110 治療
居住エリア中心部 サボエリ区の診療所
ソミロキ・アマナさんが僕を診てくれる。
「記憶障害には必ず原因があるの」
アマナが言った。
この世界では大抵の人が、数百年から千年くらいの記憶を持っている。
ポコは新しい肉体を手に入れる前の記憶を持っていなかった。
「アマナさんは覚えてるんですか」
「覚えてるわよ。私も記憶障害で、ポコ君みたいな症状が出ちゃったこともあるけど、今は大丈夫。ポコ君もきっと思い出すから、安心して」
いつも通り目を閉じるポコ。
薄暗い室内に仄かな照明が灯りをともしている。香のかおりが優しく室内を満たしていた。
「見えるのは、目の前で跪いている人です。何人かいます。ただそれだけしか見えない。その後どうなったのかはわからない」
「跪いている人を見ているあなたは、その前はどうしていましたか」
「うーん。考え事かなあ」
ポコの眉間にしわが寄り、目をつむったまま天井を見上げた。
「なんか怖い感じがする。人が怖い。でもそれを表に出さなかったんだと思う。偉い人だったんじゃないかなあ」
「なんで怖いの」
「殺される…と思っていたんだと思う。とにかく人が怖かった。恐怖で押さえつけようとした。だから、怖がられるように振舞っていた。本当は人を傷つけたくなかった。怖がらせて、自分に人が近づかないようにしたのかもしれない」
ポコは泣き始めた。
「嫌だなあ。なんか思い出したくない感じがするよ。嫌だなあ… 」
ポコは何度も涙を拭った後、再び口を開いた。
「星を二つか三つ、滅ぼした気がする。僕を蘇らせてくれた人がいたんだ。僕を閉じ込めた奴らが憎かった。だから滅ぼした。でも今は、それはとっても悪いことだと思う」
ポコの嗚咽が漏れる。
突然、顔を引きつらせ体を震わせるポコ。
「嫌だ! なんでこんなこと思い出すんだ!! これは僕じゃない! こんなの嘘だ!」
「何が見えるの?」
「嫌だ! 嫌だ!」
頭を抱え身悶えるポコ。
「裸の女の人がベッドに横になっていて、恐怖で顔が引きつっている。僕はその女の人を犯した。自分の一番憎い人に復讐するためだ。その女の人はそいつの大切な人だったんだ。もう何もかもが、手遅れで僕が捕まるのは時間の問題だった。だから、やった。犯すだけでは足らず、首を食いちぎって殺したんだ。う!う!!あ!ああ!あ!!」
ポコは椅子から立ち上がると、床に頭を何度も打ち付け、拳で何度も床を殴った。
「記憶を消してくれえ! 僕を助けてくれえ!!」
「大丈夫。大丈夫よ」
アマナがポコの背中をさすった。
「ごめ!んなさい!ごめんな!!さい!!ごめんな!さい!!!ごめんなさい!!」
しばらくして気分が落ち着くと、ポコは再び椅子に座りなおし、最初から最後まで出来事を話し、何度もそれを繰り返した。
「僕はどうしたらいい… こんなに罪深いのに… どうやって償ったらいいんだ」
「そうね。それは明日話し合いましょう。ポコ君に来てほしい場所があるの」
ポコはアマナの目を見つめ頷いた。
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