144 あちら側

 佐伯さんが言っていたあちら側。


 体が重い。


 狭い。


 人工人体保存容器の中なのだろうか。暗くて何も見えない。


 腕を伸ばし蓋を押し開ける。


 上体を起こすと、そこには見渡す限り整列させられた無数の人体保存容が置かれていた。佐伯さんの言うところによれば、ここは地下シェルターの中だろう。地平線という表現は正確ではないが、地平線の彼方まで棺のような容器が並べられている。深灰色のその容器は時折、何に反射してか黒く光った。


 紗那は容器から出ると歩き始めた。


 冷たい。きっとこれも誰かの魂と繋がっているのだろう。他の容器のふたを指先でなぞりながら、紗那は心の中で呟いた。


 遠くに巨大な円柱が見える。遥か上方まで伸びている。地下であるはずなのに天井を視認することができないほど上方に天井があるようだ。

 どれだけ歩いても似たような光景が広がるばかりで、出口を見つけることはできなかった。巨大な円柱が近づいていることだけが、紗那がこの広大な空間で位置を変えているのだという事実に気付かせてくれた。


 あてどもなく歩き続け、約一週間後、紗那はこの空間を覆っていると思われる壁に突き当たった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る