軽快な狼は爪痕を刻む
──ガチャリ!
とある部屋の扉を開けて中に入ると、デスクで俯いている白髪の男性が目に入った。
米飯とは違うが、その男性もかなりのお年を
「美智子ちゃん……。君のために頑張ってきたのだが。私は……それなのに……」
ブツブツと独り言を呟いていた男だが、こちらの気配に気が付いて突然顔を上げた。
「な、なんだね。君は!?」
「あ、いえ……。すみません! 間違えました!」
今はメイドに
僕は平謝りをして、そそくさと部屋から出て扉を閉めた。
——そんな感じで、時折、部屋の中に人が居る事もあったが、順々に部屋を確認していった。
作業的に扉の開け閉めを繰り返していると、ようやく
本棚には
部屋の中に人影はなかった。
ひかりが言っていた目印を思い返して、窓の外に目を向ける。──窓から噴水が見える。
そう言っていたはずだが、窓の外に噴水は見当たらない。どうやら、場所が違うようだ。
メイドも、書斎は十部屋存在していると言っていたから、ハズレの部屋を引いてしまったらしい。
他にも書斎があるらしいから、再び扉の開け閉めを繰り返さなければならない。すぐに当たりを引ければ良いのだが、なかなか骨の折れる作業である。
溜め息まじりに廊下へ出たところで、何者かの気配を感じて振り向いた。
手足の長い異様なフォルムをした毛むくじゃらな生き物が立っていて、こちらをじーっと見詰めていた。
「うわぁぁっ!?」
僕は反射的に悲鳴を上げて
長い手足をフリフリと振るったその獣は──
「ヒャハァッハー!」
それにしては動きが不可解で、まるで骨が入っていないかのように手足は軟体に
僕は自分がメイドの体に憑依していることを思い出し、ホッと息を吐いた。あの
──そう油断していると、狼が
「あっ!」
この狼も先程の猪と同じく、生者に攻撃を加えられる
──が、いくら待っても痛みなどは感じなかった。
恐る恐るゆっくりと目を開く。
目に入ったのは胸部に刻まれた『3』という数字。知らぬ間に、服の上からそんな刻印がされていた。
「えっ!? 何だよ、これ?」
慌ててその数字を触ってみる。
何かで
それにしても、
全身を見回してみるが、その他に外傷はなかった。
狼は僕に刻印ができたことに満足したようだ。それ地上には、何もして来ようとはしなかった。
「ヒャハッハッ!」
「何だい、ありゃあ……」
狼の背中を見送りながら、僕は首を傾げた。
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