第109話 判明

 

 《死者の大行進デス・パレード》が終結してから三日が経った。

 被害も全て判明した。冒険者や、戦闘に参加した街の住民が何名か亡くなったけど、街には一切被害はない。

 小国なら滅びてもおかしない規模の《死者の大行進デス・パレード》。ドラゴニア王国も大きな被害が出るはずだった。

 しかし、極々最小限の被害で終息したことで、『ローザの奇跡』と国内外問わず、大きく報道されている。

 あの戦いで大活躍したジャスミンは、まだ目覚めていない。ずっと気持ちよさそうに眠り続けている。

 たぶんそろそろ目覚めると思う。寝返りが多くなった。

 俺はジャスミンのベッドに座り、本を読んでいる。動きたくても動けない。俺の足をジャスミンが抱き枕にしているからだ。

 我が愛しの幼馴染 兼 婚約者様は、口をむにゃむにゃと動かし、気持ちよさそうに俺の足を抱きしめ、ズボンにべっとりと涎を擦り付けている。

 いや、まあ、うん…。別にいいんだけどね。洗えばいいし。嫌じゃないし。子供っぽくて可愛いし。

 俺がジャスミンを愛でていると、ドアがノックも無しに開いて、一人の少女が入ってきた。

 紫色の髪を持つ、十歳前半に見える顔立ちと体つき。白衣を着た少女。体中から眠気と怠さが放たれ、ポワポワと不思議ちゃんの雰囲気を醸し出している。使い魔のビュティだ。

 彼女はポワポワしながら片手を上げる。


「………結果が出た」

「なんのっ!?」


 話が全く分からず、思わず声を裏返してしまった。

 間の説明をすっ飛ばして、いきなり結論に行かないでください。わかりませんから。

 パチパチと半開きの目を瞬かせると、ポムっと手を打った。


「………おぉー。説明してなかった。ジャスミンが呪いを浄化した件の結果が出た」


 そういえば、報告にあったな。ジャスミンは皇子プリンスリッチに呪われたけれど、何故か浄化されてしまったらしい。

 ジャスミンが目覚めてからビュティに検査をお願いしようと思ってたけど、もう結果が出たのか。流石だ。

 ビュティが手に持っていた検査結果に目を落とす。


「………結果は副作用、いや、副次効果だった」

「だから、なんのっ!?」


 だから説明をすっ飛ばさないでください。俺には全然わからないから。

 眠そうなビュティは、白衣のポケットから瓶に入ったある液体を取り出す。俺でも知っている液体だ。


「それは…美容液か?」

「………そう。ジャスミンが使用している美容液。これはシランの意見を採用して作った飲む美容液。解毒デトックス効果や生命力の活性化とか、身体の中から綺麗にする美容品」

「それがどうした?」

「………材料は?」


 材料? 俺は使われたであろう材料を思い浮かべる。


「世界樹の樹液とか果実、不死鳥の涙だろ?」

「………そう。他にも、ピュアの、一角獣ユニコーンの角とか、インピュアにも付与とかしてもらったけど、その通り。シランが言った材料を使ってる」


 伝説上の素材をふんだんに使ったあり得ないほど高価な美容品だな。だから効果も物凄い。最近、ジャスミンやリリアーネの美しさに磨きがかかって大変です。

 んっ? 待てよ。俺が言った素材って浄化とか解呪の力を持ってるよな?

 ビュティがゆっくりと頷く。


「………シランもわかっただろうけど、これの美容液には解呪の力もあった。傷や魔力の回復効果もある。思わぬ副次効果だった」


 ビュティは、悔しさと嬉しさが入り混じった顔をしている。この効果があったことに気づけなくて悔しさを感じ、作った薬が良い効果を発揮してくれて嬉しくなっているのだろう。


「………美容液だから即効性はない。でも、持続性がある。というか、そういう風に作った」

「美容液だもんな。持続したほうがいいか。ということは、徐々に回復するってことか?」

「………その通り。リリアーネで試した」

「試したっ!? リリアーネに何をした!?」

「………ピュアに頼んで呪いをかけてもらった」

「呪いだと!?」

「………大丈夫。簡単な呪い。リリアーネも了承済み」


 ビュティは淡々と述べる。リリアーネが了承したならいいけど…。あまり危険なことはさせないでくれ。ビュティもピュアも信頼してるけどさ。


「………リリアーネには、語尾に『にゃん♡』や『ナリ』をつける呪いや、幼女退行する呪い、自分の胸を揉みまくる呪いをかけてもらった。その結果…」


 結果を言おうとするビュティの言葉を大声で遮る。


「ちょっと待て! リリアーネが語尾に『にゃん♡』や『ナリ』をつけたり、幼女退行したり、自分の胸を揉みまくったのか!?」

「………そう。可愛かった」


 ビュティが小さな手でサムズアップする。

 俺の目から血の涙がドバドバと溢れ出す。

 くそう! 何故俺はその場にいなかったんだ。何故呼んでもらえなかったんだ! 呼んでくれよ! リリアーネの可愛い姿を俺も見たかった!

 今度お願いしてみようかな。


「………結果は良好。少ししたら呪いは浄化されて元に戻った」

「なるほどなぁ」

「………というわけで、今のところ結果はこんな感じ。私は実験に戻る。調べたいことが山ほどある。急いで調べなきゃ」

「はいよー。ありがとな。何かあったら連絡よろしくー」


 実験に戻りたくてウズウズし始めたビュティを、王都の屋敷の彼女の部屋へと送り届ける。

 美容液にそんな効果もあったとは…。絶対に身内にしか渡せないな。母上や姉上たちにも忠告しておこう。悪用されたら面倒だ。でも、母上や姉上たちは美容液を使っていれば呪われる心配はないのか。それはありがたいかも。

 う~ん…そうなると、父上たち男性陣にも渡しておきたいなぁ。何か考えるか。

 俺が悩んでいると、俺の足を抱き枕にしていたジャスミンが身動きを始めた。














<おまけ>


《とある実験にて》


「………リリアーネ。返事」

「はいにゃん♡ にゃにゃにゃっ!? 語尾がにゃんになってますにゃん♡ にゃおぅ♡」

「………グッジョブ」




《別の実験にて》


「………リリアーネ。返事」

「はいナリ! はわわっ…。語尾が変化してるナリ! あわわわわ…」

「………ふむ。これはこれであり」




《また別の実験にて》


「………リリアーネ。返事」

「リリィはね、リリィなのっ!」

「………エクセレント」




《またまた別の実験にて》


「………リリアーネ。喘声」

「ひゃぅんっ♡ あっあぁっ♡ 手が勝手に! んぅっ♡」

「………なかなかの技術テク。シランに仕込まれた?」


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