5.戦う意志は強く①


「へえー……こんな小さい道具で、教会に行って能力値を聞くのと同じことができるんだ?」

「そうよ、凄いでしょ。いずれは全世界に流通すると思うな」

「あたしでも欲しいくらいだし、普段から魔物と戦ってる人にとっては必須レベルになりそうだね」


 ルエラちゃんに協力を――と言っても、可能な範囲でと予防線を張って――申し出た僕たちは、その後入口付近の広間に場所を移してくつろいでいた。他のメンバーが行ったり来たりする広間で、僕たちはこれまでの旅の思い出を語り、その中で説明した魔具についてルエラちゃんが興味をもったことから、実物を引っ張り出してきたという流れだった。

 自分の能力値は確かめたかったが、忘れたままになっていたので、この機会にと僕は魔具の効果をルエラちゃんに実演してみせる。


≪基礎能力≫


 体力……172

 魔力……101

 攻撃力……140

 防御力……114

 魔法攻撃力……91

 魔法防御力……93

 敏捷性……106


≪熟練度≫


 剣術士……321

 武術士……250

 弓術士……201

 魔術士……185

 癒術士……201


≪最終ランク≫


 ランク……6


「……はい?」

「あ、トウマの能力値は有り得ないんであんまり気にしないでねー」

「いやいやいや! 何その熟練度、やばいよ……」

「あはは……まあ、こうなってるのがコレクトの力なんだ」


 そりゃ、この数値を見た人は十中八九驚くよなあ。リューズで魔皇アルフを倒して弓術士スキルをコレクトしたおかげで、弓術士の熟練度も前に測定したときからかなり上昇しているし、そろそろランク七になってもおかしくなさそうだ。

 数値に満足して頷く僕の手から、半ばぶんどるようにして魔具を取ったセリアも能力を測定した。


≪基礎能力≫


 体力……151

 魔力……148

 攻撃力……65

 防御力……83

 魔法攻撃力……140

 魔法防御力……107

 敏捷性……85


≪熟練度≫


 剣術士……0

 武術士……0

 弓術士……0

 魔術士……198

 癒術士……43


≪最終ランク≫


 ランク……3


「むー、基礎能力はだんだん上がって来てるわね。熟練度はこのくらいまで上がると伸びが悪いか……もうちょっとで二百なんだけど」

「僕もコレクトした弓術士以外はほぼ上がってないからね」

「普通は全く上がらないもんよ?」

「それはまあ、そもそも使えないんだろうから……」


 使えないスキルの熟練度が上がるわけもない。僕はコレクトのおかげで使えるから上がっているだけだ。俗に言うチートなのだ。

 勇者の剣が使えない代わりに、過去の勇者たちが残してくれた……という背景はあるが。


「んじゃああたしも使ってみていい?」

「どうぞどうぞ」


 好奇心もあってか、セリアは快くルエラちゃんに魔具を渡した。見様見真似で彼女がボタンを押すと、すぐさま測定が始まり、宙空に結果が表示される。


≪基礎能力≫


 体力……210

 魔力……233

 攻撃力……80

 防御力……96

 魔法攻撃力……246

 魔法防御力……154

 敏捷性……97


≪熟練度≫


 剣術士……0

 武術士……0

 弓術士……0

 魔術士……293

 癒術士……37


≪最終ランク≫


 ランク……5


「……マジ?」


 ルエラちゃんの能力値を見た瞬間、僕もセリアも同じことを口走っていた。

 歳もほとんど変わらないルエラちゃんが、こんなにも高い能力を持っているだなんて。そこには魔術士の家系であるという要因ももちろんあるだろうが、そんなギフト以上に彼女の努力が影響していることは明らかだった。

 才能だけじゃない、何度も何度も戦いを繰り返して手にしたのがこの能力値なのだ。


「はは、こんなもんか。あたしの能力なんて一流に比べたらまだまだ低い方だよ、トウマくんの剣術士の熟練度だって、私の以上に高いじゃない」

「スキルを初めから十二個も持ってればそうなるよ」

「あたしも十一個は持ってるんだけどねー。昔っから、剣術の鍛錬をしてたとか?」

「うーん、そうとも言えるような言えないような……」


 元の世界で剣道を続けていたのは事実だが、それが熟練度に結びついているのかは疑問だ。明日花の勧めで半強制的にやることになったのだし、気乗りはしていなかったのだから、あまり技が身についているとは感じない。意識したのは最初にスライムと戦ったときくらいか。

