数字の刻印
──ヒッヒー、ヒヒッ!
軽快な笑い声を上げながら、
適当な部屋の中に入って、僕らはそれをやり過ごした。
狼の姿が遠退いたところで、僕らは梅宮が潜んでいる書斎へと駆け込んだ。
「ひぃっ!」
梅宮ははじめ、敵襲とばかりに緊張した面持ちになっていた。しかし、入って来たのが僕らと分かると、ホッとして胸を撫で下ろした。
「なんだい、アンタらかい。驚かせるんじゃないよ。ビックリするじゃないのさ」
「梅宮さん、話を聞いてもらえませんか。貴方にやってもらいたいことがあるんです」
「やってもらいたいことだって?」
梅宮が首を傾げる。
「何だい? 私を吊して、
警戒心を剥き出しにする梅宮に、僕は肩を竦める。
「そんなことお願いする訳がないでしょう。……貴方には園田さんの為に働いてもらいたいんです」
園田──その名前を聞いた瞬間、梅宮の眉がピクリと動いたように見えた。
「散々、園田さんの財産を使って好き放題
「園田さん? ……何で、
梅宮の声が震えた。
梅宮の様子が可笑しいことに疑問を抱きつつも、僕はさらに話を続けた。
「園田さんは貴方たちのせいで、首を吊ろうとしていたのですよ! 彼がこれまで築いてきた地位も財産も、すべて貴方たちが台無しにしたんです。そのことで、かなり気に病んでいましたよ」
「そんな……。園田さんが首を……」
どうにも梅宮の様子が変だ。みるみる顔が
「……分かりましたよ。園田さんの為になるのであれば、私も協力しましょう。……あの人の呪縛も、消えたことですしね」
──あの人の呪縛?
梅宮の言葉は不可解であったが──兎も角、協力してくれるというのであれば、これで事態も好転していくことであろう。
──イヤッハァァ!
ところが、その楽しげな声は唐突に身近なところから聞こえてきた。
音を殺して忍び寄っていた狼が、奇声と共に梅宮に向かって腕を振るったのだ。
梅宮は弾き飛ばされて床に倒れた。
「あっ!?」
僕は思わず叫び声を上げてしまう。
倒れた梅宮の肩に『1』の数字が刻まれていた。
──ブメエェエェエエッ!
ドアの外で、
「ひ、ひぃぃいいっ!」
梅宮は悲鳴を上げて屈み込んだ。
扉を開けて、羊が部屋の中に顔を覗かせた。
──しかし、羊はそれ以上に襲ってくることはなかった。
狼の方もそんな梅宮には目も暮れず、次に僕に狙いを定めてきた。
「ヒャッハーハー!」
狼が長い手足をくねらせながら身構える。
僕はこれまでの狼と羊の行動から、なんとなくその生態を推察していた。
この狼と羊の死神は対になっている。狼がターゲットに番号を振る役で、羊がそれを順々に狩る役目といったところか。
以前、米飯が『1』梅宮が『2』僕が『3』の刻印を刻まれたことがあった。
その時、羊は『2』や『3』の僕らには見向きもせず、『1』の刻印を持つ米飯のみをターゲットに襲い掛かっていた。
そんな、米飯が居なくなると、次に狙われたのは若い数字を持った梅宮だ。
そういえば米飯が居なくなった後、刻印の数字も一つずつ繰り上がっていた。若い順から狙われていくシステムなのだろう。
──でも、単に刻印があれば羊に襲われるというわけでもないようだ。
複数の刻印──『2』以上の数字が刻まれてから、ようやく羊は動き出すらしい。
現に羊は、『1』の刻印を持つ梅宮を前にしても襲ってくる気配はない。
だとすれば、僕にできることはただ一つである。
僕は狼に背を向けて、入り口に向かって走り出した。
「退けぇっ!」
扉を塞ぐように立っている羊に、ひかりの体のまま突っ込んだが弾かれてしまう。勢いのまま床に倒れた。
うかうかなど、していられない──。
顔を上げた僕は梅宮に向かって叫んだ。
「約束して下さい! 生き延びたら、園田さんの濡れ衣を晴らすために協力してくれると!」
「勿論じゃ。協力しよう」
梅宮の返事に、僕は頷いた。
「できるだけ僕から離れて下さい。死神たちを引き付けて、できるだけ時間を稼いでみます」
僕は立ち上がると、再び羊に向かって突っ込んだ。今度は、体毛の間を縫って廊下に出ることができた。
羊に闘争の意思はなく、目を瞑ったままボーッとしていた。
「ヒャァァァアアッハァアア!」
怒り狂ったような狼の雄叫びが書斎で上がる。
──狼に『2』の刻印を刻ませてはならない。
僕は狼から逃げるように、廊下を全力で走った。
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