し、最下層のボスのドロップアイテムを見せることが条件です」
嘘だ。アルスは嘘を言っている。普通の人なら騙されるだろう。でも、王族として育った俺には通用しない。
何か理由があるのだろう。思いつくことはいくつかあるが、彼女が話してくれるまで待つか。
知り合いくらい、俺の手が届く範囲くらいは助けたい。
「わかりました。その依頼を受けます」
「本当ですか!? では、今すぐ行きましょう!」
立ち上がって今にも飛び出していきそうなアルスを制止する。
「ちょっと待ってください! 我々にも準備があります。出発するのは明日の早朝です」
急ぎたい気持ちはわかるが、すぐに行くことはできない。出来ても明日の朝一だ。これは譲れない。
アルスは、気持ちをぐっと堪えて、何とか納得した。
無言で頷いた彼女は、爪が喰い込むほど拳をギュッと握りしめ、唇を噛みしめていた。
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