 今更ながら、明日花は中々理由をこじつけて僕を剣道に導いたものだな。珍しい痣があるからといって、じゃあ剣道を、なんて発想にはならないような気がするが。

 ……彼女が、リバンティアでの大冒険を予測していたのでもなければ。


「あたしもこれくらい小さな頃から、父さんに魔法を教わってきたんだけどね」


 ルエラちゃんは、手を水平にして高さを表す仕草をする。しかし、その高さだと二、三歳くらいの身長なのだけど。……実際にそうだったのかもしれない。


「父さんはね――クラスマスターなんだ。多分、世界で一番強い魔術士のはず。能力値を見たらきっと腰を抜かすと思うよ」

「く、クラスマスター……!?」


 言葉を聞いただけで、セリアが驚いて聞き返す。そう言えば、コーストフォードで一度その用語を聞いたことはあったな。確か、昔の戦争の話だったか。


「十三番目のスキルを持つ人……だっけ」

「そうよ、トウマ。十三番目のスキルについては、その習得方法が判明していないというか、気の遠くなるほどの修行が必要だと言われてはいるけど、経験を積んで覚えたという報告をされたことがないのよ」

「だから、修行じゃなくて別のファクターがある、という風に考える人が今は多いね。あと、クラスマスターになった人はあえてそのファクターを隠している、とも」

「なるほど……だからちゃんとした覚え方が広まらない、と」

「そう」


 そのクラスマスターが、ルエラちゃんの父親であるロレンスさんなのか。過去の戦争では、クラスマスター同士の戦いが一大決戦になったというのだから、一人で数十人、下手をすれば数百人と同等の戦闘力を持っていることになる。

 帝国にとっては、この上ない戦力だ。そんな人物を牢に閉じ込めているのだから、相応に大きな理由があるに違いない……。


「十三番目のスキル――アルスノヴァについては、あたしも聞いたことがあるけどやっぱり教えてくれなかった。見せてくれたことはあるんだけどね。威力をセーブしていたはずなのに、とてつもない光景が目の前に広がった……」


 アルスノヴァ、か。……なんとなく、聞き覚えのあるワードな響きがあるのだがどうしてだろう。ファンタジーでは頻出のワードだったりしたっけ。残念ながら記憶を辿ってもすぐには引っ張り出せなかったし、ルエラちゃんの話も続いたので、長いこと思索に耽るわけにはいかなかった。


「あたしはあの魔法を見た日から、父さんと同じ高みを目指したいって心に誓った。今はまだ十一番目までしか覚えられていないけど、いつかは必ず。アルスノヴァを覚えてクラスマスターになってみせるんだ。そしてその姿を、父さんに見せたい」

「……ルエラちゃん」


 そのために、強くなるのはもちろんのこと、ロレンスさんを帝国の魔の手から救い出さねばならない。彼女がレジスタンスになったのは、とても自然な流れだったのだ。


「無謀なことをしてる自覚はあるけどね。ライン帝国を変えるなんて大それたことはできなくとも、せめて父さんは救えたら。私の目的はそこで達成だ。レジスタンスとしてはあまり良くないんだろうけど、皆もそれを認めてくれてる」

「まあ、目的は人それぞれって最初に言ってたしね。ゴールラインが違うのは仕方ないことなんだと」

「うん。トウマくん、優しいんだね」

「そうなのよね、心配になるくらいに」

「あはは……セリアもあんまり人のことは言えないでしょ」

「トウマよりはマシだから!」

「はは、仲良しだなあ」


 僕たちのコント染みたやりとりに、ルエラちゃんは笑ってくれる。終始暗い話だったから、最後くらいこうして笑うのは良いことだろう。


「それじゃ、もういい時間だし……食事にしようか。二人の分も作るように言ってあるから」

「やったー! そろそろお腹空いてきたのよね」

「あ、ルエラちゃん。セリアの胃袋は大きいんでそこだけ気を付けて」

「うるさいわよ、トウマ」


 和やかな雰囲気のまま、僕たちはレジスタンスの皆と夕食の席を共にした。テーブルに並んだ料理は質素ながらも工夫を凝らしたもので、僕もセリアも十分満足できた。

 そうして夜は更けていく。地下だから、空の移り変わりは分からないけれど。

 今日は久しぶりにぐっすり眠れそうだと、そんなことを思うのだった。

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